第7話

「はぁー、今日も疲れた。」

侑は毎日工房に通い、金属を鍛えていた。

まだ工房主から、上鍛えの許可が出ないのでひたすら芯鉄を鍛えている。

毎日少しずつ配合を変え火花の散り方や鍛えている最中のヒビの入り方など、資料やスキルでは気付けない感覚を身につけていた。


「鍛冶でこれだと、錬金は思いやられるなぁ。

火傷に関しても情報が少なすぎるし。

レベルも15まで上げたいけど、何も出来ない。」

侑はボヤきながら、今夜も病気や呪いに関する本を読んだ。


『…明日は最新の情報が欲しいから、ギルドに顔を出してみるか。』

侑は嫌な予感がするからと、ギルドから足を遠避けてきた。


『エリカさんの様子も見に行こう。』

何か手土産でも作るか、侑はキッチンに向かった。


キッチンではメイが仔猫と戯れていた。


「母さん、この子達の名前決めた?」


『まだ悩んでるのよねー、』

キキとジジにしようと思ったんだけど、なんかねーと呟いている。


「母さん、アップルパイ作れる?」

侑は久し振りにメイと料理がしたくなった。


「作れるわよ?今食べるの?」

メイは侑が食べると思っている。


「いや、味見程度には食べたいけど。

明日、エリカさんの所に行く手土産にしようかなって。」

侑は手土産用のラッピングもお願いした。


「手土産ね、一緒に作りましょう。」

メイは材料を出し始めた。


リビングで黒い影が動いた。

影は『ドスン』とソファーの上に落ちた?


「オニキスでかくなってない?」

侑がメイに尋ねると、


「よく食べるのよ、それはビックリする位。」

メイは美味しそうに食べてくれるのは嬉しいけど…ね。とオニキスを見た。


「オニキス、カニ食べる?」

侑が何かを思いついて聞いてみた。


『カニですか?食べますよ?大好きですよ。』

オニキスは話に食いついて来た。


「じゃ、明日の朝早くカニを腹一杯食べさせてあげるね。」

侑はそう言うとバトラの姿を探した。


「ねぇ母さん、父さんは?」

バトラの姿が見当たらず、メイに聞いた。


「バトラなら、侑が構ってくれないから部屋に籠もってるんじゃない?」

メイはクスクスと笑った。


「父さん、明日の朝釣りに行かない?」

侑は大きな声でバトラを呼んだ。


ドアが開く音が聞こえると、バトラが出て来た。


「釣りか?カニ退治じゃ無いのか?」

バトラは皮肉っぽく言った、かなり拗ねてる。


「俺のレベルも上げたいし、オニキスとルビーに腹一杯食べさせようかなって。

行かないなら別にいいけど?」

侑は拗ねてるバトラを見て追い打ちをかけた。


「行くに決まってんだろ!

竿の手入れしてこなきゃ。」

バトラはバタバタと部屋に戻った。


『…明日は朝から忙しいな。』

侑は嬉しそうに呟いた。



朝から釣りに出かけ、満足そうな顔のバトラとお腹一杯のオニキスとルビーを連れて侑が家に帰ると玄関に誰か来ていた。


「私はギルドの職員です、ギルマスから伝言を預かってきました。

早急に対応してもらいたい案件があるので、今日中にギルドに顔を出して欲しいそうです。

断わっても罰則はありませんが、断ると次からは本人が出向くと言ってました。」

職員は伝言を伝えると頭を下げて帰って行った。


「侑、お前何かやらかしたか?」

バトラはついて行こうか?と心配している。


「大丈夫だよ、見当はついてるし。

職員が来なくても、今日行こうと思ってたから問題ないよ。」

侑は石を持って行かなきゃ、とため息をついた。



メイに作ってもらった手土産を持って馬に向かうと、ラピスとルビーが馬と戯れていた。


「今日はどうする?」

侑は二匹が朝から忙しく動き回ったのを見てるから、休んでてもいいよと声をかけた。


「大丈夫ですよ、休んでいたのをメインに付いていきます。」

二匹は分離して、ポケットに入った。



工房で慣れた手つきで下鍛えをしていると


「だいぶ形になってきたな。」

後ろから工房主が声をかけてきた。


「ミスリルに混ぜる材料の配合ですが、最良が分かりません。

打っている感じで、軟らかさとか小分けした時の割れ具合の目安が分からないです。」

侑は職人の最初の壁にぶつかった。


「最良か…

作る物によって芯鉄は変えるから、最良は無いな。

お主は刀を作ろうとしているから、それに合わせる芯鉄を作らなければならん。

一度だけ、見本を見せてやろう。」

工房主は侑の隣の作業台でミスリルに材料を混ぜ始めた。


「ミスリルの刀に合わせる芯鉄は少し固めでいい。

打った時の火花はこれ位だな。」

工房主は迷いが無く、芯鉄を打ちあげた。

侑の打ったものとは比べ物にならない出来だった。


「精進せい。」

工房主は『ガハハ』と笑い、侑の肩を叩いた。



侑は工房から出ると、クリーンを発動して服の汚れや汗等をキレイにした。


ギルドのドアを開けると、リゼがすぐに気づいた。


「侑さん!待ってましたよ。」

その声を聞くと、奥のドアが空きロゼが手招きしている。


「待っていたぞ!早く来い!」

ロゼが大声で呼ぶと、周りの冒険者が殺気立った視線で侑を見た。


「何なんですか?

他の冒険者の殺気立った視線、俺の事を敵視してますよ?

居心地悪いですよ、どうしてくれるんですか?」

侑は部屋に入るなり、ロゼに文句を言った。


「悪い、悪い。

後で私の彼氏だと皆に紹介してやるよ。」

ロゼはケラケラ笑った。


「じゃ、二度と来ないよ。

俺は冒険者で生計立てて無いし、別に困らないから。」

侑はマジで来ないからって脅した。


「悪かったって。

此方も困ってるから、助けてよ。」

ロゼは真面目な顔になった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る