第4話
「所で、その猫はどうした?」
バトラは侑の足元でゴロゴロ言ってる黒猫が気になった。
侑は事の経緯をバトラに話した。
「なるほどな、それで連れて帰るのか?」
バトラは少し不安な顔をした。
「そのつもりだけど、猫は駄目?」
バトラの不安な顔に気付いた。
「いや、逆だ。
メイは可愛いものが大好きでな、特に猫は…
あいつ、何もしなくなるかもしれないぞ?」
バトラはゾッとした。
「そんなに?!」
侑はメイのイメージからは想像出来なかった。
「まぁ、いい。
あいつもミチルロス症で凹んでるからな。」
バトラはふっと笑い、
「で、何処に行きたいんだ?」
バトラは本題に入った。
「町の外れにエルフが住んでる家があるみたいなんだ。
名前は『エリカ』って言う人。
俺の今後を左右するかもしれない人だとブラフマー様が言っていたんだ。」
侑が行き先を伝えていると、
『エリカさんち知ってるよ。
うちの子供も近くに居るから、案内するニャー。』
黒猫が喋った。
「猫が家を知ってるから案内するって。」
猫が先頭を歩きだして、侑が後をついて行きながらバトラに話した。
その家は工房から北に向かって少し歩いた所にあった。
町の外れに相応しく、周りに家は無いし裏は山の斜面になっている。
「子供を連れてくるニャー。
話が終わったら、待っててニャー。」
黒猫は走って山に消えて行った。
ドアをノックすると、中から二十代前半位に見える女性のエルフが出てきた。
その姿に侑とバトラは驚いた。
スタイルはトランジスタグラマーなのだが、目が行くのは顔半分を覆うくらいの包帯。
右半分は綺麗なグリーンのストレートヘアなのだが、左側は包帯の隙間から見える限りチリチリだ。
「どちら様でしょうか?」
エリカは初対面の二人を見ると何故来たのか分からない。
「侑と申します、此方は父のバトラです。
俺は神様の信託があり、こちらを伺いました。」
侑は信用され易い言葉を選んだ。
「取り敢えず、散らかってますが中へどうぞ。」
エリカは二人を家の中に招いた。
侑とバトラはエリカと向かい合って座った。
「俺の大切なパートナーが遠い所で治せない病気と闘っているんだ、だから俺もこちらから援護がしたい。
俺に加護を与えてくれた神様が、貴女に会えと俺に道を示してくれました。」
侑はミチルの力になりたいと、その為に自分が何を出来るか探していると話し始めた。
「そういうことでしたか、私でお力になれるか分かりませんが…
多分、この怪我の事でしょうね。」
エリカは良い記憶では無いから話したくない。
「お話頂ける範囲で構いませんので、お願い出来ませんか?」
侑は糸口が欲しい。
「私は隣の国にあるエルフの集落に居ました。
ある時、火鼠の大群が集落の付近に現れました。
私の婚約者は集落の守備戦士で、最前線に行き火鼠の進行を防いでいました。
私は治療師をしており、婚約者の助けになる様に前線に行きたいと進言していました。
集落には掟がありました。
許可がない限り集落の外に出てはいけない。
もし、出た場合は二度と集落に入る事は出来ないと言うものです。
進言していましたが許可の無い私は見ている事しか出来ませんでした。
そして、悲劇が起こったのです。
盾役の戦士が崩れ、彼に火鼠が襲いかかりました。
私は見ていられず、制止を振り切って集落から出てしまいました。
私の魔力が続く限り、彼にヒールをかけ続けました。
彼も頑張りましたが、私の魔力が尽きると倒されてしまいました。
魔力切れを起こして倒れた私を見て、周りの戦士は庇うように戦ってくれました。
私の左側に火鼠の死骸が転がり、私の左半分を押し潰しました。
集落を守り切った戦士は私を起こして、集落に戻そうとしましたが掟により拒絶されました。
」
エリカは下を向いたまま、泣いている様にも見える。
集落を離れた事より、怪我より婚約者を失ってしまった事が辛い。
「「エリカー!エリカー!
居るかー?火傷したー!治してくれー」」
ドワーフがバタバタと入ってくる。
「はいはい、いま治しますよ。」
エリカはドワーフの腕を握り、ヒールをかけた。
軽い火傷なので、すぐに傷跡は無くなった。
「おう、ありがとう。
これはお礼だ。」
ドワーフは野菜や肉を『ドンッ』と置き、また頼むなと出て行った。
「なんですか、今のは?」
侑とバトラは突然の出来事に目を丸くしていた。
「流れ着いた私の事を心配してくれているのでしょう。
理由をつけて、食べ物を持って来てくれるのです。
こんなナリの私を気に留めてくれて有り難いです。」
エリカは優しい笑顔でいる。
「包帯の下は火傷ですか?」
「はい、火傷です。
ヒールやキュアを試しましたが、一瞬良くなりすぐにまた火傷が広がるのです。
火傷が広がる時に痛みを感じるので、何回も試した訳では無いですが治らないと思います。」
「治って、再発する時に痛みがあるのですか…
では、試す訳にはいかないですね。
ポーションとかは試しましたか?」
「ポーションは高価な為、試してないです。
もし、診たいのであれば一回位は我慢しますよ。」
エリカは包帯をほどこうとした。
「いや、今日はやめておきます。
効果的な魔法を調べて、レベルを上げてからお願いします。」
侑はなるべくエリカの負担を減らして、効果を上げたかった。
「あっ、渡し忘れたのですがこれはお土産です。」
侑はカバンの中から、鮎を出した。
「綺麗なお魚ですね。
ありがとうございます。」
エリカは久しぶりの魚に喜んだ。
「今日はそろそろ失礼しますね。」
侑が立とうとした時、
「侑さん、外から殺気を感じます。
山側に隠れている感じです。」
ラピスが教えてくれた。
「一つ質問しますが、一人暮らしですよね?
知り合いとか、親類は近くに住んで居ないですよね?」
「はい、婚約者は亡くなりましたし流れ着いたので知り合いも居ません。」
「では、戸締まりに注意して下さいね。」
侑は遠回しに知り合いじゃないか確認するとドアを出た。
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