第10話

「一度国から出された者は二度と入る事は出来ないはずよ?」

エリカは侑の顔を見て、前にも話したわよって目で訴えた。


「前にも聞いたよ。

それを知っていたから今回はエリカを連れて行かない方針にしたんだし。

でも、事情が変わったんだ。

最初は穏便に世界樹の新芽を貰おうと思っていたんだけど、ディーテ様と話をしてエルフの国の法を守る必要性が無くなった。

だから、エリカは国の中に入れるよ。」

侑はポケットから世界樹の葉をモチーフにしたチャームを出した。


「かわいいチャームね。

でも、このタイミングで侑が出すのだから只のチャームでは無いのでしょう?」

エリカはチャームを受け取ると世界樹を懐かしく思い出している。


「そのチャームを持っていると結界に阻まれる事なく国に入れる魔導具だよ。

幻覚魔法も結界も干渉出来なくなる代物だよ。」

侑はそれを持っていれば国に入れると言った。


「でも、私が持っていたら侑が入れないんじゃない?」

エリカは侑が入らないと意味が無いと言った。


侑はエリカの頭を撫でると色々考えてるから心配無いと微笑んだ。


「ちょっとあっちに行ってきて良いか?」

ドラゴはこの家から気軽に行けるなら神界に行きたいと言い出した。


「出発は明日だから用意が出来てるなら構わないよ。

行き方はドアノブを握った時に誰の空間に行きたいか考えてドアを開けるんだ。」

侑は礼拝室の前まで連れて行くと入っていくドラゴを見送った。


「私達もティーターン様の所に行って来ても良いかな?」

バトラとメイが後ろから侑に声をかけた。


侑は礼拝室のドアが閉まったのを確認して身をずらし、バトラ達を手招きした。


侑がリビングに戻るとサラとエリカが何か話をしている。

侑は邪魔をしない様にキッチンに入り旅に必要な食材をアイテムボックスに入れ始めた。


充分な量の食材をアイテムボックスに確保した侑はコーヒーの入ったカップを取りにリビングに戻ると二人の話は終わったみたいで侑を手招きしている。


「話は終わった?」


「うん、この後どうするかを二人で話していたの。

装備は侑が作ってくれたから良いんだけど、着替えとかをどうしようかって。

ある物を詰め込んで行くか、町に買いに行くか悩んでるの。

荷物をあまり増やしたくないけど、何日も同じのを着るのは女としてどうかなと。」

エリカは荷物が嵩張って、自分が皆の荷物になるのは嫌だと言う。


「エリカはアイテムバッグを持って無かったっけ?」


「持って無いわよ。

国から追い出されて何も持って無かったしお金が多少有っても高くて買えないわ。」


「そういえば、この家に荷物を運んだ時は俺のカバンを貸したんだっけ。」

侑はポケットの中から石を出して握るとアイテムバッグを創った。


「気に入ってくれると良いけど。

エリカにあげるから、荷物はこの中に入れてね。」

侑はエリカにポーチ型のアイテムバッグを渡した。

見た目は斜め掛けの革製のポーチだが、正確にはエリカ以外は持つ事も開ける事も出来ないアイテムバッグだ。

ポーチの表面は世界樹の葉をモチーフにしたデザインが描かれている。


「良いの?

ありがとう、大事にするね。」

エリカはポーチをマジマジと見つめ、世界樹のデザインを触っては喜んでいる。



「エリカだけ良いなぁ…」


「えっ?だってサラは持ってるじゃん。」


「持ってるけど、私もポーチ型が欲しいの。

私の持ってるのは普通の鞄だから片手が塞がっちゃうのよ。」

サラは侑にねだる様に上目遣いで見る。


「分かったよ。」

侑はため息をひとつ溢し、ポケットから石を出した。


「色とか、形とかデザインに希望は有る?」

侑は石を握る前にサラに問いかける。



「エリカの時は何も聞かなかったのに、なんで私には色々聞くの?」

サラは怒気を含んだ言葉で侑に聞く。


「いや、サラがどんなのを欲しがってるか分からないし。」

侑はなんで怒っているのか分からない。


「もういい。

エリカと同じのをデザイン変えてくれればそれでいい。」

サラはちょっとは気付けと睨みつけた。


睨まれた侑は意味が分からないとボヤきながら石を握りデザイン違いのポーチを創った。


「ありがと。」

サラは侑からひったくる様にポーチを取り、部屋の隅に置いてある自分のアイテムバッグからブツブツ言いながら物をポーチに移し始めた。

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