第27話

「お疲れ様です」

穴の周りは異様な装備で身を固めている衛士達だった。


「この付近は魔素の濃度が非常に濃いので、あまり近付かない方が良いです。

気持ち悪いとか、倦怠感を感じたら、ヒーラーにキュアをかけてもらいすぐにこの付近から離れて下さい。

ヒーラーが居ないパーティーは今すぐにでもこの場を離れて、入り口付近のモンスターを討伐してください。

先程、衛士の一人が体調不良で離脱しました。

私達の装備でも万全では無いのです。

この魔素の濃度からすると、明日中にはダンジョン化が収まると思われます。

それまで、宜しくお願い致します。」

衛士のリーダーと思われる大柄の男が侑達に状況を説明した。


「俺達のパーティーにはヒーラーも薬師も居ますから問題ありません。

もし、少しでも気分が悪いと感じてる人が居たらキュアをかけますけど?」

侑は周りを見渡し、顔色の悪い衛士が居ないか確認した。


「お心遣いありがとうございます。

少しお待ち頂けますか?」

衛士は周りに「みんな大丈夫か?」と声をかけた。


侑はその光景を見て

『これじゃ言い出せる雰囲気じゃないな』

と感じてサラに聞いた。


「気付かれないように身体に入り込んだ魔素を取り除くか緩和させる方法って無いかな?」

「水を飲ませたら?

浄水なら魔素とか毒素を緩和する事が出来るわよ。」

サラはキュアの方が早いけど、気付かれないようにするなら浄水を進めると言った。


「浄水って何?

どっかから、採取して来ないと駄目なやつ?」

「錬金術で作るか、聖魔法で作れるわよ。

私なら、錬金術で作れるし多分メイさんは魔法で作れるんじゃない?」

サラは難しい物じゃ無いし、すぐに出来ると言う。


「私は魔法で作れるわよ。

侑だって教えた魔法だから、出来るはずよ。」

メイは侑に水にクリーンをかければ出来ると教えた。


「クリーンで出来るんだ。

それなら、俺にも出来るな。」

「侑には私の錬金術を見せるから、この機会に錬金術を覚えたら?」

「それいいかも、サラに錬金術を教えてもらおうと思っていたんだよ。」

侑は思わぬタイミングで錬金術を教えてもらえると喜んだ。


「人数分の瓶を用意しなきゃね。」

「瓶は俺がクリエイトで作るよ。」

「水は私達の飲水を使いましょう。」

三人が行動を始めようとすると、ドラゴとバトラが声をかけた。


「「俺達にも出来る事は無いか?」」

「さっきから、人の気配がするんだよ。

遠くから一人で此方をずっと見てる感じ。

殺気が無いから、敵じゃないと思って気にしてなかったんだけどね。

ラピスも感じてるみたいだから、案内してもらって事情を聞いてきてもらっていい?」

侑は気付かれないように回り込んだほうが良いよと言った。

二人のポケットの中でラピスが方向を教える。


「「分かった、じゃ行ってくる。」」

ドラゴとバトラは二手に別れて森に消えた。


侑は衛士の数を数えると石を出して人数分の瓶を作った。

メイは侑の作った瓶の中に飲水を注いでいった。


「じゃ、始めるわよ。

錬金術とは物質を変化させて、違う物にする術だよ。

今回の浄水は水の中にキュアを入れる感じをイメージするのよ。

キュアに変化させる物質は水の中にある不純物よ。」

サラは瓶を両手で包み込む様に持つと目を閉じてイメージし始めた。

瓶の中の水が波打ち、渦を巻いた。

一瞬光を放つと渦は消えた。


「侑、鑑定眼で見てみて。」

「うん、浄水になってる。」

侑は受け取った瓶を鑑定すると端に置いた。


「じゃ、次は侑がやってみて。」

サラは瓶を侑に渡した。

侑は瓶を受け取ると、同じように持ちイメージした。

水が波打ち、渦になった。

一瞬光を放つと渦は消えた。


侑は鑑定眼で水を見た。

「浄水になったよ。」

侑はサラに瓶を渡した。


「一発で成功させるのね…

何度か失敗してからの方が私的には…」

サラは錬金術ってそんなに簡単じゃ無いんだけどなぁとボヤきながら、瓶を端に置いた。


二人がメイを見ると、沢山の瓶を並べてクリーンを発動している所だった。


「あそこにも規格外が居たわ。

結構、魔力使うはずなんだけど…」

サラはメイの姿を見てため息をついた。


侑は残っている瓶をどんどん浄水にしていった。


「お疲れ様です、差し入れです。」

サラは浄水になった瓶をリーダーに渡した。

リーダーは受け取ると、ありがとうと飲んだ。


リーダーが飲んだのを確認すると、サラは一人に一本ずつ声をかけながら体調不良が居ないか確認した。


全員に渡し、飲み終わった瓶を回収しているとドラゴとバトラが帰ってきた。

猫人族の男を連れている。


「理由聞いた?」

侑が聞くと、ドラゴは首を横に振った。


「俺に近付くな伝染るぞ。

としか言わねぇ。」

ドラゴは何度聞いても同じ答えが返ってくるから疲弊していた。


「何が伝染るんですか?」

侑が猫人族に聞いた。


「…分からない。

分からないが、伝染るんだ。

妻にも伝染った、いや妻のが伝染ったのかもしれないが。」

猫人族の男は下を向いたまま呟いた。


「名前を教えてもらっても?」

侑は話辛いから名前を教えて欲しいとお願いした。


「…俺の名前はエドだ。」

「エドさんは何故、俺達の後をつけていたんですか?」

「俺の子供の匂いがした。」

「子供さんの匂い?

子供さんの名前はシータとエートですか?」

「そうだ、何故知ってる?」

エドは顔を上げ、侑を睨んだ。


「俺の知り合いの家に隠れていたので、保護しました。」

「知り合いの家?

それはエリカの家か?」

「エリカの事を知っているのですね。」

エドはまた下を向いてしまった。


「前に病気を治してもらった。

エリカなら治せるかもしれないと家に行った。

居なかった。」

「エリカなら、今は俺の家に居ますよ。

それより、伝染ると言う事は病気ですか?

症状はありますか?」

侑は病気ならどうにかなると思った。


「多分病気だと思う。

こんな症状には初めてなったから、はっきりとは言えない。

症状は吐き気と目眩。

あと、妻は異常にだるいと言って動けなくなった。

子供達に伝染ったらまずいと、妻と二人で家から出た。」

エドは自分と妻の症状を侑に伝えた。


「多分、魔素中毒ね。」

サラが口を挟んだ。


「魔素中毒って何だ?

伝染ることは無いのか?」

エドはサラを肩を掴んだ。


「痛いから手をどけて。

魔素中毒は伝染らないわ。

なったタイミングからして、奥さんとはいつも一緒に行動していたんでしょ?

この辺は魔素の濃度がかなり高いの。

身体には有害だから、吸い続けると中毒になるわ。

獣が吸い続けると、魔獣化するけど人は耐え切れなくて死ぬわね。」

サラは手を振り解くと魔素が危険な物だと教えた。


「俺は死ぬのか?」

「いえ、貴方は大丈夫。

それより奥さんの方が危ないわね。

動けなくなる位だと相当の量を吸ってると思うわ。

急がないと手遅れになるかも。」

サラは侑の顔を見た。


「奥さんはいま何処に居るんですか?

ここから近いですか?」

侑は助けに行くと言った。


「ここから近くない。

貴方達がブラッディベアと戦った所からは近い。」

「それ程遠く無いということだな。

よし、すぐに行こう。」

侑をメイが制止した。


「ちょっと待って。

エドさんの応急処置を先にしましょう。」

メイは衛士から回収した空き瓶に水を入れると侑に渡した。


「私はキュアをかけるから、侑は浄水を作って。」

侑は瓶を受け取ると頷いた。


エドはメイにキュアをかけてもらい、浄水を飲んだ。


「身体が楽になったぞ?

治ったのか?」

「いえ、治ってはいないわ。

ただ、ちょっと良くなっただけよ。」

メイは空き瓶をエドから受け取った。


「手遅れにならない様に早く行こう。」

侑はカバンに瓶をしまうと立ち上がった。

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