第13話

「最初のうちはキツイわよ?

殆どが初心者用の常設依頼だから報酬は低いし。

質が悪ければ買取りしてもらえないし。」

サラはネガティブな部分を話し出した。



「大丈夫っす!

自分達はそれなりに強いっすから。

この前のスタンピードの時に稼いだ金が有るので暫くはタダ働きでも問題無いっす。」

男は森の奥でも行けるし、途中で魔獣を狩って素材を売れば問題無いと言った。



「じゃぁ、基本を教えくれる女性を紹介してあげるわ。

ところであなた達の名前は?」


「ウィルっす。

…エドガー…アンジー」

ウィル以外は恐怖が抜けてないのかボソボソと呟いた。



「分かったわ。

後で伝えておくから、明日にでもギルドの窓口に居るリゼに聞きなさい。」

サラはギャラリーがわらわらと増えていたので話は終わりとばかりに手で行けと合図した。



「侑さん、サラさんありがとうっす。

俺達頑張るっす!」

三人は頭を下げてギャラリーを避ける様に歩き出した。




侑達三人は席に座ると今日のオススメを注文した。


「侑、優し過ぎじゃ無い?」

サラは追い払えば良いだけと思っていた。



「優しさじゃ無いよ、打算だよ。

薬草採取って受け手が少なくて困ってるみたいだったからね。

それに、話に乗ってこなかったらルビーがチクっと刺して終わりだったね。」

侑は前にリゼがボヤいていた事を覚えていた。



「ナルホドね。

ギルドの為って事ね。

これで高品質の薬草が市場に廻れば町も潤って一石二鳥かぁ。

一瞬でそこ迄考えられる貴方の頭の中ってどうなってるのかしら?」

サラはクスクスと笑った。



料理が運ばれてきて侑が食べ始めようとした時、後ろから声をかけられた。



「貴様は面白いな。

ひと月、金貨五枚でアルデスト家で囲ってやろう。

嬉しいだろ?」

護衛を携えた金ピカな身なりの男が立っている。



「いえ、結構です。

お断りします。」

侑は男を一瞥すると食べる手を止めずに答えた。


「断るだと?

俺が直々に声をかけてやったのに断るとは不敬だな。

まぁいい。

不敬罪で訴える変わりにさっき男達を飲み込んだ面白いスキルを持つお前のスライムを寄越せ。」

アルデストの本来の目的はラピスだった。



「お断りします。

ってか、食事中に声をかける貴方にモラルは無いのですか?

話をする気は無いので、どっかに行ってください。」

侑は顔を合わせる事すらせず淡々と話し食事を続けた。



「貴様!

ただの平民の癖に何だその口のきき方は!

不敬罪で奴隷に落として一生飼い殺してやるから覚悟しろ!」


「いい加減にして下さらないかしら?

たかだか田舎の子爵でしょ?

出来損ないのドラ息子を売れ残りの王女の結婚相手にして廃爵を免れようとしてる塩しか売れない貧乏家じゃ無い。」

サラは顔を上げる事もせずに捲し立てた。

その言葉からはかなりの苛立ちを感じる。



「なんだと!

侮辱するな!

出来損ないのドラ息子だと?

息子の能力を知らないくせに侮辱するな!

俺が塩の価格を上げれば困るのはお前達だぞ!

気が変わった、不敬罪で奴隷は辞めだ。

この町の塩の価格を今から十倍にしてやる。

お前らは町人に袋叩きにされて死ぬが良い。」

アルデストは顔を真っ赤にして大声で怒鳴った。


「はぁ…

勝手にやればいいじゃない。

あんなお宅の息子みたいな塩を買ってあげてる町人の優しさも終わりね。」


「そんなに酷いのか?」


「見れば分かるわよ。」

サラは店主に塩を持って来るように頼んだ。


店主はサラの素性を知ってるだけにアルデストを一瞥すると溜息をついて奥に塩を取りに行った。


店主が塩を侑の前に置いた。



「…何これ?

これが塩なのか?」

店主の持ってきた塩は薄茶色で不純物だらけだった。

侑は鞄の中に手を入れるとインベントリから塩を出してテーブルの上に置いた。



「塩ってこれだよね?」

侑は店主の持ってきた塩の横に置いた。

侑の塩は不純物の無い真っ白で結晶がキラキラしていた。



「こんな塩をうちと同じ価格で出せるわけ無いだろ!

ちょっと位の量の高級品を持ってるからってどうなるんだ?

それともこの町に行き渡らせるくらいの量を持ってるとでも言うのか?」

アルデストは国王への献上品と同じ位の塩を見て一瞬たじろいたが自分の優位は変わらないと思っていた。


「その気になればもっと安く、町だけじゃ無く国中に出せますけど?

どうでも良いから目障りなんでどっかに行ってくれませんか?」

侑はうんざりしている。


「うるさい!

もういい!

コイツらは死罪だ!

おい、殺せ!」

アルデストは護衛に命令した。



「あのさぁ、王女を殺してタダで済むと思ってるの?

ってか、見合いさせようとしてたんだよな?

見合い相手の顔を知らないのか?」


「はぁ?

命乞いか?

何処に王女が居るって言うんだ?

流石は平民、口から出まかせで逃げる気か。」

アルデストは鼻で笑うとさっさと殺れと護衛に命令する。



フルプレートのガチャガチャと金属のぶつかり合う独特の音を出しながら騎士がゾロゾロと店の中に入ってきた。

胸の部分に国の紋章が入っている。

侑達のテーブルを囲む様に騎士は並んだ。

アルデストは急に現れた騎士に訳が分からなかった。



「アルデスト、王女と侑様に対する不敬罪で連行する。」

兜を取った青髪の青年が周りの騎士に指示を出した。



「どういう事だ?

不敬罪で連行するなら私に不敬をはたらいたこいつらだろ?

何故子爵である私が連行されなきゃいけないんだ!」


「聞こえなかったのか?

言った筈だ。

王女と侑様に対する不敬罪だと。

それから、お前はもう子爵では無い。

廃爵が言い渡された。」

青髪の騎士はサラ達に頭を下げるとアルデスト達を連行して行った。

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