5話

「で、どうしても行くの?」

ディーテはお腹いっぱいで苦しいと言いながら侑に聞いた。


「はい、自分の足でエルフの国に行きます。

自分の目でエルフの国を見て世界樹に会って新芽を頂いてきます。」

侑は片付けをしながらディーテに答えた。


「なら、これをあげるわ。

これを持っていれば、エルフの国の幻覚魔法も結界も貴方に干渉出来ないわ。

でも、十日以内にエルフの国から出てね。」

ディーテは片付けている侑の目の前に世界樹の葉をモチーフにしたようなチャームを置いた。


「十日を過ぎるとどうなるんですか?」

侑は手を拭きながらディーテの顔を見る。


「十日を過ぎると世界樹は役目を終えて枯れ始めるわ。

エルフの国の崩壊が始まるから、貴方の身の保証が出来なくなるのよ。」

ディーテは芽吹いた世界樹の種を優しく触りながら目を伏せた。


「崩壊は先延ばしに出来ないのですか?」

「無理ね、これ以上世界樹に辛い思いをさせたくないの。

世界樹があたしに種を渡した時点で世界樹は限界を迎えているのよ。」

ディーテは貴方一人の都合で世界樹をこれ以上苦しめたくないと侑に言った。


「そうですか…

仮に俺がエルフの国に行って世界樹が納得してくれたら先延ばし出来ますか?」

「どういう事?」


「聞いていると、悪いのは国王や神官みたいな立場のエルフが原因みたいだから。

オレが行って今の国を壊しても良いかなって。

国が壊れて本来の役目を思い出したエルフだけ残せば、世界樹は納得してくれるかなって。」

「貴方は新芽が欲しいだけでしょ?

今の土地から国が無くなっても何の問題も無いでしょ?

どうしてそこまで執着するの?」

侑の言っている事が実現すれば世界樹は納得するかもしれないけど、何故そこまで拘るかをディーテは分からなかった。


「今のエルフの国は俺の大切な人の生まれ故郷なんですけど、彼女はある理由から国に入れなくなってしまったんです。

国の中には彼女の肉親や知人も居るかもしれない、その人達が国の崩壊で路頭に迷うのは彼女が心を痛めると思うんです。

それに今の国を壊せば、また彼女は国に入れる。」


侑は真っ直ぐディーテの眼を見て訴えた。


「エリカの事ね。」

ブラフマーが呟いた。


「そう…

そのエリカってエルフの為に貴方は一人で国と戦争するって言うのね。」

「戦争って程、大きな事では無いですし出来れば無血で終わらせたいですね。」


「それは無理よ。

どうしてもそれをやると言うなら、覚悟を決めなさい。

半端な覚悟でやろうとするなら、あたしは許しません。

自分の手が相手の血で染まってでもやると言うならあたしも助力するわ。」

ディーテは侑がどうにかなるだろうという甘い考えならやめなさいと忠告した。


「分かりました。

彼女がエルフの国に入れるようになるなら、この手を汚してでもやり遂げます。

全ての事が終わったら、ここに戻って来て断罪したいと思います。」

侑はエリカの笑顔を思い浮かべながらディーテに誓った。


「断罪は無いわよ?

放っておいても死を免れない罪を作ったエルフよ。

その刑を執行するのが世界樹か貴方かの違いだけ。

世界樹に感謝される事はあれど、恨まれる事は無いわ。

仮にどうしてもって言うなら、またここで料理を作りなさい。

それで許してあげるわ。」

ディーテはお腹を擦りながら侑に微笑んだ。


「分かりました。

それでは全てが終わりましたらまた来ます。」


侑が頭を下げて部屋から出ようとした時、ディーテが呼び止めた。


「待ちなさい。

あたしは貴方が覚悟を決めるなら助力すると言ったでしょ?」

ディーテはDを呼んだ。


「…お呼びでしょうか。」

扉を開けてDが入ってきた。


「侑と一緒にエルフの国に行きなさい。

そして、貴女の目で見極めなさい。

手伝うのも手を出さないのも貴女次第ですよ、世界樹と向き合い世界樹の望む結果に導きなさい。

それが出来れば、昇神試験を合格としてあなたが次のディーテとなるのです。」

ディーテはDに短杖を渡した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る