24.課外授業

「では、課外授業の概要をもう一度説明します。」


ルーレンス大森林の入り口。

そこに集められた僕達の前でオーグス先生が説明を始める。


「1チーム3人、20組でこの課外授業を行います。チームはこの前に発表したもので変更はありません。…もちろん覚えてますよね?」


僕のチームのメンバーはミスティ・カーティスさんとルナ・ロイスさんという女の子2人で、それぞれ魔術師、剣士だ。

学園が決めただけあって、パーティのバランスはとてもいい。

いい、いいのだが、全然上手くいく気がしない。

発表された時に軽く顔合わせと自己紹介はしたんだけど、気まずい。

気まず過ぎる。

せめて男だったらまだ楽なのに。

ほとんど話したことない女の子2人とか、ねぇ。

こんなんで連携とか出来るかなぁ。

先生もそこんとこ察してくれたらいいのに。

無理か。

無理だよなぁ。

というか、顔合わせした時にミスティさんが僕を見てニヤニヤしてたんだけど、なんかしたっけ?

身に覚えは……無いよな。

そもそもこの世界に来てから関わった女の子なんて、両手に収まるから流石に覚えてる。

まずアリシアさんだろ、次にレンさんにエリナ、あとは…レーナさんぐらいか。

片手で充分足りたな。

我ながら少ないな。

いや、1ヶ月ちょっとっていうことも考えると、元の世界よりも多いかも。

でもミスティさん、以前どこかで見たことある様な気がするんだよなあ。

………わからん。


「討伐証明は各自配布したプリント通りでお願いしますね。討伐証明の部位が違っていたらそれは討伐したと見なしませんので、注意してください。」


ギルドの討伐証明と同じだから僕はエリナの指示で粗方覚えてるけど、あとの2人はどうだろうな。

ちゃんと覚えてるかな。

モンスターを倒した後にいちいち確認するのは面倒だからな、覚えてるといいな。


「あと、森の奥にはなるべく行かないように気をつけて下さい。奥には高ランクのモンスターが出ますので。浅い所は低ランクモンスターしか居ないのですが。一応、教師を森の外周やポイントに配置しているので、何かあったらすぐ駆けつけるように。ポイントは配布した地図に記載しているのでもう一度確認しておくように。」

「「はい。」」

「制限時間は5時間、集合場所はここで、30分後に開始です。では、解散。」


解散か。

何しよう。

やっぱりパーティメンバーと一緒に居て、少しでも仲良くなる方がいいのかな。

僕にそんなこと出来るかどうかは置いといて。

30分も時間が与えられたのはそういうことのはずだ。

エリナと話ししたいけど、後にしようか。

別に今じゃ無くてもいいしな。


僕はパーティメンバーの2人を探す。

向こうも僕のことを探していたようですぐに見つかった。


「おっ、居た居た。カズヤくん!」


明るい茶髪を肩口で切り揃えたカーティスさんが元気に呼び掛ける。

隣にはロイスさんも居た。


「今日は、よろしくお願いします。」

「うん、よろしくぅ。」

「よろしくね。頼りにしてるよ。」


朗らかで元気な感じのカーティスさんに対し、ロイスさんは落ち着いた雰囲気だ。


こんなこと考えたら失礼だと思うけど、逆じゃないか。

職業。

普通、パーティのサポートをする魔術師の方が落ち着いていないと。

誤射とかしたら危ないし。

でも、Aクラスなんだし大丈夫か。


今回の課外授業はAクラスだけで、他のクラスは来ていない。

他のクラスはまた後日、ということらしい。


「作戦とかって決めた方がいいですよね。皆さんは何が出来ますか。僕は盗賊の仕事は大体できます。斥候とかは任せて下さい。」

「あたしは火属性の魔術師で、中位魔法までと、少しだったら上位魔法も使えるよ。森の中だからあんまり魔法は控えた方がいいかな?」

「そうですね。火事になったら大変ですし、基本的に魔法は温存でお願いします。」

「りょーかい。」

「私はタンクはできないから、主にモンスターを倒す役割をしたいんだけど、どうかな?」

「いいと思いますよ。森の浅いところは本当に弱いモンスターしか居ないので、楽に構えても大丈夫だと思います。タンクとかもよっぽどの事がなければ必要無いと思いますし。あと、皆さんは討伐証明の部位は覚えましたか?」

「あたしは少しだけなら。」

「私は覚えたよ。」


まあ、3人中2人覚えてたらいいか。


「…ねえ、なんでカズヤくんは敬語なの?」


カーティスさんが、不思議そうな声色で聞いてくる。

しかし、口元はニヤニヤとした笑みが張り付いていた。


これ、絶対僕が人と話すのが慣れてないって分かってるよな。

カーティスさん、いい性格してるな。


「こら、ティ。」

「痛っ!」


ロイスさんが粗相を働いた子どもを窘める様にカーティスさんの頭をぽかりと殴る。

しかし、殴られた方のカーティスさんは僕の返事に期待してか、ニヤニヤしたままだ。

ロイスさんはそれを見てため息をついた後、「ごめんね。」と目線で伝えてくる。


ロイスさんはいい人だな。

いや、カーティスさんが特別性格が悪いだけか。

きっと、僕が残念な子みたいな返事をするのを期待してるんだろうけどそうはいかない。

こうなったらマジレスしてやる。

理論攻めだ。


「いえ、僕達はほとんど初対面みたいなものなんですから別に敬語でもおかしくはないはずですよ。そんな質問してる暇があったら討伐証明でも覚えた方がよっぽど有意義な時間の使い方だと思いますよ、この中で唯一覚えてないカーティスさん。まあ、このパーテイは3人中覚えてないのは1人だけなので、覚えて無くても特に支障は無いと思いますけどね。」


僕はつらつらと論理を並べる。

僕の返事が意外だったのか、2人は目を丸くしていた。


ふふ、どうだこの返し。

正論を並べられて何も言えないだろ。


「そ、そうだね。ごめんね、変なこと聞いちゃって。い、今覚えるから。」

「いえ、さっきも言った通り、覚えてないのは1人だけなので大丈夫ですよ。覚えてる僕とロイスさんで討伐証明の回収を行いますので。まあ、これは冒険者ギルドの討伐証明と同じですから覚えるに越したことはないんですけどね。」

「い、今すぐ覚えます!!」


カーティスさんが慌てた様子で鞄からプリントを取り出し、眺め始めた。

額には汗が滲んでいる。


ふう、やり切った。

ちょっとやり過ぎた感があるけどまあいいか。

いや、よくない。

本来、親交を深めようとしてたのに真逆になってるじゃないか。

はあ。

どうしよ。

なんとかなるかなあ。


「怒ってる?」

「いえ、全然怒ってないですよ。」


心配したようなロイスさんの問いに平然とした様子で返す。


別に怒ってたわけじゃない。

ほんの少しの悪戯心だ。


「あの子はすぐ調子に乗るから、早めにお灸を据えて良かったよ。ありがとね。」


ロイスさんが僕の耳元でコソコソと囁く。

鼻腔をくすぐる甘い女の子の香りに鼓動が速まる。


すぐ調子に乗るのか。

じゃあ結果オーライ、なのかな?

戦闘中に調子に乗って油断すると危険だし。

例え相手がゴブリンだったとしても打ちどころが悪ければ普通に死ぬし。

まあ、深くは考えないようにしよ。


「そうなんですね。…ロイスさんはカーティスさんと昔からの知り合いなんですか?」

「うん。家が隣でね、歳も同じだから昔からよく遊んでたんだ。」

「そういえば、ロイス家とカーティス家って言ったら貴族なんですよね。僕の中では貴族って厳しくて、中々遊んだり出来ないっていうイメージなんですけど、実際は違うんですか?」


学園の生徒と先生の9割以上は貴族だ。

やはり、貴族の方が幼少期からの教育のおかげで学力は高いみたいだ。

1割以下の平民も殆どが下のクラスらしい。


「うちとティの家はそんなに大きく無いからね。そこら辺はかなり緩いよ。大きい家はやっぱり厳しいみたいだけどね。」

「この学園には大きな家の子どもって居るんですかね?」

「うん、居るよ。確か、生徒会長がこの国で1、2を争うほどの貴族じゃなかったかな。」

「あー、あの人ですか。初めて見た時から貴族っぽいオーラっていうんですかね、凄く気品?みたいなものが溢れてるなーって思ってたんですよ。」


生徒会長は金髪ロングの女の子で、

凄く美人のお姉さんだ。

動きの一つ一つが洗練されていて、初めて見た時から貴族っぽいなと思っていた。


「貴族っぽいオーラって、どんなオーラよ。」


ロイスさんが楽しげに笑った。


よし、なんかいい感じじゃないか。

僕でもやれば出来るもんだな。

エリナのお陰だ。


「なに、カズヤ君。貴族の話なんかして、玉の輿でも狙ってるの?…勇者だから玉の輿とは言わないのかな?」


ロイスさんが茶化すように言った。


「いや、僕なんかには無理ですって。」


そう言うと、ロイスさんは不思議そうに首を傾げる。


「んー、でもいけると思うけど。カズヤ君、可愛い顔してるし。」

「…そ、そうですか?あ、ありがとうございます。」


褒められたことないから照れる。

動揺して噛んでしまった。


「うん、そうだよ。何なら私ならいつでも歓迎だよ。まあ、カズヤ君には可愛い彼女が居るみたいだし、私じゃ無理か。」


ロイスさんが笑いながら冗談を口にする。

僕は自分とは全く縁のない言葉を疑問に思い、首を傾げる。


「彼女?」


彼女。

かのじょ。

カノジョ。


「あれ?違うの?」

「?」

「カズヤ君って、エリナさんと付き合ってるんじゃないの?」


へー、エリナってカズヤ君と付き合ってるんだ。

そのカズヤ君は幸運者だな。

というかエリナって付き合ってる人居たんだ。

それなのに僕に付き合ってクエストとか行ってくれていたのか。

うーん。

そのカズヤ君に悪いから次からは一人でクエストを受けよう。

エリナも彼氏と居たいだろうしね。

……エリナが彼氏と居るのを想像したら、胸がちくりと痛んだんだけど、

どうしてだろ。

病気かなあ。

また今度、病院で見てもらうか。

胸が痛むって、結構怖いな。


「へー、この学園にカズヤって言う名前の人が僕の他にも居るんですね。」


勇者組じゃないよな。

クラスにカズヤは一人だけだったはずだ。

異世界なのにカズヤか。

日本っぽい名前だな。


「いやいや、何言ってんの。君の事だよ。」

「僕?」


自分に指を指し、ロイスさんに尋ねる。

振り返ってみるが、後ろには森が広がっているだけだ。


「そう。」

「??」

「女子の間では結構噂になってるよ。あの二人、いっつも一緒に居るからもしかして付き合ってるんじゃないかーって。」

「いやいや、無い無い無い。だって僕ですよ。あのエリナと付き合える訳がないじゃないですか。エリナとはただの友達です。僕なんかがエリナとなんて、釣り合って無いにも程があるでしょう。」

「いやー、そんなこともないと思うけど。普通にいい感じの雰囲気じゃない。」

「それは無いです。誰ですか、そんなこと言い始めた人。」

「ティ。」


あいつか!

そんな噂流したらエリナに失礼だろ。

まったく、注意しとかないと。


ロイスさんがカーティスさんを指さす。

僕はその指先を追うように、ジロっとした目でカーティスさんを見る。

ちょうどその時、カーティスさんが元気よく立ち上がり、叫んだ。


「終わったー!」


カーティスさんの無邪気な笑顔を見てるとなんか注意する気も失せたな。


僕は、元気よく跳ね回るカーティスさんを眺めた。

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