第6話
「侑!恐がるな!」
バトラは喜々と侑に指導する。
「そんな事言われたって、目線高いし揺れるし。」
侑は珍しく、弱音を吐いている。
「呼吸を合わせるんだ、お前なら出来るだろ。」
何故、ランゲージを使わないんだ?
お前なら馬と喋れるだろとバトラは侑に喝を入れる。
「そんな余裕無いよ!」
侑は馬上で固まっている。
「一旦休憩にして、朝御飯を食べたら?」
メイが侑に助け舟を出す。
「メイ!侑に甘すぎないか?」
バトラは横槍を入れられて悔しい。
侑は馬から降りると、ランゲージで馬と会話を始めた。
「ごめん、痛かっただろう。」
『いや、痛くは無いんですが鞍が…』
「ずっと力を入れてたからな。」
『いっそ、鞍を外したらどうですか?』
「それって、乗りにくくない?」
『私の体に直接乗ると目線が少し下がるし、少しは緊張がほぐれるかもしれませんよ。』
「じゃ、ダメ元で試してみるか。」
「父さん!鞍外していい?」
「なんだ、もうやめるのか?」
「鞍を外して乗ってみたいんだ。」
「別に構わんが、普通は乗りにくいぞ?」
侑は鞍を外して、馬に跨った。
『侑さん、恐くないですよ。
風と戯れる感じです、私の背中から鼓動を感じて下さい。』
「さっきより恐くないな、こっちの方がしっくり来る。」
「侑、少し歩いてみろ。」
バトラは侑に手綱を手前に引いてみろと指示した。
『侑さん、少し早く歩きますよ。
上体を少し倒して、私と同じ高さの目線にしてみて下さい。』
馬は早歩きから、軽く走り出した。
『侑さん、恐いですか?』
「いや、恐くないよ。
風が気持ちいい位だよ。」
侑は馬とのコミュニケーションが取れ、乗りこなせるようになった。
「侑、それ位乗れるなら朝御飯を食べて町に行くか?」
バトラは侑にお墨付きを出した。
朝食を済ませた侑は、町に行く準備をした。
馬の近くでは、ラピスとルビーが待っていた。
「今日もポケットに居てね。」
侑は二匹をポケットに入れると馬に跨がり町を目指して走った。
駐馬場に馬を待たせ、鍛冶工房に向かった。
工房は既に火が入り、熱気が満ちていた。
中に入ると、挨拶をして作業を後ろから見学していたが工房主が声をかけてきた。
「お主の武器を見せてみろ。」
工房主はスキルで作った武器に興味があった。
侑はカバンの中から鷹丸を出して、鞘から抜いた。
「所有者登録をしてあるので、俺以外は持てません。」
侑が説明すると、
「其れには及ばん、儂も久し振りにスキルを使うからな。」
『ガハハ』と笑いながら、工房主は目を見開きスキルを発動した。
「フムフム、よく出来ておるな。
其処らの鍛冶師が作るより良い物だな。
しかし、お主も分かっているようだがこいつには魂が乗ってない。
それなりに使う分には充分だが、冒険者となり魔物を沢山倒すにはちょっと役不足だな。」
工房主は『構造解析』というスキルを使ったと侑に教えた。
「構造解析とは鑑定眼の派生スキルだ。
鑑定眼を持つお主なら、そのうち覚えられるであろう。
ついでに言うと、この刃先の指一本分位の所から折れて使えなくなるであろう。」
工房主はこの刀はそのうち折れる、しかも折れる場所まで予測した。
「この刀はやはり強度不足ですか、打ち直して強度は上がりますか?
…それとも、作り直した方が良いですか?」
侑は鷹丸が気に入っているので、折れるのだけは避けたい。
「本来、刀とは二本刀であった。
いつからか、二本扱えぬ者が一本を極めて今の形になった。
お主は二本扱うだけの力量がある筈だ。
ならばもう一本刀を打ち、二刀流を目指せば良い。
お主のスキルで作った鷹丸とやらは、打ち直す事は出来ん。
鍛冶師が打った刀と構造が違い過ぎるからの。
それは、自分で刀を打ってみれば分かる事。」
工房主はもう一本刀を作れと、そして二刀流を極めろとアドバイスした。
侑は作業台の片隅を借りてカバンの中からミスリルの塊を出した。
打ち始めようとした時に後ろから『待った』がかかった。
「お主、ミスリルだけで打つ気か?」
『そのつもりですが、余計な物を入れると弱くなりませんか?』
「そのまま打てば、鷹丸と何一つ変わらんぞ?
異なる金属の組み合わせにより、金属の持つ長所を伸ばし合い短所を補い合うそれが鍛冶の真髄だ。」
工房主はミスリルの硬さを長所でもあり短所だと言う。
硬さによる切れ味の良さ、しなりの無い粘りのなさ。
しなりの無さをカバーする軟らかい金属をミスリルとミルフィーユの様に何層にも重ねて伸ばす。
そうする事で、切れ味を落とさずしなやかなしなりを持つ刀が打てると言う。
「ミスリルに銀・鉄・炭を混ぜ打ち鍛えた物を芯鉄として、外側には不純物の無いミスリルを皮鉄として打つ。それぞれ鍛えた物を重ねて打ち鍛えると、十回の折り返し鍛えで千二十四層になる。
それ以上の折り返しは、勘と経験で進めるがやり過ぎると鍛え殺しと言って弱くなってしまうのだ。
折り返しの回数を見極め、最高の強度で刀に形成する。
それが刀鍛冶の打つ業物となる。
自らの力で、勘と経験で、目視による観察で、不純物の火花の音で、五感をすべて使い打ったものにだけ魂は宿るのだ。
「基本は教えてやる、心して打て。」
工房主は跡継ぎを育てるが如く、侑を鍛えた。
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