2.異世界へ
光が収まり目を開くと、そこは異世界もののアニメで見慣れている玉座の間、のような場所だった。
天井には豪華絢爛なシャンデリアが幾つも吊るされている。
前方には真紅の絨毯が玉座に向かって敷かれ、その隣を甲冑姿の騎士が剣を携え整列していた。
「っ!!」
異世界召喚だ!!
和也思わず出そうになった歓喜の叫びを噛み殺す。
クラスメイトの皆が困惑している中で一人だけ喜んでいるのは変だ。
…いや、でもずっと黙ってるのもおかしいよな。
とりあえずここは皆と同じように困惑した振りをしておこう。
和也はきょろきょろと辺りを見渡しながら、芝居を打つ。
「え!?どこだよここ!?」
…ちょっと大根過ぎるのが否めなかったが、皆状況を理解するのに精一杯で気にした人は居ないみたいだ。
ふぅ、よかった。
目立ちたくない。
「ん?」
前から豪華絢爛なドレスを纏った、輝く金髪の少女が歩いて来た。
歳は17〜18ぐらいだろうか、丸く大きな蒼い瞳に、青を基調としたドレス。
ドレス自体は清楚なのにも関わらず、胸元が少女の大きな双丘に押し上げられ、見る者を魅了する魔性の色気が出ている。
美しい。
月並みな言葉だが、そんな言葉しか出てこないほど僕は彼女の圧倒的な美に魅力されていた。
「初めまして勇者の皆様。私はアリシア・ルーレンスと申します。」
鈴の音の様な声が、僕達の耳を震わせる。
手始めに美少女=美声説を提唱したい程だ。
「まず始めに、私共の事情で召喚してしまい、本当に申し訳ございません。」
少女が申し訳なさそうに頭を下げる。
それと同時に、ざわっと騎士達に動揺が走った。
そして、頭を下げたお姫様の谷間が強調されて凄いことになっている。
凄いとしか言葉が浮かばない。
うん、凄い。
こんな光景初めてだ。
見すぎは良くないと思い、和也は目を逸らす。
周りの男子も同様の感想をもった様で、目を逸らす者、折角の機会だと血走る程に目を見開いてガン見する者と、反応は様々だった。
「アリシア様!貴方様が頭を下げる必要はございません!」
彼女の隣から焦った様子の渋い声が聞こえた。
隣に居たのはタキシードを着た、どことなく風格を感じられる男性だった。
「いいえセバスこれは私の責任です。私が頭を下げるのは当然のこと。」
アリシアが頭を上げ、セバスを戒める。
「しかし…」
定番の名前にテンションが上がる。
執事=セバス。
定番中の定番。
それもイメージ通りの老執事。
最高だ。
…それより、アリシアさんは本当に申し訳なさそうにしているように見える。
演技でも無さそうだ。
「あの、そろそろ事情を説明してくれませんか?ここは何処なんですか?それと召喚って?」
剣崎が手を挙げ、皆が聞きたがっていたであろう質問をする。
率先して何かをやってくれる人が居るのは嬉しいものだ。
物事が滞りなく進む。
「申し訳ございません。何も説明なしで。」
再び彼女が頭を下げる。
今度は、騎士とセバスは動揺しなかったが、男子は2度目の絶景に盛り上がり、少し前屈みになる者もいた。
「ここはルーレンス王国の王城の『玉座の間』です。そして私共があなたがたをここに呼んだのは勇者となってこの世界を救って欲しいからです。」
おおっ、勇者展開!
夢にまで見た怒涛のテンプレラッシュに和也のテンションは上がりっぱなしだ。
「救うって、どういうことなんですか?」
佐藤が小首を傾げ、質問する。
「はい、簡潔に言うと、我々人族は魔王の率いる魔族によって侵略されているのです。」
魔王の存在。
まるでゲームのようだ。
作り物かってぐらいテンプレが多い。
まあ、そっちの方が楽しみなんだけど。
これで無双まで出来たら完璧なんだけど。
「具体的にはどうしたらいーんですか??」
谷口が腕を組みながら尋ねる。
谷口さんもアリシアさんに負けず劣らずの大きさだ。
何が、とは言わないけど。
「あなたがたには勇者となって魔王を倒していただきたいのです。」
「ちょっとちょっと待って下さい!生徒にそんな危ないことをさせる訳にはいきません!私たちを元の世界に帰してください!」
川崎が焦ったように、言葉を挟む。
…川崎先生やっと復帰したのか。
さっきまでずっとぽけーっとしてたのに。
『元の世界に帰る』その言葉で、ほとんどのクラスメイトがハッとした表情になっていた。
いつの間にか勇者になるという話が進んでいて元の世界のことを失念していたようだ。
僕はもちろん気づいていたけど。
どっちにしろ、帰れたとしても帰らない。
「それは出来ません。」
アリシアが、これ以上なく申し訳ない様子で告げる。
肩もしゅんと下がり、こちらまで申し訳なくなってきた。
「何故ですか!来れたのなら帰れるんじゃないんですか!?」
「勇者召喚の秘術は古代の遺跡から発掘された石版に書かれていたもので、元の世界に戻す方法は分かっていないのです。そして、魔王に対抗出来るのはあなたがただけ。このままではいずれ人族は滅ぼされてしまいます。勝手な願いではありますが、どうか、どうかお願いします。」
姫様が瞳を潤ませて懇願する。
流石に川崎先生もこれには弱いのかウッとたじろいでいた。
「でも…生徒の安全が一番大事ですし…。」
「分かりました。」
アリシアがぱあっとした様子で、顔を上げる。
その顔は大輪の花の様に晴れ晴れとしていた。
2つの球体が上下に揺れ、目が吸い寄せられる。
「剣崎君いきなり何を!?」
「この世界には俺らの力が必要なんですよね?じゃあ俺はやります、勇者。」
「…誠君が戦うなら私も。」
佐藤さんが勢いよく手を挙げる。
「あーしもー。」
「俺もやるぜ?勇者とかゲームみたいで楽しそうだしな。」
「
剣崎が宣言したおかげで私も、俺もとクラスメイトの決心がついたのか続々と手が上がる。
よし、剣崎が波を作ってくれたおかげで僕も堂々と参加出来るようになった。
モブが一人で手を挙げることは不可能に近いからな。
「ちょっと、皆さん!?何言ってるんですか!?」
「先生、俺はこの世界の人々を救いたい。俺なんかになにが出来るのかなんて分からないけど。俺たちの力を必要としてくれる人が居るんだから俺はそれに応えたい。」
「でも…」
よし、頑張って先生を説得してくれ。
「それに先生もよく困っている人が居たら助けましょうって言ってるじゃないですか。」
剣崎がイケメンスマイルを浮かべながら言った。
先生は自分の口癖を出されるとは思わなかったのか、今にも折れそうだ。
川崎先生はピシッと背筋を伸ばし真面目な顔で口を開く。
「剣崎君、それと皆さん決して無茶をしないと約束出来ますか。」
「はい。」
剣崎が即答する。
異口同音、クラスメイトも剣崎に続き返事をする。
「私からもどうかお願いします。」
再びアリシアが深く頭を下げる。
セバスもその隣で頭を下げていた。
何度も頭を下げられては流石に川崎先生も折れたようで、はあ〜と大きな溜息をつき口を開いた。
「分かりました。生徒達をできるだけ安全にしてくれるなら許可します。」
「ありがとうございます!」
アリシアが笑顔で顔を上げる。
よし、上手く行ったみたいだ。
これから僕の恋焦がれた異世界ライフが始まると思えばドキドキするな。
楽しみだ。
「では勇者の皆様、今後のことを説明いたしますので付いてきて下さい。」
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