3話

「ディーテは居るかしら?」

ブラフマーはDに声をかけた。


侑達はBに回廊を繋いでもらい、ディーテの部屋の前に来ていた。

部屋の前にはDが俯き立っていた。

ブラフマーが声をかけるとDは顔を上げてブラフマーを見た。


「居りますが、機嫌が良くないですよ」

Dはブラフマーの後ろに立つ侑が気になるのかチラチラ見てくる。


「入っても良いかしら?」

ブラフマーはDのチラ見を気にとめることなく質問する。


「構いませんが、長くなると思いますよ…」

Dはげんなりした顔でドアを開いた。


「侑、覚悟を決めてね。」

「ブラフマーが一緒に居るんだろ?

逃げたら、嫌いになるからな?」

侑の言葉にブラフマーは薄い笑顔を作った。


ドアの中は薄暗く、長いテーブルがあり壁には色んなビンが並ぶ棚が圧迫感を出している。

其処はまるでドラマに出てくるスナックの様な雰囲気だった。

テーブルの一番奥に項垂れるように座っている人物が此方を見てボソッと呟いた。


「D…

何で中に入れるのよ…

今は堅物の相手をしたい気分じゃないのよ…」

座っている人物の声から女性と分かったが、部屋の中は暗くて顔は分からない。


「堅物って、私の事かしら?」

ブラフマーは侑の手を握って、ツカツカとその女性に近づいた。


「ブラフマーが何の用よ?」

その女性はかなり酔っているみたいで目が据わっている。

ブラフマーと共に近くによると侑はその顔に驚いていた。

斜め後ろからチラッとしか見えないが、その顔はエリカとそっくりだった。


「ディーテ、侑がエルフの国に行くから貴女に挨拶をしに来たのよ。」

「後ろの坊やが何しにエルフの国に行くのよ?」

ディーテは侑を見ると手に持つグラスに目を落として中の氷をクルクル回した。


「侑と申します。

薬の材料の一つである世界樹の新芽を戴きにエルフの国に行きます。」

侑はブラフマーの横に立ち、軽く頭を下げてディーテに挨拶した。


ディーテは目の前の観葉植物を触ると千鳥足で棚に向かって歩きだし、棚からビンを一つ持つと侑の前に立った。


「世界樹の新芽をあげるから早く帰って…」

ディーテは侑の前に新芽の入ったビンを突き出すと帰るように促した。


「いえ、それは受け取れません。

自分の足で現地に行き、世界樹から了承を貰って手に入れます。」

侑はビンを受け取るのを拒否した。


「貴方は何を言ってるの?

世界樹から了承?

あたしは今、世界樹に聞いてから渡したんだから良いでしょ?

さっさと受け取って帰りなさいよ。

わざわざあんな所に行く価値は無いわよ、時間の無駄よ。」

ディーテは自分の思い通りに動かない侑に苛立ちを覚えた。


「ディーテ様の座っていた場所にある植物が世界樹なのですか?

それに自分の管理している国を価値が無いとはどういう事ですか?」

「何であたしが貴方に説明しなきゃいけないのよ?

隣のブラフマーにでも聞けばいいでしょ。」

ディーテは新芽の入ったビンをテーブルの上に置いて元の椅子に戻った。


椅子に座ったディーテはテーブルの上の植物を撫でると手でシッシッと侑とブラフマーを追い出す素振りをした。


「貴女の口から説明してあげなさいよ。」

ブラフマーは椅子を二つ開けて座った。


「言ったでしょ?

あたしはあなた達の相手をする気分じゃないのよ。

出て行きなさいよ。」

ディーテはブラフマーを睨みつけるとまた目線をグラスに戻した。


「ふーん、何があったか知らないけど勿体無いわね。

まぁ、呑まないのに酔いそうだから帰るわ。」

ブラフマーはディーテが興味を引きそうな言葉を残して席を立った。


「…何よ。

何が勿体無いのよ。

貴女に何が分かるのよ…」

ディーテは呟く様に顔を上げた。


「分かるわよ?

貴女が荒れてる理由も何もかも。

それが分かるから勿体無いと言ってるのよ。

私を誰だと思ってるの?」

ブラフマーは顔を上げたディーテを全てを包み込む優しい表情で見つめた。


「そうね…

智の女神ブラフマーでしたね。

あの方のいない今、貴女以上の神は居ないしね。

分かったわ、座りなさいよ。

そっちの貴方も。」

ディーテは諦めた様に二人に席を勧めた。


二人がイスに座るとブラフマーは指をパチンと弾き風を起こした。

風は部屋の中をグルグル周りブラフマーの手の中に消えていった。


「これで少しは話しやすくなったかしら?

部屋中にお酒と貴女の負の空気が漂っていて話せる空気じゃなかったらね。」

ブラフマーはクスッと笑うと侑を肘で突いた。


「それで、エルフの国の事を教えて頂きたいのですが。」

侑はブラフマーの合図に応えるように話し始めた。


「貴方は侑って言ったかしら。

教えてあげても良いけど、お酒が抜けて少しお腹が空いたわ。

貴方は渡り人よね?

あっちの料理を食べてみたいわ。

そこにキッチンがあるから何か作ってよ。」

ディーテはテーブルの奥を指差した。


侑はキョトンとして動かない。


「えっ?

料理作れないの?」

「いや、料理は出来ますけど渡り人って言うのが分からなくて。」

「貴方、ステータス開いた事無いの?

種族の所に書かれてるでしょ?」

「種族の所には『人族?』って書かれててよく分からなかったんですよ。

ブラフマーに聞こうと思っていたんだけどタイミングが無くて。」

その言葉にディーテはブラフマーを睨んだ。

そして、何かを気付いた様に侑に言った。


「それが渡り人って事よ。」

ディーテはため息まじりに侑に言った。


「分かりました、ところで何か嫌いな物は有りますか?」

「嫌いな物は置いてないから、そこにある物で何か作って。」

ディーテは侑をキッチンに追いやった。


……後で説明して貰うからね。

ディーテはブラフマーに念話で言った。

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