第8話

「案件は二つあるの。

一つは侑が蒔いた種よ?

もう一つは侑じゃなきゃできない事。」

ロゼはため息をつきながら、一つ目の案件を話し出す。


「侑、あなたエリカの家の前で冒険者を殺しかけたでしょ?

そいつ、一応Dランクなんだけどある事無い事言いふらしてるみたいなの。

もとから嫌われ者だから、誰も相手にしてないけどウザいのよ。

いっその事、殺してくれれば良かったのに。」

ロゼは本気で言っている。


「で、俺にどうしろと?

殺して来いとか言う?

それとも、ごめんなさいすればいいのか?」

侑はそいつの事を考えるとイライラが止まらない。


「いや、侑を殺人者にする気は無いよ?

ただ、ホントにウザいのよ。

出来るだけ大勢の前で懲らしめてくれない?

今回に限っては名誉毀損があるから、先に手を出しても問題ないよ。」

ロゼは無茶振りにも聞こえる事をさらっと言った。


「もう一つは見当ついてるでしょ?

大体当たりなんだけど、ちょっと複雑になってるの。」

ロゼはこっちが難題だという。


「でも、報酬はすごいよ?

報酬は私。

嘘です!ごめんなさい!睨まないで!

ホントに凄い報酬よ。

多分、侑が今一番欲しいもの。」

ロゼは敢えて、内容は言わない。


「気が進まないけど、俺が蒔いた種だからね。

仕方ないから、片付けてくるよ。」

侑は重い足取りでドアを空けた。



建物を出るとポケットの中のラピスを呼んだ。


「あいつを探せば良いんですよね?」

ラピスは全て聞いていたので、自分の役割も心得ていた。


「そういう事、さっさと終わらせよう。」

侑も索敵を発動した。



「侑さん、居ましたよ。

相変わらず、物影に居ますね。

此処から北に200メートル位ですね。」

ラピスが見つけた。


「ルビー、おいで。」

侑はポケットからルビーを呼んだ。


「今度こそ殺す?」

ルビーは侑に迷惑をかける奴は許さないとかなり怒っている。


「いや、殺さないよ。

ラピスとルビーで、ここまで誘導してきて欲しい。

それなりの大きさになって、追いかけ回せば此方に来るだろう。

従魔の指輪をしてるから、町中にいても危害は加えられないよ。」

侑はこの場所ならすぐに人が集まるだろうと考えた。


「「了解、行ってくるよ。」」

ラピスとルビーは建物の影を這うように、そーっと奴の背後にまわる。


バスケットボール位の大きさに変化した二匹は背後から威嚇した。



〈ストーカー視線〉

不気味な声に気付き後ろを見ると二匹のスライムが襲いかかろうとしていた。

慌てて通りに飛び出すと、回り込む様に道を塞がれた。

逃げ道は片方しか無い。

全力で走っていたら、一番見たくない顔が見えた。

そうか、アイツの従魔か。

アイツが焚き付けたのなら、文句を言ってやろう。



侑とストーカーは対峙した。

「二度と俺の前に顔を出すなと言ったよな?

そんな簡単な事すら覚えてられない馬鹿なのか?」

『お前が従魔に俺を殺させようとするからだろ!』

「なんの事だ?お前は生きてるだろ?

それとも、アンデッドか?なら退治するが?」

『ふざけるな!!』

「フザケてるのはどっちだ?」


ーー周りに人混みが出来てる、ギルドの中からも大勢の冒険者と目立つ赤髪が見える。


『お前は何様だよ!

俺が何したっていうんだよ!』

「お前はエリカさんをストーキングして自分の物だと言い放ったよな?

挙句に俺を邪魔者扱いして殺そうとしたよな?

で、お前は漏らしながらなんて言った?」

侑はストーカーを煽る。


『お前は何を言ってるんだ?!

何処にそんな証拠がある?

俺に嫉妬して貶めたいだけだろ?』

ストーカーは自分が被害者だと言い放った。


「別にそんな事はどうでもいい。

俺はお前に言った筈だ、二度と顔を見せるなと。

お前はそれを破った、しかも中傷行為と言う卑劣極まりない行動もしてだ。

お前はあの時、死んだ方が楽だったな。」

侑は今の自分の立ち位置を考えろと、周りを見てみろと言った。


『あ?何だよ、何集まってるんだよ!

見世物じゃねぇよ!散れよ!』

ストーカーは分が悪くなってきたので、人払いを始めた。


「人混みじゃないよ、足元だよ。

あ・し・も・と」

ストーカーの足元にはスライムが二匹、命令を待っている。


『どけろよ!

何やってんだよ!ふざけんなよ!』

ストーカーはあの時の事を思い出した。


「スライムに何ビクついてんだ?

曲がりなりにも冒険者だろ?

でもな、そいつは俺の命令に絶対服従だからいまはお前を襲う事は無い。

あ、命令を増やすぞ。

お前が嘘をついたら噛み付いて良い。」

二匹のスライムはぴょんぴょん跳ねてる。


『何言ってんだよ!

スライムに言葉がわかるわけ無いだろ!』

ストーカーが吠える。


「うちの従魔はお前とは比べられない位、頭いいぞ?」

『大体、なんで俺が嘘をつかなきゃならない?』

〈ガブッ〉ラピスが噛み付く。

『噛み付いたぞ、死んだらどうするんだ?』


「なんで、スライムが噛み付いたら死ぬんだ?

やっぱり、お前は馬鹿か?」


『お前が言ったんだろうが!

毒持ちだって!』


「あー、馬鹿でも覚えてたか。

それは赤い方だ。青い方は無害だ。」


『ふざけんなよ!脅かしやがって!

大体あの時だって、お前が脅したんだろうが!』

〈ガブッ〉


「また、嘘ついた。

いい加減認めて謝れよ、そしたら許してやるよ。」


『俺は悪くない、なんで謝らなきゃいけないんだ!』

〈ガブッ〉


「面倒くさいな、そういえばお前の自慢の両手剣はどうした?

今日は持ってないのか?」


『持ってねーよ、持ってたら今頃お前は死体だよ!』

〈ガブッ〉


「じゃ、これ貸してやるよ。

攻撃の意思を感じたら、赤いスライムがお前を噛むように命令する。

お前は俺が命令を終わらす前に殺せ。

出来なければ、お前が死ぬ。

それでいいか?」

侑はカバンから鷹丸を出して、ストーカーの近くに置く。


『お前のほうが馬鹿だな!

後悔するなよ?』

ストーカーは鷹丸を掴んだ。


『なんだ、持ち上がらないぞ?』


「お前は馬鹿な上にひ弱か?

刀の一本もマトモに持てないのかよ。

ま、何にしてもお前は攻撃しようとしたよな?」

侑はニヤッと笑った。


『待てよ!攻撃してないだろ!

ふざけんなよ!』


「いや、お前は攻撃の意思を示したし、俺に後悔するなよと言ったよな?」


『待った、待った。

俺が悪かった、二度と顔を出さないし中傷行為もしないよ。

許してくれよ。』


「はーっ?何言ってんだ?

二度はねぇよ、噛まれて死ねよ?」

ルビーはぴょんぴょん跳ねてる。


『今度こそ、絶対だ。

神に誓うよ、お願いだ許してくれよ。』


「神に誓うだ?

神に誓えば無かった事になると思ってるのか?

随分と甘やかされて生きてきたんだな。

まぁいいや、どの神に誓うんだ?」


『は?神は神だろ?』


「やっぱ、お前は馬鹿だ。

俺だけじゃなくて、神も敵に廻したな。

ギルマス!こいつどうする?

殺すか?」

侑はギルマスに話を振った。


「冒険者が罪を侵した場合は、奴隷か未開発のダンジョン送りだな。

ここで死んだほうが楽かもしれんぞ?」

ロゼは冷めた目でストーカーを見る。


『何だよ、俺が何の罪を侵したんだよ?』


「やっぱりコイツは馬鹿だ。

いま自白したばかりなのにもう忘れてる。

もう面倒くさいな、殺そう。」


『待てよ、死にたくねぇよ。

罪を認めるよ。』


「ギルマス、認めるってさ。

これだけ多くの証人がいれば、言い逃れも出来ないだろ。

あとは任せるよ。」

侑はラピスとルビーを呼び戻し、鷹丸をカバンに仕舞った。


「コイツを引っ捕らえて牢屋にぶち込んどけ!」

ギルマスの命令で、職員が両腕を掴んで牢屋に運んだ。

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