第3話

「ついて来たの?」

侑は二匹に全く気付かなかった。


「うん、でも分離して家にも残っているから向こうは安心して大丈夫だよ。」

ラピスはスーパーボール位のサイズで侑の手のひらに乗った。


「指輪を二つください。」

侑はリゼに契約獣用の指輪を二つお願いした。

受け取った指輪をラピスとルビーに渡すと、二匹は体内の頭近くに留めた。


「王冠みたい。」

二匹ははしゃいでる。


「じゃ、そろそろ行きますね。」

侑は二匹をポケットに促し、席を立った。


「指名依頼かけるからなるべく早く来てね。」

ロゼは冗談の様に本気で言った。


リゼに送られてギルドから外に出た。

鍛冶工房に向かって歩き出すと、ちょっと騒がしい。


「助けてニャー、何で追っかけられるのニャー。訳分かんないニャー。」

向かう先から、黒猫が走ってくる。


「待てー!泥棒猫ー!」

包丁を持った男が猫を追いかける。


「おいで。」

侑は黒猫を呼び寄せ、抱き留めた。


「お前が飼い主か?」

包丁を持った男が侑を睨む。


「いや、困ってる様だから捕まえるのを手伝っただけだよ?」

侑は黒猫を抱えながら話す。


「この猫、何したの?」

侑が聞くと、


「うちの魚を咥えて盗んだんだ、その猫寄越せ。」

男は礼も言わず横柄な態度だ。


『いや、盗んでないニャー。

いつも通り、店の隅に打ち捨てられていたのを貰っただけニャー。

いつもは、女のお客さんにデレデレして魚をくれたのにおかしいニャー。』


「この猫、気に入ったので俺が払いますよ。

幾らですか?」

侑は男にわざと値段を聞いた。


「大銀貨二枚だよ。」

男は悪びれず、吹っ掛けてきた。

周りの人達からどよめきが聞こえた。


『そんなわけ無いニャー、片すみに捨てられてた魚ニャー。

いいとこ、銅貨一枚ニャー。』


「そんな高級な魚を盗んだんですか?

信用第一の商人さんが嘘は云わないと思いますが、一匹でその値段ですか?」

侑は見ていたかのような話し方にして、追い詰める。


「…一匹じゃ無いよ、毎日の様に咥えて盗んだんだ。」

男は場の空気が悪くなってきたのが分かったか、口調が大人しくなってきた。


「毎日ですか、それは酷いですね。

何で毎日行くのですかね?

もしかして、あげたりしませんでしたか?」

侑は更に追い詰める。


「…確かにやった事もあったよ。

でも、だからと言って盗まれた事に変わりは無い。」


「一度でもあげたら、駄目ですね。

人間の言葉が分からないから理解もしない。

動物にしてみれば、貰ったは貰えるなんですよ。」


「分かったよ、もういいよ。」

男は根負けした。


「でも、猫が毎日の様に貰いに行く魚は興味深いです。

お店まで案内してもらってもいいですか?」

侑は今後の事も考えてフォローを入れた。


「あぁ、直ぐそこだ、案内するよ。」

男は店を指差した。


店を見ると、川魚がキレイに並んでいる。

鮮度は悪く無いし、種類も豊富だ。


「いま、一番美味しい魚は何ですか?」

侑は店主に聞いた。


「いまなら、鮎だな。

一匹、銀貨五枚だな。」

店主は即答した。


「じゃ、鮎を六匹下さい。

出来れば、二匹は別で包んでくれると助かります。」

侑は自分達用の他に、これから向かうエルフの手土産用にも買った。


「はいよ、大銀貨三枚だ。

…岩魚はサービスだ、持ってけ。」

店主は鮎の他に岩魚を二匹寄越した。


「ありがとう、また買いに来るよ。」

侑は猫を降ろし、魚を手に持ち歩き出した。


『助かったニャー、ありがとうニャー。

でも、何で言葉が分かるニャー?』

黒猫は後ろからついて来る。


「俺は動物やモンスターの言葉が分かるスキルを持ってるからね。」


「珍しい人間ニャー。

付いて行って良いかニャー?

子供も居るんだけど良いかニャー?」

黒猫は言葉が通じる侑に懐いた。


「これから人に会うから、大人しく待ってるなら別に良いけど。」

侑はスマホの待ち受けにするくらい猫が好きだった。


「侑さん、この猫変ですよ?

モンスターの反応があります。

鑑定眼で確認した方が良いですよ。」

ポケットの中からラピスが話しかけてきた。


「モンスターの反応が?

ちょっと待って。」

侑は鑑定眼を発動して猫を見た。


種族 猫?

血統 雑種

性別 メス

黒毛和種とサーベルキャットの交雑種


「種族の後ろに『?』があるね。

どういう事かな。

転生人が猫を希望したとか?」

侑が『?』について考えていると、ステータス画面にノイズが走ったが、すぐに戻った。


気付くと鍛冶工房の前に立っていた。


「侑、こっちだ。」

バトラが侑を手招きしている。


中に入ると、熱気に溢れていた。

其処には汗だくの額をタオルで拭っているドワーフがバトラと一緒に立っている。


「よく来たな、お主が侑か。」

工房主は侑を快く歓迎した。


「はじめまして、侑と申します。

お忙しい所をお邪魔させて頂き、感謝致します。」

侑はバトラが恥をかかない様に丁寧な挨拶をした。


「堅苦しい挨拶は良い、お主は鍛冶と錬金のスキルを持っているらしいな。

ならば、わざわざこんな暑苦しい所まで来なくても良かろうが?」

工房主はスキルの優位性をよく知っている。


「確かにスキルで物は作れますが、スキルだけで作った物は非常に脆いのです。

スキルでは、器は作れても魂は込めれないと言う事でしょう。

魂を込めるには、スキルに頼らずに自分の力量を打ち込むしか無いのです。

だから、職人と呼ばれる人達が作った物を業物と言うのでしょう。

俺はそれを学びたいのです。」

侑は熱く語った。


「なるほどの、今時の若いもんにしては考えがしっかりしている。

儂はお主が気に入ったぞ。

何時でも訪ねて、工房を好きに使えば良い。

分からない事が有ったら、儂に聞け。

一人前の職人にしてやる。」

工房主は『ガハハ』と笑った。


「ありがとうございます。

明日からでも、通いたいと思います。

宜しくお願いします。」

侑は深々と頭を下げた。


「おう、何時でもいいぞ。

待ってるからな。」

工房主は軽く手を上げ、奥に戻って行った。


「じゃ、帰るか。」

バトラは侑に声をかけた。


「父さん、寄りたい所が有るんだ。」

侑はエルフの家を探したかった。

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