第14話

「迷惑をかけてしまいましたね。」

サラは店主に頭を下げた。


「お顔を上げてください。

アルデストの態度には町人みんなが困ってましたから。

しかし、海沿いの町の子爵とはいえ王女様のお顔さえ知らないとは…」

店主は塩を取りに奥へ下がった時に店員に騎士を呼びに行かせていた事をあかした。



「どおりでタイミング良く騎士が来た訳ですね。」

侑は店主に助かりましたとお礼を言った。


「それはもう良いとして、この白い塩は譲ってもらう事はできませんか?」

店主は不純物の無い侑の塩が気になっていた。



「別に譲るどころか差し上げても構わないのですが。

ただ、俺が渡すと周りが煩く騒ぎそうですよね…」

侑は町中が不純物だらけの塩を使っている中で一軒だけ不純物の無い塩を使っていると何処で手に入れたか聞きに来るとか、最悪強奪とかが起きそうだと思った。



「私が侑から受け取って、私に対する不敬から守った報奨として国王から貰える様にして差し上げます。

それならみなさんも納得出来るでしょう?

アルデストが投獄されて塩が滞るのであれば、国営で侑の塩を販売する様に進言しますわ。」

サラは侑に目配せをする。



「それなら良いですね。

この塩なら大量に有りますから、サラに渡しておきますね。

あの塩を使ってこれだけ美味しい料理を作れる人達になら販売も構わないです。」

侑は不純物だらけの塩を使って美味しい料理を作っている料理人に感服していた。



「ありがとうございます。」

店主は侑と握手すると飲み物をお持ちしますと奥に下がった。




「…だから、私は留守番してるわと言ったでしょ。」

サラは疲れたとボヤいた。


「これで疲れたなんて言っていたら、エルフの国は大変だと思うよ?」

侑は準備運動にもなってないよと笑った。



「そっか、そうだよね。

下手したら国のツートップと戦争だもんね。」

サラもつられて笑った。



店をあとにした侑たちはギルドに入った。

ギルドの中は時間帯なのか疎らで受付のリゼもひと息ついていた。



「いらっしゃいませ。

お待ちしておりました。

侑さんにサラさんも。

エリカさんもいらして下さったのですね。」

リゼは立ち上がって侑達を歓迎した。


「お待ちしてましたって?

呼ばれて来た訳じゃないんだけど?」

侑はリゼの言葉に疑問を抱いていた。


「ギルドの職員が侑さんの家に呼びに行ったのですが。

…それで来てくれたのでは無いのですか?」

今度はリゼが疑問を抱いた。



「いや、会ってないよ。

明日からちょっと旅に出るから挨拶に来たんだよ。」

「そうでしたか、とりあえずギルマスの執務室に行きましょう。」

リゼは跳ね上げのドアを開いて侑達を招き入れた。



「ギルマス、侑さん達が来ましたよ。」

リゼは執務室のドアをノックしてから開けた。


侑は執務室の中を見て驚いた。


「空き巣でも入ったのか?」

荒れ果てた部屋の中を見て侑は犯人探しにでも呼ばれたのかと思った。


「侑…

助けて。」

ギルマスは荒れた部屋の真ん中でへたり込んでいた。


「ロゼ、何があったんだよ?」

侑は足の踏み場を探しながらギルマスの前に立った。


侑は手を差し出し、ギルマスを立たせた。



「あのね、昨日の夜なんだけど。

ギルド本部から急に連絡があったの。」

ロゼはため息まじりで話し始めた。


「エルフ国周辺に冒険者が流れているって。

エルフ国にはギルドは無いし、結界が張ってあって入れないはずだと。

早急にエルフ国に向かい、現状を確認しろと。」

ロゼがここまで話すと、侑は気付いた。


「親善目的として王に謁見を申し入れたからすぐにでも出発しろと。

エルフ国に向かう冒険者がこの町にいるはずだから、護衛として緊急時依頼をかけろと。」

ロゼはそんなに上手く依頼を見るわけがないと嘆いた。


「たぶん、俺の事だ。」

侑はディーテの言葉を思い出していた。



…あたしは貴方が覚悟を決めるなら助力する…



ディーテが手を回して王に会えるようにしてくれたんだな。

侑はディーテの助力に感謝した。

エルフ国に入れたとしても、侑には王に会う手段が浮かんでいなかった。


「俺達が一緒に行くよ。

今日はエルフ国に行くので、挨拶に来たんだ。」

侑の言葉にロゼは張り詰めていた物が切れたのか、膝から崩れ落ちた。


「良かった…

ありがとう…

侑、よろしくお願いします。」

ロゼは息を詰まらせながらも侑に言った。



「分かったから。

出発は明朝だから、それまでに必要な物を準備しよう。

足りない物は俺が創るから、最小限でいい。

ギルドからはマスターのロゼだけが行くのか?」


「ううん。

補佐として一人連れて行く予定なんだけど、リゼ以外でって考えたら決まらなかったの。」


「リゼじゃ駄目なのか?」

侑は不思議そうに聞いた。


「私もリゼも強いから、魔獣の心配はしてないの。

問題は人間なのよ。

護衛の冒険者を信用してない訳じゃないけど、女二人なの。

リゼを守りきれる自信がなかったから、置いて行きたかったの。」


「じゃあ、もう一人はリゼで決まりだな。

俺達なら何の心配もないだろ?

それに同じ転移者が揃うんだ、心強いだろ。

俺のスキルも知ってる人間なら俺も気を使わなくて済む。」

侑はリゼを手招きした。


「えっ?私が行っていいの?」

ロゼに連れて行かない宣言されて諦めていたリゼは困惑した表情でロゼを見た。


「侑が良いなら構わないわよ。」

ロゼは安堵で崩れ落ちた身体に気合を入れなおして立ち上がった。

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