21.冒険者ギルドへ
「こ、ここが、冒険者ギルド。」
ゴクリと、無意識に喉が鳴る。
目の前にあるのは木造の巨大な建築物。
正に冒険者ギルドといった風体のそれは、猛り狂う獅子を描いた紅い旗が掲げられている。
来るもの拒まずと言っているかの様な大きな扉は開かれ、固定されていた。
やっと来た!
冒険者ギルド!!
やっぱり冒険者ギルドと言えばお約束アレだよな。
絡んで来る冒険者達を返り討ちにするアレ!
いやでも、ステータスを見せた時におおっ!てなるやつもいいよな。
一応勇者だからスキル数はかなり多いみたいだし。
これはいける。
ああ、楽しみだ。
「行かないの?」
立ち止まって物思いに耽る僕を不思議に思ったのか、エリナが声を掛けてきた。
おっと危ない。
部屋ならまだしも道の真ん中で立ち止まるのは良くないよな。
邪魔になるだろうし。
僕はごめんすぐ行く、とエリナに返事をし、冒険者ギルドにウキウキとした気分で入って行く。
そこにはガヤガヤとうるさいながらも活気のある冒険者ギルドが───無かった。
「あれ!?」
「どうしたの?」
突然声を上げた僕に、エリナが心配そうに声を掛ける。
ギルド内は閑散としていて、大きなテーブルにもポツポツとしか人が居なかった。
「いや、なんでこんなに人が居ないの?」
「今、中途半端な時間だから。お昼時でも無いし。もう少し早かったらいっぱい居る。今の時間だと、クエストでもしてると思う。」
「…あ、そう。」
若干テンションが下がったが、気持ちを切り替える。
ギャラリーは減ったけどまあいい、重要なのは念願のアレが叶うということだ。
ゴロツキみたいな冒険者はパッと見居なそうだから、ステータスでおおっ!ってなるやつだな。
言わせてやるよ、盛大にな!
「カズは冒険者ギルドに登録してるの?」
ニヤつきながら今後の展開を想像していると、エリナから声が掛かる。
よし、いい流れだ。
僕は逸る気持ちを抑えながら、冷静を装い返事をする。
「いや、してないよ。」
「じゃあ、した方がいい。冒険者ギルドに所属してると、食堂の料金がちょっと安くなったりするから。」
それは嬉しいな。
王国から小遣いを貰えると言っても無限じゃないし、それに何があるか分からないから、できるだけ取っておきたいからな。
同じ物なら安い方がいいに決まってる。
目指すは倹約家だ。
「うん、分かった。どこで登録出来るの?」
「あそこ。」
エリナは、ギルドの奥に並んだカウンターの一番左端を指さす。
ちなみに、受付嬢は全員美人だった。
「じゃあちょっと待ってて、行ってくる。」
僕は言われた通り、左端のカウンターを目指す。
わざとゆっくり歩いてゴロツキが現れるのを待ちながら行ったのだが、やはり現れなかった。
「初めまして。こちらは冒険者ギルド、ギルド登録口になります。冒険者ギルドへの入会を希望されますか?」
茶髪をポニーテールにした妙齢の美人受付嬢が見事な営業用スマイルで話しかける。
くっ!笑顔が、眩しい!
しかし、少しの時間だが、エリナと過ごした僕は女性への耐性が付いたはずだ。
怯むな、いける!
「あ、はい。ギルドに入りたいです。」
僕は口ごもることなく答える。
あ、って付けてしまうのは仕方ない。
ご愛嬌だ。
「では、この用紙に必要事項を記入して下さい。文字が書けない場合は代筆も承りますので、気軽に言ってくださいね。」
「はい。分かりました。」
僕はすらすらと記入していく。
記入し終わったそれを受付嬢(名前はレーナさんと言うらしい、胸元に名札が付いていた。決して、彼女の豊満なそれに目が行き、偶然見つけたわけじゃない、ないったらない。)に渡す。
「はい、ありがとうございます。…えっと、サエグサ様ですね。では、ギルドに所属した証として、ステータスカードに記入させていただきます。ステータスカードを出して下さい。」
きた!
待ち望んでいた例のアレ。
僕は少し勿体ぶるかの様にゆっくりと懐からステータスカードを出す。
そしてレーナさんに手渡した。
さあ、じっくりと目を通すがいい。
そして驚くのだ!
阿鼻叫喚するのだ!!
……いや、阿鼻叫喚まではしなくてもいいかな、うん。
「では、記入しますね。」
レーナさんがカードに目を通した後、コピー機みたいな形の謎の魔道具にカードを入れる。
あれ!?
なんで驚かないの!?
アリシアさんはあんなに驚いてくれたのに。
僕が理想からかけ離れた現実に驚いていると、レーナさんが声を潜め、話し掛けてきた。
「あの、もしかしてサエグサ様って勇者様なんですか?」
「あ、はい。一応そうです。」
「やっぱりっ!サエグサ様の名前を聞いた時にもしかしてって思ったんですよ~。」
あれ?
反応薄いな。
新しいクラスメイトみたいに騒がないのか。
「3時間くらい前だったかなぁ。ぞろぞろと勇者様達がギルド登録に来たんですよ。その時私、ステータスをみて大声を上げちゃって、ギルド長に叱られたんですよ。」
僕のステータスカードに魔道具が記入している間、レーナさんが花の様な笑顔で雑談を始める。
そう言うことか。
剣崎め。
僕の夢を奪いやがって。
道理で反応が薄いわけだ。
だって、僕のステータス方が剣崎のよりしょぼいもの。
「ああ、それはご愁傷様です。」
ご愁傷様なのはこっちだよ、まったく。
「あ、記入が終わりましたね。本当に勇者様はスキルの数が多いですね。羨ましいです。…はい、どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
僕は、受け取ったそれを見る。
表示が一つ増えていた。
────────────────────
名前:サエグサ・カズヤ
職業:盗賊
Lv:16
HP:970
MP:130
冒険者ギルド所属
ランク:F
ユニークスキル:弱点感知Lv:1
スキル:異世界語Lv:MAX(10)短剣Lv:2 体術Lv:2 暗殺Lv:2 投擲Lv:3 隠密Lv:2 索敵Lv:1 危機感知Lv:2 罠感知Lv:1 鍵開けLv:1 宝探しLv:1 回避Lv:2 聞き耳Lv:1 暗視Lv:2
────────────────────
おっ、暗視がLv:2になってる。
暗い所で本読み過ぎたかな。
…それより、こんな感じになるんだな。
普通だ。
あ、勧められるがままギルドに入ってしまったけど、説明とか聞いてないな。聞かないと。
「あ、あのギルドの説明とかってありますか?」
「ああ!そうでした!冒険者ギルドの説明ですね。えーっと確かここに。」
レーナさんがカウンターの下をごそごそと探る。
そうでしたって、忘れてたのか。
新人なのかな?
最初見た時はそうは思わなかったけど。
レーナさんが何やら分厚い本を取り出し、表紙を開く。
そこから少しの間、 目次とにらめっこした後、パラパラとページを捲り、顔を上げた。
「ええと、はい。冒険者とは、冒険者ギルドに加入し、依頼をこなす者を指し───。」
「あの、そこら辺は知ってるので、冒険者ギルドの規則とか利点などを説明してくれませんか?」
「は、はい。すみません。ええと…」
レーナさんが再び、目次とにらめっこを始め出した。
「えっと、規則その1、ギルド内での私闘を禁ずる。これはそのままで、ギルドの中では闘ったら駄目っていうことですね。その2、Cランク以下が2ヶ月以上任務を受注しないことを禁ずる。」
ん?
なんでCランク以下なんだ?
「あの、なんでCランク以下何ですか?」
「ああ、それはですね。Bクラス以上になると、長期の遠征任務などが有りますので、2ヶ月以上掛かることも多々あります。だからですね。」
「ありがとうございます。」
「では続けます。その3、受注可能な任務はその者の上下1ランク以内とする。つまりサエグサ様はFランクですので、受けられるのはFとEランクの任務になります。…これで以上です。」
終わり!?
規則少なくないか?
冒険者は自由を重んじるからとかそう言う理由だろ。
「あ、その顔。今少ないって思いましたね。」
おおう。そんなに顔に出てたかな。
「あ、はい。なんでそんなに少ないんですか?他にもトラブルの対処とか色々細かくしてた方がいいと思うんですけど。」
「あー、それはですね。昔は細かくしてたそうなんですが、すぐ忘れる人が多くて大変だったそうです。そんな話聞いてないと言って喚いて暴れたりして。それで必要最低限だけ残そうってことになったらしいですよ。」
…冒険者が直ぐ忘れるからとか、思ったよりも悲しい理由だった。
冒険者はアホが多いのか。
「では、これで手続きは終わりです。何か質問などありましたら、気軽にお聞き下さいね。」
「いえ、特に無いです。ありがとうございました。」
「ではサエグサ様、頑張って下さいね。」
「あ、はい。」
僕はレーナさんに礼をし、エリナの元へと向かう。
エリナは、文庫サイズの本を読んでいた。
「ごめん、遅くなった。」
「ん、別にいい。」
エリナが顔を上げる。
やっぱりエリナって美人だよなあ。
「じゃあ、行こ。」
「う、うん。」
冒険者ギルドの食堂はどんな料理があるのだろう。
僕は、期待に胸を膨らませてエリナに付いて行った。
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