6話

「どれ位の時間が経ってる?

あまり長い時間こっちに居ると向こうが心配するんだけど。」

侑はディーテの所まででかなりの時間を過ごしているから、向こうでは夜が明けてると思いブラフマーに聞いた。


「大丈夫ですよ。

侑を向こうに返す時は私の部屋に来た時間まで遡って送ってあげますから。」

ブラフマーはどれだけ長い時間居ても問題ないと侑を安心させた。


「なら良いんだけど。」

侑はDに明後日の朝迎えに来る事を伝え、ティーターンの回廊に繋いでもらった。


「では、ティーターンの所に行きましょう。」

ブラフマーは侑の手を繋ぐと歩きだした。


ティーターンの部屋の前には見知らぬ子供が立っていた。


「ティーターンは居るかしら?」

ブラフマーは子供に聞いた。


「いらっしゃいますが、中にはデニアス様が一緒に居られます。

どうされますか?」

「デニアスが一緒なら都合が良いわ。

中に侑とブラフマーが来た事を伝えてくれるかしら?」


「分かりました。

少しお待ち下さい。」

子供が中に入るとブラフマーは今の子供が新しいTだと侑に教えた。


「どうぞ、中にお入り下さい。」

Tが扉を開けて深くお辞儀をし、中に二人が入ったのを確認すると扉を閉めた。


「侑さん、久し振りです。」

ティーターンの立ち位置には大人っぽくなった侑の知っているTが立っている。

その後ろには見知らぬ青年が寄り添う様に立っている。


「久し振りだね。

ティーターンになったんだね。

世代が代わると元のティーターン様はどうなるの?」

侑はTがティーターンになって嬉しいと同時にあのティーターンが会えないまま居なくなった事が寂しかった。


「儂なら此処に居るが?」

ティーターンの後ろに立つ青年がその風貌に似合わない言葉で侑に話しかけた。


「はっ?」

侑は思わず声がうわずって変な声を出してしまった。


「ガハハ。

侑はやはり気付かなんだか。

楽しいのぅ、ブラフマーに口止めしておいたから良い表情が見れたわい。」

風貌は青年だが、口調は侑の知ってるティーターンそのものだった。


侑の横でブラフマーも珍しい表情が見れたとクスクス笑っている。

ティーターンだけはバツが悪そうに侑を見ていた。


「儂は神座を降りて、隠居の身になったのだ。

本来であれば、使徒として転生し人生を一からやり直すのが定番であるが儂にはやりたい事があるからの。

なので、肉体だけを少し若返らせてこやつの補佐をしておったのだ。

神座を降りた儂はデニアスと名乗っておる。」

デニアスは侑と会えたことが嬉しくて仕方なかった。


「今はデニアス様ですか…」

侑は若返ったティーターンの顔をマジマジと見た。


「いや、儂は神でも使徒でも無いからデニアスじゃ。

お主と同等じゃから、敬語はいらん。

して、お主に頼みがあるのじゃが。

前に創造してくれた刀なのじゃが、元は太刀と脇差しの二振りでセットと言っておったじゃろ?

なので、儂の太刀をこやつに渡してセットにした状態で代々のティーターンに受け継いでいこうと思ってな。

そこで、儂にパルチザンを一振り作ってくれんかの?

報酬はそうじゃの…

砂漠の浄命水の案内役と云うのはどうかの?」

デニアスはニヤッと笑った。


「俺の刀を代々受け継ぐなんて畏れ多いです。

鍛冶も錬金も知らないで作った刀ですよ。

知識を得た今なら斬れ味も強度も高い物が作れますよ。」

「いや、斬れ味も強度も二の次じゃ。

一番必要なのは私利私欲無く、無心で儂らの事だけを思って作ってくれたという事じゃ。」

デニアスは手元に刀を出すと鞘から抜くことなく愛おしそうに撫でた。


デニアスは自分の中に区切りをつける様に鍔に触れ、刀をティーターンに渡した。

ティーターンは刀を受け取ると自分の脇差しと並べて部屋の壁に飾った。


「それで儂のパルチザンは作ってもらえるのかの?

今すぐで無くて良いぞ。

砂漠の浄命水を探しに行く時で構わんよ。

今はエルフの国に行く準備で忙しいだろうからの。」

デニアスは太刀を渡してしまったから丸腰だと強調した。


「試したい事もあるし、少しでも手に馴染んだほうが良いと思うから今作りますよ。」

侑はアイテムボックスから水晶を出した。


「水晶で作るのか?

別に他の石でも良いぞ?」

デニアスは侑のクリエイトならどの石を使ってもその出来にはあまり差が無い事を理解した上で質問した。


「今回は俺自身が試したい事が有るんですよ。

その為には水晶が一番適切な気がするんです。」

侑はデニアスに答えながらイメージを始めた。


パルチザン…

全長はデニアス様よりも少し高めで…

刃渡りは全長の三分の一位…

薙ぎ払いをメインに考えて、刃は少し湾曲させて…

刃と柄の継ぎ目に返しの様な刃を付けて…

柄は茶色に黄土色の龍の飾り彫り…

斬れ味強化と耐久性強化の付与…

そして、持ち主の魔力を吸収して武器自体が身体の一部と同じ感覚で扱える様に…


侑はイメージが固まった所で、石を手に持ち創造を始めた。

それは錬成から始め金属の塊から打ち出し武器に形成する鍛冶までを頭の中で行なう。

パルチザンの形までイメージした所で名前を与える。

石が侑の魔導具に吸い込まれると地面に魔法陣が出現した。


侑は魔法陣に手を入れパルチザンの名を呼ぶ。


「神薙龍戦槍」


侑がパルチザンを握った手を魔法陣から抜くと侑の身長を超える長い槍が出現した。


デニアスは『これはこれは…』と感嘆の言葉を洩らした。


侑はデニアスにパルチザンを渡すとカスタマイズで所有者登録を行なった。


「侑よ、このパルチザンの名を教えてくれ。」

「真名を神薙龍戦槍と名付けました。

デニアス様なら薙龍と呼べば反応する筈です。」

デニアスは様はいらんとボヤきながら、パルチザンに向かって声をかけた。


「薙龍よ、儂の声に応えよ。」

薙龍はデニアスの呼び掛けに一瞬光ると、魔力を吸い始めた。


「侑、薙龍が儂の魔力を吸い始めたのだが大丈夫か?」

「イメージ通りです。

デニアス様の魔力を吸い、身体の一部と思える位の感覚で扱える様になります。」

侑は薙龍の柄に彫った龍が光った事を確認して魔力を吸い終わった事を伝えた。


「うむ、確かに受け取った時よりも軽く感じるな…

だが、不安になる様な軽さでは無く安心する重さになった感じだ。」

デニアスは薙龍を軽く振ってみた。

その反応を見て侑は安堵した。


「試したい事が成功して良かった…」

侑は気が緩んだのか、椅子に崩れる様に座った。

その身体を支えるかの様にブラフマーは笑顔で侑に抱きついた。

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