第14話

「父さんいるー?」

侑は玄関からバトラを呼んだ。


「侑、おかえり

どうした大きな声を出して。」

バトラは自室から伸びをしながら出てきた。


「これを父さんに渡したくて。

いつもありがとう、感謝の気持ちだよ。」

侑は自分で作ったダガーをバトラに渡した。


「これはお前が作ったのか?

でも、何で玄関なんだ?」

バトラは嬉しさで目を細めている。


「試し斬りして欲しかったから。

っていうか、自分のも試し斬りしたいから。」

侑は厄切丸をカバンから出した。


「自分の刀も作ったのか!

それは試し斬りしたいよな!

とりあえず、カニを斬りに行くか?

あの二人はカニを食べてないだろう、

今夜はカニを庭で焼くか?」

バトラは侑の刀を見て、ノリノリだ。


「父さん、持ってみる?」

侑はバトラの前に差し出した。


「良いのか?

それより、持てるのか?

所有者登録してないのか?」

バトラは持ちたいけど、持ったら欲しくなると躊躇している。


「所有者登録してないから持てるよ。

父さんに持ってみて欲しかったから、作ったままでいるんだ。

もし父さんが気に入ったら、父さんに一振り作りたいな。」

侑は最近バトラとの絡みが少なくなってるから気を遣ってる。


「お前の作った物が気に入らないわけ無いだろう?

今だって欲しくなったら困るから、持つのを躊躇してるんだぞ。」

バトラは侑から厄切丸を受け取ると鞘を抜き、刃紋の美しさに見惚れた。


「じゃ、湖畔で試し斬りしよう。

オニキス!ラピス!ルビー!

散歩に行くか?」

侑が呼びかけるとオニキスはアクビをしながらノソノソと、ラピスとルビーは既に足元に居た。


「散歩ニャ?」「散歩?」

オニキスは面倒くさい顔をしてる。

ラピスとルビーは侑の肩に乗った。


「嫌ならいいよ、ただ湖畔まで行ってカニを獲って来るだけだから。」

侑は歩き始めた。


「カニ食べに行くニャー。」

オニキスが後ろから付いてくる、その後ろには二匹の仔猫がチョコチョコと歩いてる。


侑は湖畔に着くと索敵を発動した。

ラピスも索敵を始めるとルビーに指示を出し始めた。

オニキスは仔猫をラピスに預けるとカニに向かって突進した。

オニキスは爪を伸ばし、カニを切り裂いていく。

小間切れに切り裂くと仔猫の前に置いた。

仔猫は喜んで食べている。

バトラはというと、ダガーの切れ味に驚いていた。


「なんだ、このダガーは?

斬っている感覚が無いぞ!

豆腐でも斬っているみたいだ!」

バトラは試しに一番硬い甲羅を斬ってみた、やっぱり斬っている感じがしない。


侑も厄切丸でカニを斬ってみるが、感覚が無い。

鷹丸と二刀流を試してみるが、切れ味の違いに愕然とする。

厄切丸はカニを真っ二つに斬っても抵抗を感じないが、鷹丸で同じ事をしようとすると刃がカニの真ん中で止まってしまう。


『これだけ切れ味が違うと二刀流は難しいな、脇差しを作るかな。』

侑は鷹丸をしまい、厄切丸の切れ味を楽しもうとカニに向かった。


食べきれない位のカニをカバンにしまうと、皆に声をかけた。


「そろそろ帰るよ!」

「おぅ」「はいニャー」「分かったよー」


庭に戻るとメイを呼んで、バーベキューの準備を始めた。

今夜は猫もスライムも一緒の楽しい食事となった。



食後、侑とバトラはラボに居た。


「厄切丸はスキルで作ったのか⁉

お前が自分の手で作ったのは、このダガー一本だけだと?

そんな貴重な物を俺が貰っていいのか?

記念に自分で持っていたほうが良くないか?」

厄切丸は侑が自分で打ったと思っていた。


「父さん、刀を一振り作ろうか?」

「是非頼みたい。」

「じゃ、俺が脇差しを作ってる間に名前を考えておいて。」

侑は台の上に石を置き、創造を始めた。

厄切丸を作った時と同じイメージをトレースする。

侑は名前を考える。

『……土龍』


侑はスキルを発動して脇差しを魔法陣から出した。

鞘から刀身を抜くと、刃紋が龍に見えた。


「良い脇差しを作ったな。

俺の刀だが、弥生で頼む。」

バトラはちょっとハニカミながら侑に頼んだ。


「弥生で良いの?

因みに何で弥生なの?」

侑は刀の名前っぽく無いし、バトラっぽくも無いと思った。


「弥生はメイの真名だ。

俺の連れ合いはアイツだけだし、今まで俺を護ってくれたのもアイツだ。

だから、俺を護れる刀の名前に相応しいと思うぞ。」

バトラは照れてる様にもニヤけてる様にも見えた。


「母さんは幸せだね。

よし、弥生を作るよ。」

侑は創造を始めた。

魔法陣から出した刀は少し艶っぽく見えた。


「侑よ、これはメイをイメージしたのか?

武骨さの欠片も感じない刀だな。」

バトラはこういうのも良いなと喜んでいる。


「母さんをイメージした部分はあるかな。

でも、外身のイメージは父さんだよ?

母さんをイメージした部分は鞘から抜くと分かるよ。」

侑はニヤけてる。


「外身のイメージは俺か?

お前から見える俺はこういうイメージなのか。

鞘から抜くと分かるって?」

バトラは鞘から刀身を抜くと『フフッ』と笑った。


「なるほどな、お前の意図した部分が分かったよ。

しかし、器用にやったな。」

弥生の刃紋は長髪の女性のシルエットに見える。


「これはメイには見せたくないな。

使わせてもらえなくなるかもしれん。」

バトラと侑は顔を突き合わせて笑った。


そろそろ、リビングに戻るか?

バトラの呼びかけに、


「ちょっと待って。」

侑は石を台に置き、創造を始めた。

魔法陣から出したのは、包丁だった。


「父さんの物ばかり作ると母さんが拗ねるから。」

侑は包丁見て、メイが使ってる所を想像したのか笑顔だ。


「メイには服や下着を作っただろう?」

バトラは侑に、充分メイにも使ってると言った。


「母さんはあの時、多分本心から欲しかった訳じゃないよ?

サラやエリカが引け目を感じない様に話に乗っただけだよ。」

侑は冷静に分析していたから断らなかった。


「そういう物かな…

…でも、アイツは部屋に戻っても大喜びだったぞ?」

バトラは半信半疑だ。


「そういう事でいいじゃん、リビングに戻ろう。」

侑は包丁を持ってドアを開けた。



リビングでは、三人が仔猫と遊んでいた。

メイは侑に気付くとお茶を淹れにキッチンへ向かった。


「母さん、プレゼント。

いつもありがとう。」

侑はメイに包丁を渡した。


「侑が作ってくれたの?」

メイは目を丸くして突然のプレゼントに驚いている。


「うん、スキルでだけどね。」

侑は笑顔で頷いた。


「ありがとうー。

大切に使うよー。」

メイの目には涙が溢れそうになっていた。

嬉し泣きとはいえ、泣き顔を見せたくないメイは侑に抱きついて誤魔化した。

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