5.モブはモブでも

自分のステータスプレートを確認した後、僕はそれをセバスさんに渡す。

セバスさんは僕のステータスプレートを見て目をぐっと見開いた。

そしてそれを素早くアリシアさんに手渡す。

それを見たアリシアさんもセバスさんと同様の反応だった。

その後アリシアさんは僕のステータスプレートをセバスさんに返した。


何その反応、やっぱり僕って強い方だった?

無双できる感じ?

それとも何か法律的にとか、宗教的にとかで持っいてはダメなスキルでもあったか?

見た感じそんなの無かった気がするけど。


セバスさんが、僕のステータスを読み上げた。


おいちょっと待て、ステータスを隠すのは基本だろ。

全く、これだから素人は。


セバスさんが読み終わった後、アリシアさんが僕にニコッと笑顔を見せ、口を開いた。


「カズヤさんのスキルは盗賊としてとても理想的です。

こんな人滅多に居ないですよ! 普通は3〜5個程ののスキルを習得していて、その後に欲しいスキルの代用として特訓をしたりするのですが、戦闘系スキルは先天性でどれだけ特訓しても習得することができません。 しかも、その人がどれだけ特訓をしたとしてもレベル最大のスキル持ちには適うことができないと言われています。 その点カズヤさんのスキル構成は盗賊として完成しているので素晴らしいですね。 10万人に1人に発現すると言われているユニークスキルもありますし、流石は勇者様ということですね。」


アリシアさんが興奮したように解説をまくし立てる。


ベタ褒めだな。

そんなに褒めても何も出ないよ。

今までこんな美少女に褒められたことないから照れる。


そんなことより!

地味かと思ったけど僕ってやっぱり強い?

無双系ラノベ基準では全然なんだけどこの世界では凄いことなのかな?

ここから僕のチート異世界生活が始まるんだな。



────と、思っていた時期が僕にもありました。


僕はあの後、ステータスプレートをアリシアさんから返して貰い、気分良く自分の席に戻った。

そして、僕の左隣──つまり次のステータス測定の番である中川麻衣が前に出る。


ここまでは良かったのだが、機械の前に到着した中川さんが、恐る恐る水晶玉に手を置いた次の瞬間、僕の馬鹿(男のロマン)な妄想は簡単に打ち砕かれることになった。


というのも、水晶玉の光り方が僕と大差無かったからだ。

発行されたステータスプレートを中川さんが取り、確認した後セバスさんに渡す。

ここからの反応はまるで僕の再放送かのようだった。


なんだか怪しい雲行きになってきたな。


僕はセバスさんが読み上げようとしている中川さんのステータスを、一言も聞き逃すまいと、耳を傾ける。


────────────────────


名前:ナカガワ・マイ

職業:魔術師

Lv:1


ユニークスキル:深淵魔法Lv:1

スキル:異世界言語Lv:MAX(10)影魔法Lv:1 闇魔法Lv:1 魔力操作Lv:1 MP量強化Lv:1 消費MP低下Lv:1 瞑想Lv:1

並列思考Lv:1


────────────────────


はあ!?

スキル数は僕より少ないけど、なんだよ深淵魔法って絶対チートだろ。

しかもぱっと聞いた感じ職業特化型のスキル構成だし。

珍しいんじゃなかったのかよ。


いや待て、まだ慌てるような時間じゃない。

やっぱり無双系じゃなくて成り上がり系かもしないな。

中川さん、明らかに僕より強そうだし。


その後、アリシアさんが僕と同じように中川さんのステータスを絶賛した。

次の人も、そのまた次の人も、そのまたまた次の人と続いて遂に剣崎の前の人まできたが、僕と同じ職業特化型のスキル構成だった。

中川さんみたいに僕より強そうな人も居れば、僕と同じくらい、(もしかしたら少し弱い?)の人も居た。


「流石勇者様です。皆さんとても優秀です。これならこの国も安泰ですね。」


クラスメイトの皆は照れたように各々の反応をしている。


いや、褒められても複雑なんだけど。

無双系でも成り上がり系でも無かったし。

しかも強さも平均より少し弱めぐらいだし。

はあー、所詮モブは異世界に行ってもモブのままか。

くそ、せっかく夢が叶ったのに。

仕方ない、来れただけでも良しとするか。

次は剣崎の番か、どうせチート野郎なんだろうな。


剣崎がセバスさんに促され、前に出る。

剣崎が、水晶玉に手を乗せた瞬間今までにないほど光が迸った。

ここに居る全員、あまりな光に驚き、仰け反る。


剣崎が発行されたステータスプレートを見た後、それをセバスさんに手渡したのだか、受け取るセバスさんの手は小刻みに震えていた。

セバスさんが確認した後、アリシアさんにそれを渡す。

いつもと同じ手順のはずなのに何故か神聖さを感じる。

それは今までと違うことに対する畏怖と期待が混ざったせいなのだろう。


「では、読み上げます。」

セバスさんが震える声で合図をする。

皆、ゴクリと唾を飲み込んでいた。


────────────────────


名前:ケンザキ・マコト

職業:聖騎士

Lv:1


ユニークスキル:光神の加護Lv:1

スキル:異世界語Lv:MAX(10)片手剣Lv:1 体術Lv:1 魔力操作Lv:1 光魔法Lv:1 聖属性魔法Lv:1 回避Lv:1 危機感知Lv:1 予測Lv:1 並列思考Lv:1 状態異常無効Lv:1 全属性耐性Lv:1 消費MP半減Lv:1


────────────────────


うん、知ってた。

やっぱりチート野郎だったな。

なんだよ光神の加護って、チート臭がぷんぷんするスキル名は。

神に気に入られるとかどんだけだよ。


「ケンザキさん、素晴らしいです! 神に加護を与えられる人なんて殆どいませんよ。ケンザキさんが居るなら安心ですね。これからよろしくお願いいたします。」


言葉数は僕の時よりも少なかったが、明らかに今までで1番興奮した様子だった。

アリシアさんアゲアゲだ。


「ああ、これからよろしくお願いしますアリシアさん。期待に添えるよう、精一杯頑張りたいと思います。」


剣崎がそう言い残し、席に戻る。


ふ、ふん。

スキルの数は僕の方が多いし。


…なんて、張り合えるわけないか。




この後もステータス鑑定は続き、川崎先生の番が終わったところでこの場はお開きとなった。

今日いきなりで疲れているだろうから、ということらしい。

ご飯を振る舞われたのだが、見たことのない食材もあり、最初は困惑気味だったのだが、美味しいと分かってからはお腹いっぱいに食べた。

戦闘訓練は明日から始まるみたいだ。

戦うのなんて初めてだから緊張する。


部屋は、一人一人個室が与えられた。

中々広い。

これも勇者待遇なのだろう。

家具は全て綺麗に磨かれ、塵ひとつ無さそうだ。


僕は窓際に立ち、これからのことについて思いを馳せる。

空はすっかり暗くなり、窓からは城下町の灯りが見えた。


…無双系でも、成り上がり系でも無かった今、物語のように上手く行くわけないだろう。

ご都合主義なんて、あるはずがない。

これからどうしようか。

幸い、この世界の人よりは強いみたいだか、何があるか分からない。

気を張っていこう。


星が流れる。

今夜は流星群のようだ。


…願わくば、モブはモブでも、皆に死を実感させる為に最初に死ぬモブにだけはなりませんように。


僕はそう流れ星に願った。

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