第13話
「行ってきます」
侑は通勤する様に鍛冶工房に向かった。
いつもの様に馬を留め、工房の端に場所を借りて下鍛えを行っていた。
工房主の打った下鍛えを思い出しながらひたすら打った。
侑は後ろに工房主の視線があるのも気付かない位集中していた。
三枚目の下鍛えを鍛え終えたところで工房主が声をかけた。
「侑よ、次の工程に行くぞ。
次は上鍛えだ、いきなり刀ではなく最初はダガーからだ。
誰が使うかを心に留めながら鍛えろ。
思いが強いほど、使う者に馴染む形に仕上がる。」
「分かりました、父の為のダガーを作ります。」
侑は高熱で柔らかくなっているミスリルを釜から出すと鍛え始めた。
ある程度鍛えた所で下鍛えと合わせる。
折り返しを行ない、下鍛えと上鍛えを馴染ませるとダガーの刃渡りに伸ばしていく。
バトラが武器選びの時に相手をしてくれた姿、蜘蛛と戦っている所を思い出しながら侑は心を込めて鍛えた。
ここだと思った所で鍛えるのを止めて工房主に見せた。
「うむ、良いタイミングだ。
これ以上鍛えると弱体するだろう。
それでは研磨に入るぞ。」
工房主は砥石を侑に渡した。
「この砥石はここまで頑張ったお主への贈り物だ。
砥石一つで切れ味も耐久性も大きく変わる。
よいな、心して使うのだ。」
工房主からの言葉に侑は大きく頷いた。
「大切に使います、ありがとうございます。」
侑は砥石をマジマジと見つめた。
「砥石は歪んではいかん。
研ぎ方を教えてやる、どいてみろ。」
工房主は他の職人が鍛え終わったダガーを研ぎ始めた。
刃物と砥石の角度に気をつけろ、刃が寝すぎると切れ味は良いが持たない。
立ちすぎると、持ちは良いが切れない。
この意味がわかるか?
包丁や刀は寝かせ気味に、大剣や斧は立たせ気味に研ぐのだ。
侑に見やすいように気を遣いながら、工房主はダガーを砥ぎあげた。
「分かったか?
やってみろ、失敗したら一からやり直しだ。
心してかかれ。
しかし、失敗を恐れるな。
その不安は刃に移る。」
工房主は侑に気合を入れた。
「はい!」
侑は失敗を恐れずにバトラの事を思って研いだ。
侑が砥石の上を前後させる度にダガーは形が出来ていく、ダガーの刃紋は波打った海のように見えてきた。
そろそろ良いだろうと工房主が侑に刃を上に向けて持たせた。
上から紙を落とすと、刃に触れた瞬間に紙は二枚になった。
「これが本来の刃物の切れ味だ。
魂の乗った良いダガーが出来たな、よくやったぞ侑。」
工房主はダガーの出来に満足だった。
「よし、侑よ奥の儂の部屋へ来い。」
工房主は侑を職人も足を踏み込めない部屋へと連れて行った。
「これから、最後の試験を行なう。
合格出来れば、儂の弟子と認めよう。
では、始めるぞ。
侑は刀を儂の指示通りにスキルで作れ。」
侑は何故スキルでなのかが疑問だったが、ポケットから石を出した。
「お主のは想像した物を形に出来るスキルだったな。
で、鷹丸は完成した物を想像して作った。
間違いないか?」
工房主は工程を確認する。
「その通りです、完成した物を想像して名前を決めて作りました。」
侑は工房主の確認に頷いた。
「では、今回はお主が金属を鍛える工程から想像しろ。
毎日の様に鍛えて来た中で、一番良くできた時のイメージを忠実に思い出せ。
それから完成形を想像するのだ、既製品に囚われるな。
あくまでも、お主が頭の中で打つのだ。
全てがお主のオリジナルだ、分かったか?」
工房主が工程に対して細かく指示を出す。
侑は頷き、想像を始めた。
熱い窯から柔らかくなっている金属を出し、他の金属を混ぜる配合。
鍛える回数、折り返し。
上鍛えの回数、下鍛えとの馴染ませ。
刃渡りの長さ、砥石との角度。
ダガーが見せた海の波打つ様な刃紋。
今まで教わってきた総てを思い返す。
創造が固まると名前をつける。
名前は厄切丸とした。
侑は水晶を置き、スキルを発動する。
魔法陣に手を入れ、刀を抜き出した。
「厄切丸です。」
侑は鞘から刀身を抜く事なく工房主に渡した。
工房主は刀を受け取ると、鞘から抜きスキルを発動した。
工房主の見開いた瞳に刀身が映り、艶っぽく輝いて見える。
「うむ、魂の乗った良い刀だ。
この刀ならば、お主の身を守ってくれるであろう。」
工房主から、合格が言い渡された。
「合格の祝いにお主に儂の世界を見せてやろう。
鷹丸と厄切丸を持って鑑定眼を発動させてみろ。」
侑は言われた通り、刀を鞘から抜き刀身を並べて持つと鑑定眼を発動した。
「それでは、良いか?
お主に儂のスキルを渡すぞ。」
工房主が侑の肩を触ると、魔力のようなものが流れてきた。
目に映っている鑑定眼の表示がブレ始めると一瞬テレビのスノーノイズの様になった。
表示が戻ると、今までに無い情報が表示されている。鉱物名から、含有率、強度、長さ、刃の角度……
視点を変えると表示も変わる。
「どうだ?見えたか?」
工房主が手を離した。
「はい、見えました。
鷹丸の弱い所が俺にも見えました。」
侑は船酔いの様な身体の揺れを感じながら答えた。
「今お主に渡したスキルが構造解析じゃ。
無理矢理渡したから、魔力酔いになっておるだろう。
少し休んでおれ。」
工房主は侑をその場に置いて部屋を出た。
魔力酔いが治まった侑が工房に戻ると、工房主からダガーが渡された。
そのダガーは柄がはめられており、ホルスターに収まっていた。
「余計な事をしたかもしれんが、お主のダガーを仕上げておいたぞ。
弟子の最初に作った作品を仕上げるのは、師匠の役目だからの。」
工房主は満足した笑顔だった。
「ありがとうございました。
これからも、弟子として恥じない様に精進します。」
侑は深々とお辞儀をした。
「何時でも来い。
腕が鈍ってないか確認してやる。
鈍っていたら、また特訓の日々を覚悟しておけ。」
工房主は『ガハハ』と笑った。
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