25.開始

あの後、開始の時間になり課外授業が始まった。

僕達のパーティは森の中に入り、進んで行く。


「開始場所が同じですから、少し歩いたところに行きたいと思うんですけど、どうでしょうか。」


僕の後ろに続く2人に呼び掛ける。


「そうだねー。いいんじゃないかな

。」

「でも、制限時間があるからあんまり遠くは厳しいんじゃない?カズヤ君はモンスターがいる場所とか分かったりする?」

「最近この森に来てるので、少しなら。一応、この前来た時にモンスターの巣を2箇所見つけておいたんですが、ここは冒険者がよく来ますのでもしかするともう狩られてるかもですね。」


僕とエリナは、事前にモンスターの巣を探していた。

見つけた巣は合計4箇所。

僕とエリナとで、分け合った。


…エリナ、今頃どうしてるかな。


エリナの班は勇者組の男子が2人らしい。

人の目が無い森の中。

男子2人の中に女子が1人。

しかもその女の子は美少女ときた。

不安しかない。


まあでも、エリナ強いし。

男子も僕ほどとまでは言わないけど地味目な感じだったし。

そんなことは起こさないと思う。

まあ、いざとなったら逃げれるだろ。

その時用に、ポーションあげたし。


エリナにあげたポーションは一定時間、足が速くなるというものだ。

この前買い物に行った時に自分用にと買ったのだが、エリナのパーティを聞いて不安になったので渡した。

エリナは遠慮していたが、僕の必死の説得もあってか、最終的には受け取ってくれた。


まあまあ高い買い物だったが、エリナの為だ。

それで守れるのなら安いものだ。


エリナに渡したポーションは1本銀貨20枚。

それを5本。

つまり金貨1枚だ。

3本をエリナに渡して、あとの2本は自分用だ。

僕の買ったポーションはかなり良い種類なようで、1本で2時間も効果があるらしい。

高いのにも納得だ。


そういえば、川崎先生って魔法薬師だったよな。

もしかして、頼んだらポーションくれたかも。

あーでも、あの川崎先生が作るポーションだろ。

……不安しかない。


「ほー。」


そんなことを考えていると、後ろから何やら関心した様な声が聞こえてきた。


「なんですか?」

「カズヤくんって意外と優秀?」

「…意外ってなんですか。」


まあ、僕がそう見られるのは分かってるから別にいいんだけども。

カーティスさんに言われるのはなんか癪だ。


「今って、その場所に向かってるの?」

「そうですよ。…すみません、あらかじめ言っといた方が良かったですよね。」

「いや、全然大丈夫だよ。リーダーはカズヤ君なんだし。私達はそれについて行くから。」

「そうそう。」


ロイスさんが言った通り、このパーティのリーダーは僕だ。

初めて顔合わせをした時に決めたのだが、勇者だからという理由で押し付けられた。

カーティスさんに。

そんなにリーダーの仕事は多くないのだが、やっぱり慣れない役だけあって、苦手だ。


「ねえ、今向かってる巣って何のモンスターなの?」

「ゴブリンですね。この前見たときは5匹ぐらいが住んでいました。」

「もう1つの方は?」

「そっちはコボルトですね。」


コボルトはゴブリンと同じ討伐難易度のモンスターで、二足歩行の小柄な犬型のモンスターだ。


「やっぱりここら辺には低ランクしか居ないんだね。」

「そうですね。僕もここらではEランクまでしか見てないですし。聞いた話によると、奥には最高でCランクのモンスターが出るらしいですよ。」

「Cランク!そんなの会ったらすぐ殺されちゃうよ。」

「奥地にしか出ないらしいですから、大丈夫ですよ、多分。」

「多分って付けないでよ!余計怖いじゃん!」


まあ、大丈夫だろ。

今まで浅い所に出たという事例は殆ど無いらしいし。

……よく考えたらフラグだこれ。

僕はとんでもないミスを起こしてしまった。

やばい、出る予感しかしなくなってきた。

オタクの癖にこんな単純なミスを犯すなんて。

何とかして取り返せねば!


「いや!やっぱり出ます、絶対。」

「どっちよ!」

「それぐらいの警戒が必要ってことじゃないの?だから気を抜くなって。」


ロイスさんが見抜いたとばかりに聞いてくる。

カーティスさんは少し納得した様子だった。


…そういう訳じゃないんだけど。

まあ、いいか。


「もうすぐ着くの?」


と、再びカーティスさん。


「このペースだと、あと20分くらいですかね。もっとペースを上げた方がいいですか?」


実は森に慣れていないと言っていた2人の為に、進む速度はいつもよりかなり遅めにしてある。


「うん、もう慣れてきたから。ティもそれでいいよね。」

「いいよー。」

「じゃあもう少し早くしますね。」


…高ランクモンスターと出会いませんように。


小さな願いを胸に、ゴブリンの巣へと向かう。



────────────────────



「うへぇ、血が跳ねた。」


あれからゴブリンの巣に着いた僕達はゴブリンを倒し、その討伐証明を取っていた。


「カーティスさん。」


僕は溜息をつく。


「もっと丁寧にやって下さいよ。」

「だって、汚いんだもん。」


カーティスさんがまるで汚物かのように指先でつまんだ討伐証明を見る。

切り口はガタガタで、雑な扱いをしたことが窺える。

心做しか、ゴブリンの死体から涙が零れた様な気がした。


……哀れ。


「どうせ汚れるんですから、後で洗ったらいいじゃないですか。」


いくら何でも死んだゴブリンが可哀想なので、気を取り直し、カーティスさんを糾弾する。


「あたし、水属性の魔法使えないし。」

「少しはロイスさんを見習ってください。」


ロイスさんはカーティスさんと違い、1つ1つ丁寧に集めていた。

もちろん、切り口も滑らかだ。


「カズヤ君の言う通り、ティはもっと丁寧にした方がいいよ。汚いと思うのは分かるけど、私達が殺したんだから、せめてそれぐらいはしないと。」

「むむー。」


カーティスさんが渋々といった様子で、次のゴブリンに取り掛かる。

心做しか、少し、ほんの少しだけたが丁寧な手つきになっている気がした。



────────────────────



「コボルトって、わんちゃんみたいな見た目なんでしょ。」

「ええ、まあそうですね。見たことないんですか?」

「うん。」

「私は昔、お父様と馬車に乗っている時に遭遇したから見たことあるよ。」


この世界の本には絵が少ない。

モンスターの教科書や、図鑑にも絵が無いこともあり、知識では知っていても姿は分からないということが多々ある。


「可愛い?」

「……あん──」

「可愛いよ。」


あんまり可愛くないと答えようとした僕に被せ、ロイスさんが即答する。


あんまりというか、全然可愛くないんだけどな。

なんか凶暴そうで、野性味溢れる顔してるし。

この世界ではあれが可愛いのかな?

あれを可愛いって言うなんて、何でも可愛いと言う日本の女子高生でも難しいくらいだ。

多分。


疑問に思い、ロイスさんの方を見ると、「可愛いんだったら殺せるかな?捕獲したらペットに出来るかも。」と呟きながらコボルトを楽しみにしているカーティスさんを見て笑いを堪えていた。


あ、察し。

なるほど、そういうことか。

ロイスさんも人が悪いな。

まあ、仕方ないから全力でお手伝いしますか。


「流石に大人は無理ですから、子どもが居たら捕獲してみますか。」

「ほんと!?」

「まあ弱いですし、大丈夫でしょ。」

「楽しみだね、ティ。」

「うん!」



────────────────────




「どうですか?初コボルトは。捕獲しますか?」

「いらない。」


コボルトの巣の前、林の中。

カーティスさんが、不機嫌そうな声色でそう言う。

僕達はそれを見て、ニヤニヤ笑っていた。


「あれ?折角いたのに、なんでですか?」

「だって!全然可愛くないじゃんか!!」

「大声出さないでよ。見つかるでしょ。」

「ご、ごめん。」


ひとしきりカーティスさんの反応を楽しんだあと、僕は口を開く。


「じゃあそろそろ始めましょうか。移動するから少し待ってください。」

「うん。」

「りょーかい!」


僕は巣の入り口から死角となった所で隠密レベル1スキル『潜伏』を発動させ、隠れる。

洞穴型の巣の前で見張りをしているコボルトは一体。

小さい群れだということが分かる。


僕は『潜伏』を発動させたまま見張りコボルトの後ろに行き、口を抑え、喉笛を掻っ切る。

死んだ見張りコボルトを音を立てないように横たえる。

そしてさっきまで隠れていた場所に死体を隠す。

討伐証明を取るのは後だ。

先にコボルトの巣を殲滅する。


「行きましょう。」


僕は2人が隠れている林に呼び掛ける。

ガサガサという林をかき分ける音と共に2人が出てきた。


「いやー、何度見ても鮮やかな手さばきだねー。」

「何度っていっても、まだ2回じゃないですか。」

「細かい事はいいんだよ、で、どうするの?洞穴だし、燃やす?」

「うーん。流石にそれは可哀想な気も。」

「コボルトが貴金属の類でも持ってるかも知れませんし、止めときましょう。この巣は小さいので、中もあんまり居ないでしょうし。」

「りょーかい。」


洞穴を見て燃やすっていう意見が出るってことは、少なくとも密室で火を燃やしたら死ぬってことは分かってるんだろう。

流石に二酸化炭素とかの概念は無いはずだ。


僕が先行し、2人が後に続いて洞穴に入る。

2人は入口付近で待機してもらう。

洞穴内は光石と呼ばれる鉱石で薄暗く照らされていた。


……居た。


細い通路を抜けると小部屋が2つあった。

小部屋の中のコボルトは3匹。

その内1匹は小柄なので、子どもなのだろう。

子どもも可愛さの欠片もないような容姿をしていた。

襲撃者が居ることに気付いていないのだろう、武器を整備しているものや、寝転がり、ダラダラしているものもいた。


僕は素早くそして音を立てないように2人の元へ戻り、2人に報告する。


「居ました、コボルトが3匹。奇襲出来ますので一気に叩きましょう。」

「「うん。」」

「僕が合図で突撃します。カーティスさんはもしもの時のために警戒していてください。」


今度は3人で隊列を組み、進む。

前から僕、ロイスさん、カーティスさんだ。


小部屋の前に辿り着き、2人に声を掛ける。


「寝転んでる奴は後回しで、先に武器を持っているのを狙います。僕は左の、ロイスさんはもう1匹の方をお願いします。」

「うん。」


僕が事前に決めていた合図──手を振り下ろし、小部屋に突入する。


飛び出した僕達には気づいたが遅い。


僕は事前に狙っていた方のコボルトのうなじに短剣を叩き込み、貫通させる。

小さな喉笛から短剣が突き出ていた。


僕は既に事切れたコボルトから目を離し、ロイスさんの方を確認する。

ちょうどロイスさんもコボルトの首をはねたところだった。


そして僕は寝そべった状態から起き上がり、武器を探している子コボルトの首をはねる。

子どもだからといって躊躇してはいけない。

親を人間に殺されたモンスターは必ず人間を襲う。

被害者を減らす為にも、僕達がやらなくてはいけない。


僕は短剣の血を払い、こっちに向かってきたロイスさんとハイタッチをする。

女の子とハイタッチなんて、こんな状況じゃないとチキって出来ないだろう。


「これで全部だよね?」

「そうですよ、多分。」

「じゃあ、剥ごうか。」

「そうですね。」

「ティを呼んでくる。」

「あ、お願いします。」


僕達はカーティスさんを迎え、討伐証明を取り始めた。



────────────────────



僕達が洞穴から出ると、日が少しだけ、傾いていた。

時計によると時間は残り1時間半。

モンスターを探しながら集合場所に向かっているとちょうどいいぐらいになるはずだ。


「あと、1時間半なのでそろそろ帰りますか。モンスターを探しながら帰ったらちょうどいいはずです。」

「うん。」

「りょー。」


僕達は元来た道を引き返す。

もちろん、周囲の警戒は忘れない。


「いやー、カズヤくんのお陰で楽だったよ。」

「ティは何もしてないじゃん。」

「それは言っちゃ駄目でしょ!火属性の魔術師なんだから仕方ないじゃない!」

「うそうそ、ティも頑張った。」

「むー。あっ、そういえば何匹倒したんだっけ?」

「ゴブリンが5匹で、コボルトが4匹ですね。」


洞穴から出たあと、隠したコボルトの討伐証明も忘れずに取っておいた。


「9匹かー。」


と、カーティスさん。


「結構凄いんじゃない?」

「全部カズヤ君が事前に見つけておいてくれていたお陰なんだから、お礼をしないと。」

「いえいえ、別にそんなのいいですよ。むしろ、足りないところがあるかもしれないということの方が心配です。」

「足りないとこなんか無かったよ。」

「そうですか、それは良かったです。」


僕達が談笑しながら帰っていると、右手の方で、ガサガサと音がした。


「皆さん!何か来ます。戦闘準備お願いします!」


僕は武器を構え、待ち構える。


ガサガサという音が段々と大きくなり、出てきたのはエリナと同じパーティの男だった。

その男(確か山内)が僕達の顔見た瞬間、叫び出した。


「に、逃げろ!モンスターが!!」


山内の服は血や土でどろどろに汚れていた。

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