第20話

「あー、ちょっとお取り込み中みたいだけど良いかな?」

サラは開けたドアから顔だけ出している。


「別に取り込んでないよ?

エリカの装備を作っていただけだよ。」

侑はエリカの頭を撫でながら答えた。


「侑にしてみれば、エリカは猫と一緒なのかな?」

サラは抱きついているエリカと頭を撫でる侑の態度が苛つく。


「何言ってるの?

猫は猫、エリカはエリカだよ?

一緒な訳ないじゃん。」

侑はしれっと答えた。


「もういいよ、侑が私の事を呼んでるってメイさんに言われたんだけど?」

サラは何を言っても無駄だと思い、本題に入った。


「うん、母さんとエリカの装備を作ったから次はサラの弓を作ろうと思って。」

侑はエリカにリビングで猫と遊んでてと頭を撫でた。


エリカは侑の作ったナイフを大事そうに持って部屋から出て行った。


「で、どんな弓を作ろうか?」

侑はソファーを手でポンポンと叩き、横に座る様に促した。


「別に拘りは無いし、普段は大鎌だから任せるわよ。

面倒くさかったら取りに行くし。」

横に座ったサラは不機嫌だ。


「ロゼから聞いたよ。

弓の技術が凄いって、それに驚いていたよ。」

「何に驚いてたのよ?」

「サラがパーティメンバーになってるのが。」


サラは侑からロゼの言った内容を聞くと。

「凄い謂われようね、あの子とのパーティが面倒くさかっただけよ。

フルコンタクトで戦われると、狙えないのよ。

ちょっと離れてる敵を狙ってると凄い勢いで走り込んで来るのよ。

危なくて狙えないわよ。」

別に面倒くさがりでは無いし、パーティで戦うのも嫌いでは無いとサラは言った。


「分かったよ、サラは悪くない。

もう一回聞くけど、どんな弓がいい?

大きさとか素材とか重さとか、何か注文は無いの?」

侑は紙に弓の絵を書き始めた。


「大きさはあまり大きくない方がいいな。

素材は木と金属を上手く合わせて。

重さは軽い方がいいな。」

サラは力があまり無いから軽い力で弦を引ける方が良いと言った。


侑は弓の絵にサラの要望を書き加えていく。

イメージが固まってきた。

付加はどうするか…

元々、技術が高いから精度は要らないな。

飛距離アップと攻撃力アップかな?


「こんな感じで作るけどいいかな?」

侑は紙をサラに渡した。


「充分過ぎるよ、大鎌使わなくなるかも…」

サラは今回レンジャーになるけど、薬師に戻らなくなるかもと不安になった。


「じゃ、始めるよ。」

侑は創造を始めた。

弓のフォルム、付加を二つ。

イメージが固まってきたら、名前を与える。

弓の名は隼〈はやぶさ〉。

侑はクリエイトを発動する。

魔法陣から、隼を取り出した。


「出来たよ、名前は隼だよ。」

侑はサラに弓を渡した。


「隼。

いい名前ね、弓の木の部分に装飾があるのね。

鳥の羽根のイメージかしら?

紙に描いた弓には無かった筈だけど?」

サラは弓をさすりながら、侑に聞いた。


「イメージは有ったんだよ、ただ見せなかっただけ。

所謂、サプライズってやつかな。」

侑はエリカと同じようにサラの頭を撫でた。


「不思議ね、侑に頭を撫でられると落ち着くっていうか…」

サラはエリカの態度に納得した。


『恋人に死なれて、集落から追い出されたエリカ。

顔の半分は火傷、流れ着いても独り。

ずっと、心は緊張していたんだろうなぁ。

侑と出逢って、心の拠り所を見つけたのかもしれない。

その事に侑は気付いてるのかしら…』


「別にただ撫でてるだけなんだけどな。

嫌ならやめるよ?」

「別に嫌じゃ無いけど…

エリカにしてる事と同じなの?」

サラは侑を試してみた。


「たいして変わらないかな…

ただ、エリカの場合は大丈夫だよって気持ちが入ってるかな。

居場所も追われて、知り合いも居ない独りぼっちだからね。」

侑はしっかりとエリカの事を考えていた。


「侑のその気持ちをエリカが勘違いして受け取ったらどうするの?

例えば恋心になったとか。」

サラは侑の優しさが上手く伝わってない気がした。


「その時は責任取るよ。

俺も似たような境遇だからね。

知らない世界に転生して、身内も居ない。

俺がエリカの恋人になっても、誰にも迷惑かからないと思うし。」

侑は火傷が有るか無いかだけでエリカと同じ境遇だから、それが心の拠り所になるなら構わないと言う。


「侑は本当にそれでいいの?」

「良いわけ無いに決まってる。

誰が相手だとしても、互いに好きになって恋人になるのが理想だよ。

ただ、理想は理想でしかない。

結果的に誰も傷付かなきゃ良いと思ってるよ。」


「それで、侑は傷付かないの?」

侑の考え方が納得出来ないサラは、侑に顔を近付けて表情を覗き込む。


「俺の周りの人が傷付かなきゃ、問題無い。

それに俺は多分、エリカに好意を持っている。

人を好きになる事を覚える時期にはベッドの上に居たから好きと言う物が分からない。

でも、エリカが寂しい顔をしているのを想像すると胸が苦しい。」

侑は好きという気持ちは分からないけど、エリカには笑って欲しいと言った。


「侑にそういう気持ちが有るのなら、何も言わないわ。」

サラは少し安心した気持ちと、少し寂しい気持ちを持った微笑みで侑を見た。


「弓、ありがとう。

大事にするね。」

サラは弓を抱えて、部屋を出た。

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