第2話

目を細め周りを見た。

そこはまるで色彩と音が存在しない空間に思えた。

凝視すると装飾が施された柱が並ぶ一本道の回廊だった。


イスに座っている自分の身体に違和感を感じて身体を触った。

すると胸にある筈のケーブルが無く車椅子に座っていた。


維持装置が無くなっていることで確かに自由に動き回れる身体にはなっているが、想像とは違った。


膝に標本を抱え車椅子を進めると、柱の影に人影が見えた。


人影は子供で、近寄ると向こうから寄ってきた。


「お兄ちゃんはどこから来たの?」

「なんで車椅子に座ってるの?」

「何を持ってるの?」

矢継ぎ早に質問が飛んでくる。


…独りで居るのが淋しいのかな?…


俺はそう思い、

「すごく遠い所からだよ、ちょっと話そうか?」

と声をかけた。


子供は「いいのっ?」って喜んでいる。


「君の名前は何ていうの?」

「僕の名前はTだよ、真名は教えちゃいけないって言われてるんだ。お兄ちゃんは?」


「俺の名前は侑だよ」

「Uっていうんだ、僕の次だね」

…勘違いされてるな、まぁいいか…


「他には誰か居ないの?」

「この先から泣き声が聴こえていたから誰かいると思うけど会ったことは無いよ、ずっと独りだよ。」


…ここにずっと独りで…淋しいだろうな


「お兄ちゃんが持ってるのは何?」

「石の標本だよ、俺の大切な宝物だよ」

俺は標本はTに渡した。


「見てもいいの?キレイだね、いろんな形だし色もいっぱい」

「俺の居た所にはもっとたくさんのいろんな石が有るんだよ、その中でも好きな物を標本にして持っているんだ」


「お兄ちゃんの腕の石もすごくキレイだね」

Tは目をキラキラさせて、侑の腕を見て言った。

俺は秋元さんがくれたチャクラブレスを腕にしたまま来てしまった事に気付いた。


「…大切な物を一つ持ってと書いてあったのに」

…どうしよう、戻るわけにも行かないし…

俺が黙ってしまった瞬間。


Tが急に走り出したと思ったら、転んだ。

俺は車椅子を進めて、Tを起こしてあげようと手を伸ばした。

俺はバランスを崩し、車椅子を倒してしまった。


「お兄ちゃん、大丈夫?」

Tは心配そうに俺を見ている。


俺は車椅子を倒した時に、標本を床に落としてしまった。

カバーが外れた標本は床に石をばら撒いていた。


床を這うようにして石を集めていたら、Tが手伝ってくれた。

石を全部集めたら、Tがケースを持ってきてくれた。

俺は受け取ると、無意識に座っていた。

すべてを並べ終わると、俺はもしかしてと柱に掴まり立ってみた。


「…立てる」

おぼつかないが、歩けた。

Tが後ろからついてくるなか柱何本分かを歩くと

「僕はここ迄しか行けない」

Tは淋しそうに云う。


「遊んでくれてありがと

標本を持って歩くとまた落とすかもしれないから、僕の宝物を貸してあげる」

Tは気丈に言った。


受け取るとそれは小さなカバンだった。

「いや、入らないよ」

俺は気持ちだけ受け取ろうとした。


Tがカバンを開けた。

標本は吸い込まれるようにカバンの中に消えていった。

「…インベントリ?」

それはよく読んでいたラノベの中に出てくる無限収納のようだった。


「宝物なのにいいの?」

侑は自分に不相応なカバンに戸惑う。

「遊んでくれて嬉しかったから貸してあげる」

Tは心から楽しかった。

そして、また会えることを知っていた。


「じゃ、俺もこれを貸しててあげる」

手首からチャクラブレスを外して、Tに着けてあげる。


「お兄ちゃんの大切な宝物でしょ?いいの?」

Tは目をキラキラさせてる。


「良いよ、カバンを返しに来るまで着けててね」

俺は手を振りながら先に進む。

10年振りに自分の足で。


しばらく歩くと大きな扉の前にBと名乗る子が

「扉の中でお待ちです、中へどうぞお進み下さい」


俺は扉を開いて中へ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る