23.デート?

学園に入学してから2週間が経った。

本日最後である7時限目、魔法史の授業。

教壇に立った黒いローブ姿の男、もといナイル・オーグス先生の講義を聞きながら思考を巡らす。


やっぱり学園の授業って面白いな。


学園の授業は面白い。

元の世界では授業が面白いなんて、殆ど思ったこと無かったけど、やっぱり興味があるものは面白く感じる。

特に魔法の授業はいい。

ロマンだ。

まあ、僕は使えないんだけど。


魔法職じゃないのに何をするのかというと、魔法の属性や魔力の話、そしてその対処を学ぶ授業だ。

魔法史の授業はまたそれとは違い、魔法の歴史や魔法や魔道具を開発した人物などを取り扱う授業だ。

授業の6割以上が賢者の話だが。

賢者はそれ程までに偉大なのだという。


あーー、魔法使ってみたいなあ。

封じられた魔法が使える魔道具とか使ってみたけど、やっぱりなんか違うんだよなぁ。

『少なからず魔力があるんだからきっと出来るはず』と思って毎晩部屋で練習してるけどまだ成果は出てない。

ノリノリでやってるけど決して厨二病じゃない。

日々の出来事を書くはずの日記帳が考えた魔法や詠唱を書き留めた手帳になったけど、厨二病じゃあないのだ。


「そしてここで───」


おっと、こんなことを考えてる場合じゃない。

ノートをとらないと。

ええと、書いてないとこは……ああっ

!消された。

……はあ。

後でエリナに見せてもらうか。


僕は板書をするのを諦め、ノートを閉じる。


今日はどんなクエストを受けるんだろ。


初めてギルドに行ったあの日から僕達はほとんど毎日クエストをこなしている。

時間的に遠出は出来ないから近場の簡単なクエストばかりだけど。

因みに、学園が休みの日は少し遠出して、ルーレンス大森林まで行っている。

元々エリナは、毎日1人でクエストをやっていたらしい。


ソロの冒険者ってやつだな。

カッコイイ。

僕はそれに付いていっているだけだ。

まあ、2人になったことで今までは少しキツく受けるのをやめていたクエストも受けれる様になったと喜んでくれていたからいいんだけど。


ランクはEになり、レベルも4上がり20になった。

今ではゴブリン相手なら簡単に倒せる。


しかし、殺すのはまだ慣れない。

やっぱりね、難しいよ。

でも、最初に比べたら大分マシになったと思う。

少しずつでもいいから慣れていきたい。

慣れすぎるのも良くないとは思うんだけどね。

あと、エリナが言うにはレベルが上がるペースが自分よりも早いとのこと。

勇者補正で経験値倍率とか掛かってるのかな?

だとしたら嬉しい。

この世界ではゲームとは違い、レベリングも大変だからな。

オートモードは無いのだ。


前の席、エリナの方を見る。

彼女は銀糸の様な髪をひとつに纏め、ポニーテールにしていた。

別に僕はうなじフェチじゃないのだが、陽光に照らされキラリと光るうなじに目が吸い寄せられてしまう。


お金も結構溜まってきたし、エリナを誘って明日、買い物にでも行こうかな。

ちょうど明日、休みの日だし。

クエストもいいけどたまには息抜きもいいと思う。

武器と装備は中々の業物を貰ってるから別にいいんだけど、なんか異世界特有の面白い道具とかが欲しいしね。

おすすめの店とかエリナに聞いて。

その後はどこかでお茶でもしたらいいか。

案内してもらうお礼もしたいし、何か奢ろうか。

女の子が好きそうな美味しいものってなんだろう?

今日ギルドに行った時にレーナさんとかに聞いたらいいか。

あの人なら何か知ってるだろ。

案外女子力高そうだし。

よし、この授業が終わったら早速誘ってみよう。


僕は壁に掛けられた時計の魔道具を見る。

授業の時間は残り5分。


断られないといいけど。


僕は明日の予定を考えながら残りの5分間を過ごした。



______________________________________________



午前9時54分。


僕は学園の正門前でエリナを待っていた。

待ち合わせの時間は午前10時。

あと6分だ。

今日はいつもの制服では無く、落ち着いた色合いの私服だった。

当たり前だ。

休日まで制服で行動する程、僕は愛校心を持ち合わせていない。


えーっと、まずはあそこに行って……。


僕は昨夜考えてきた『やることリスト』を思い出す。

行きたい所がそこそこあったから色々考えた。

エリナに案内してもらいながら回るつもりだ。


「カズ、おはよう。」


そこまで考えたところで、エリナがやってきた。


「おはよう。」


僕は振り向きながら挨拶をする。

彼女の服装は白いワンピースで、とてもよく似合っていた。

見た瞬間に息が詰まりそうなほどに。


やっぱり、こういうのって褒めたりした方がいいのかな。

ハードル高いです。

というか、よくよく考えたら女の子と2人で外出なんてデートみたいになってるじゃないか。

まあ、エリナと僕とじゃ天地がひっくり返ってもそう思われることは無いんだけどね。


「待った?」

「いや、全然。今回は僕も今来たところだから。」

「今回は?」


おっと失言。

入学式の時に1時間以上も早く来たことを思い出してしまった。

ちなみに、入学式の日からエリナと待ち合わせをしたのはこれで2回目。

つまり前回=入学式の日となる。


「い、いや、前のクラスメイトと1回待ち合わせをしたことがあってね。その時時間を間違えて早く来たことがあったんだ。」


もちろん、嘘である。

僕が人生で待ち合わせしたのはエリナだけだ。


それを聞いたエリナは、小さく微笑み、


「ドジ。」


と言った。


「いやあ。」


まるで照れ隠しをする様に僕は頭を掻く。


「…よし、そろそろ行こうか。今日は色々買いたいものがあるから早くしないと。」

「うん。」


仕切り直す。

やや不自然だったけど、大丈夫だろう。


取り敢えず僕達2人は歩き始める。


「まずはどこに行くの?」

「ええっと、何か面白そうな魔道具とか見たいなって思ってるんだけど、どうかな?いい店とか知ってる?」


それを聞いたエリナは、少し考え込む。


「取り敢えず商業区のそういう店が集まった区画に行ったらいいと思う。」

「うん、了解。」


商業区の方に向かう道すがら、彼女が問う。


「どうして急に魔道具が見たくなったの?」

「うーんと、魔道具ってさ、面白くない?これはどんな効果なんだろうって考えたり、実際に使ってみたり。そういうの好きなんだよ。」

「そうなんだ。」

「それに、僕は弱いからさ。何か戦闘の補助が出来る様なものも欲しかったし。休みが明けたら課外授業があるからさ、足でまといにならないように準備しないと。」


休みが明けたら課外授業がある。

ルーレンス大森林で、モンスターを討伐するらしい。

討伐したモンスターのランク、量で評価が付けられる。

1チーム3人、20組。

チームは学園が僕達の能力を見て決めたから、エリナとは別のチームになってしまった。

残念だ。

エリナ以外に知ってる人居ないのに。

しかもメンバーも元のクラスメイトはおらず、勇者は僕一人だけだ。

勇者のイメージダウンを避けるためにも、頑張らなくてはいけない。


「ふーん。でもカズはそんなに言うほど弱くは無いと思う。」

「そうかなあ?剣崎とか、周りが強すぎて何とも言えないからさ。」

「そんなに剣崎君って強いの?」

「勇者の中では一番強いかな。岩を豆腐の様に斬ってたし。」

「豆腐?」

「ああ、ごめん。それは元の世界の食べ物でね、白くてすっごく柔らかいんだ。」

「へー。美味しいの?」

「僕は好きだよ。」

「食べてみたい。作れる?」

「いやー、ちょっと無理かな。作り方知らないし。ごめんね。」


別に料理が苦手では無いけど、流石に豆腐は無理だなぁ。


「似たような食感でいいならプリンとかだったら作れるよ。」


そもそもこの世界にプリンってあるのかな?

まだ見たことないからどうなんだろう。


「ぷりんって?」

「黄色くて、柔らかくて、甘いお菓子。嫌いな人はまず居ないと思うけどどうかな?というか、この世界にそんなお菓子ってある?」


鞄から日記帳を取り出し、プリンの絵を描いて、見せる。

もちろん魔法のページは見せない。


というかなんで鞄に日記入れてるんだろ。

間違えたか。

…何とだよ。


「こんな感じの。」

「……無いと思う。」

「じゃあ、また作っとくよ。」

「ん、ありがとう。」


彼女は花のような笑顔を浮かべる。


ふう、今日もこの笑顔を見れて僕は幸せだ。


「カズって料理得意なの?」

「両親が共働きで帰ってこない時も多々あったからね。そういうときに自分で作ってたからそこそこは出来ると思うよ。」

「きっとカズはいいお嫁さんになる。」

「あ、ありがとう?」

「ふふ。」


楽しそうに、彼女が微笑む。


今のところだけど、楽しんでくれてるみたいで良かった。


「エリナは、料理できるの?」

「あんまり。料理を作った経験が少ないから。また今度、料理の作り方教えて?」

「うん、僕なんかでよければいいよ。また今度ね。」


どんな料理がいいんだろ。

やっぱり元の世界のものとかの方がいいのかな?

まあ、考えるのはまた今度でいいか。


遠くに商業区の活気ある街並みが見えた。

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