6.初めての訓練


「ぐあっ!」


剣崎が吹き飛ばされる。

初めは30人弱居た僕達も、剣崎が倒れたことで動く人は居なくなった。

30人弱というのは魔法職の人達と非戦闘職の人が抜けているからだ。

因みに僕達の中で唯一、非戦闘職だった前田信宏は成り上がり系ではなくチート系鍛冶師だった。

ユニークスキルは鍛冶神の加護で、鍛冶全般に補正がかかるというものだ。


「おいおいどうした。 俺なんかに勝てないようじゃ魔王には手も足もでねぇぞ。 さあ、早く立て!」


僕達をこうした張本人が発破をかける。


僕は立ち上がろうとするも脇腹の焼けるような痛みのせいで力が入らない。


…ぐう、痛い。これ絶対折れてるだろ。


「まだ、やれます。」


剣崎が己の剣を杖にし、立ち上がる。


「よく言った。さあ来い!」


うおおおお、と剣崎が威勢よく駆け出した。

その直後、まるで再放送のように宙を舞う剣崎を見ながら、僕はどうしてこうなったと、思い返す。



1時間前―――――― 。


「これから戦闘訓練を始める!」


目の前で、紅い髪をした男が高らかに宣言する。

30代前半ぐらいの男は野性味溢れる美丈夫だ。

その男の後ろには甲冑姿の人や、ローブを着た人が10人ほど並んでいる。


「俺はお前たちの戦闘訓練の担当長になった近衛騎士団団長ガイル・アダマンだ、よろしくな。そしてこれからのお前たちの予定は午前に戦闘訓練、午後は魔物の特徴や、この世界のことを学ぶ座学を行う。」


僕達は円形の訓練場の真ん中に集められた。

訓練場は広く、直径800メートル以上ありそうだ。


「そして1ヶ月後、王立の学園である、ルーレンス学園に入学し、様々なことを学ぶことになっている。 ここまでで何か質問はあるか?」


学園キター!

いやでも、僕はモブだからもとの世界と変わらないか。

ふふ、異世界でも『空気』の称号は僕のものだ!

…泣けてきた。


「あの、何故学園に入学するんですか?」


佐藤さんが手を挙げながら質問する。


「ああ、それはルーレンス学園はこの国最高峰の学園であり、研究機関だからだ。俺達が教えれないことがあってもあそこなら教えることが出来るだろうからな。 それに、聞いた話によるとお前たちは学生なんだろ?だからなれた環境が一番だと思ってな。 ちょうど1ヶ月後が学園の入学式だ。 入学するのは基本的にお前たちと同じ16歳だ、仲良くしろよ。 勿論、有事の際はお前たちの力を借りることになるが、基本的に自由に過ごしてもらって構わないぞ。 …他に何か質問は?」


皆が首を振る。


「ああ、そうだ魔法職の訓練の担当長を紹介する。」


ローブ姿の人が一歩前に出る。


「私はレン・マイヤーズ。 さっき団長が説明した通り魔法職の担当長よ。 レンでいいわ、よろしくね。」


レンさんは妙齢の女性で、野暮ったいローブの上からでもわかるほどの巨乳だった。


正直エロい、超エロい。

くそ、こんなにも魔法職になりたいと思ったのは初めてだ。

レンさんに手取り足取りいろんなことを教えて貰いたい。


男子のほとんどがごくりと唾を飲み、彼女を凝視していたが、女性陣の氷よりも冷たい眼差しを見て、一気に目をそらした。


「あー、彼女に変な気を起こそうとするのは止めといたほうが良いぞ。怒ったら怖いからな。 俺も昔――」

「団長?そんなことより早く説明の続きを。」

「あ、はい。」


レンさんが恐ろしい笑みを浮かべている。

どうやらレンさんの地雷に触れたようだ。

昔何をしたのか気になるな。


「ということで、魔法職の奴は彼女に付いていってくれ。」


魔法職の人達がぞろぞろとレンさんに付いていく。


「よし、次は信弘。お前には王都最高峰の鍛治師を紹介する。

ルーク、案内してやってくれ。」

「はっ!」


ルークと呼ばれた男が前に出る。


「ちょ!ちょっと待ってください!鍛治師に弟子入りするってことは僕は皆と一緒に学園に入学出来ないんですか?」


やはり見知らぬ土地でひとりぼっちは寂しいのだろう。

前田はかなり焦りながら質問していた。


「いや、学園では一般教養も教えて貰うからな。普通に入学するぞ。鍛治科もあるからな。」


前田が安心したように息を吐く。


「分かりました。ルークさん、案内してください。

じゃあ皆、後でな。」


前田がドナドナされるのを見送った後、ガイルさんが説明を再開する。


「よし、じゃあまずはお前らの素の実力をみたい。

手加減してやるから、全員かかってこい。」

「全員、一気にですか?」


剣崎が質問する。


「ん、ああそうだ。勿論手加減はするし、怪我しても治療士がいるから大丈夫だぞ。 ロイズ、武器を配ってやってくれ。」

「はっ!」


カッチーン。

今のはいらっときた。

いくら僕達がLv:1だからってちょっと舐めすぎじゃないですかね。

こっちにはチート野郎の剣崎がいるんだぞ。


僕が思ったことを皆も思ったようで、配られた武器を素振りしたりしていた。


「おっ!やる気満々だな。いいね、俺を殺す気で来いよ。」

「怪我しても知りませんよ。」


剣崎が剣を構える。


「よし、来い!」




「痛っ。」


そして冒頭に繋がり、僕達は今、治療士の人に怪我を直してもらっていた。


まさか全員でかすり傷も負わせられないとは。

もうガイルさんが魔王を倒したらいいんじゃないか。

と、思いながら治癒ヒールの魔法を掛けてもらう。


治癒ヒールの魔法は、患部がじんわりと温かくなり、徐々に痛みが引いてゆくというものだ。

楽しみにしていた魔法は痛みのせいで感動する暇はなかった。


こんなのが初体験だなんて酷い!などと思いながらガイルさんの方を睨むとガイルさんはレンさんに説教されていた。

遠いからよく聞こえないがかなり怒られているようだ。

ガイルさんはしゅんと小さくなっていた。


それがなんだか可笑しく、ニヤニヤしながら見ているとガイルさんがこっちにやって来た。


「いや、皆すまん!熱が入ってちょっとやり過ぎた。」


がっはっはと、ガイルさんが笑いながら謝る。


いや、ちょっとどころじゃないだろ。

レンさんも同じことを思ったようで、ガイルさんを睨んだ後、すまなさそうに謝った。


「ごめんなさいね。うちの団長バカがやり過ぎて。

後できつく言っておくから。」


ガイルさんがまた!?といった顔をしていた。


…ざまあ!


「治ったらご飯にして、それから座学の方にいきましょうか。」

王城だからか、こな世界に来てから今まで食べた料理はどれも美味しかった。


僕はどんな料理だろう?とわくわくしながら治癒ヒールを受け続けた。

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