8話

「ねぇねぇどうかしら?」

クルクルと回りながら聞いてくる。


「学習しないのか?

まっ、似合ってるぞ。

いや、ブラフマーは何を着ても似合うと思うぞ?」

俺は経験無いけど、服屋に付き合わされる男ってこんな気分なのかなと思った。


「そんなこと無いと思うけど…

それよりこのドレスは普段着てるのと同じデザインに見えるけど、アレンジされてる所もしっかりあって嬉しいわ。」

ブラフマーがアレンジされてると喜んでいるから、薄ら覚えで作ったとは言えなくなった侑は微笑むしか無かった。


「スキルの説明は?」

ボロが出る前に話題を変えたい侑は強引に話をすり替えた。


「スキルの説明ね。

まず、前回のスキルアップで個数の制限が無くなってるのは把握してるわね?

今回のスキルアップでは大きさに関する制限が無くなってるわよ。

例えば、小さな石から家も作れるわ。」


野営の時とか便利になるな等と侑が考えていると


「でも、今回のスキルアップはそれがメインじゃ無いわよ。」

ブラフマーは話を続けた。


「今回のメインはレベルアップでクリエイトとカスタマイズがリンクしたの。

それにより詠唱破棄が追加されたわ。

様は石を握って作りたい物の単語を言えば良いの。

例えば剣とか、ナイフとか。

それだけで侑の考える形で出せるわよ。

しかも、侑の持っている知識がリンクされているから侑が条件をつけなければ最高品質の物をクリエイトが判断して作るのよ。

もう、創造で詳細を考えなくて良いのよ。」

ブラフマーはドヤ顔で説明した。


侑は捲し立てるブラフマーに何も言えず、ただ頷いていた。


「でね、あとね…

侑?聞いてる?理解出来てない?」


「大丈夫だよ、ちゃんと聞いてるし理解出来てる。」


「なら良いけど。

じゃ、続けるわね。

今までは詠唱すると魔法陣が出現してその中に手を入れて出していたんだけど、これからは侑の手が魔法陣代わりになるの。

イメージ的には石を握ると石が物に変化する感じかしら。

だから、これからは人前で見られないようにスキルを使いたかったらカバンの中に手を入れて発動すればマジックバッグから出した様に見えるわ。」


「それは便利だね。

実際マジックバッグを持ち歩けば良いのかな。

でも、アイテムボックス使えるから普通のカバンで良いのか…」

侑は自分で自分にツッコんでいた。


「あと、これは私からレベルアップのお祝いよ。」

ブラフマーは侑に表紙に大きな石がはめ込まれている一冊の本を差し出した。


侑は受け取った本をパラパラとめくってみるが読めない文字と魔法陣が書かれていた。


「ありがとう、今は何について書いてあるか分からないけど頑張って読める様になるよ。」

侑は本を閉じるとブラフマーに笑顔でお礼を言った。


「侑、その本の石に触ってみて。

そして、光が収まるまで決して離さないでね。」

ブラフマーはその本は読めないわよと微笑みながら言った。


「この石に触れば良いのか?」

侑が石に触ると本が光りだした。


その本は目が開けていられなくなる程の閃光を放ち、侑は眩しさの余り耐えられず目を閉じた。

すると、侑の頭の中に一気に本の情報が津波の様に押し寄せてきた。


情報の波は収まったかと思うと、また押し寄せてくる。


本の光が収まり、侑は目を開けた。


「もう、手を放して良いわよ。

本を開いてみて。」

ブラフマーの言葉に頷き、侑は本を開いた。


読めなかった文字や魔法陣は初めから無かったかの様に真っ白だった。


「侑はこの世界に存在する全ての魔法を頭の中に納めたの。

その魔法が使えるかは侑の魔法レベル次第ね。

その本は次のクリエイトのレベルアップで必ず必要になるから大事に保管しておいてね。」


「分かったけど、こんなに頭が痛くなるなら先に言って欲しかったな。

でも、ありがとう。

この本は大切に保管しておくよ。」

侑は頭を両手で抱えながら、痛みが引くのを待った。


「本の内容を言ったら、受け取らなかったでしょ?

侑はそういうズルみたいなのは好きじゃないから。

でもね、ズルじゃ無いし侑には必要な物だからどうしても受け取って欲しかったの。

侑が今いだいている罪悪感は消す事が出来ないけど、この先同じ状況になった時に殺す以外の選択肢ができるから。

例えば、動けなくなる魔法をかけて逃げるとか記憶を操作するとか。」

ブラフマーは侑の顔色をうかがいながら、話を続けた。


「侑はあちらの世界で辛い事を沢山経験して、楽しかった良い思い出を沢山作る事が出来なかったから…

この世界では楽しい事を沢山経験してして欲しいの。

綺麗な景色の中に住み、心を通わせた人や従魔と毎日楽しく過ごす。

ちょっとしたハプニング位はあるかもしれないけど、侑が毎日笑顔で暮らしてくれる。

それが私の望みなのよ。」

ブラフマーは侑の手を握り、涙を浮かべながら訴えた。


「ありがとう、ブラフマーの気持ちはとても嬉しいよ。

俺はこの世界に来て、向こうの世界では味わえなかった体験を沢山させてもらっている。

それは楽しい事だったり、辛い事だったり色々だけど必ず手を差し伸べてくれる人達が居てくれるから俺は今とても幸せだよ。」


「改めて言うよ。

ブラフマー、この世界に連れて来てくれてありがとう。

本当に感謝している。

大好きだよ、この世界もブラフマーも。」

侑は涙を隠す様にブラフマーを抱きしめると、そろそろ行くねとドアに向かった。


「侑、頑張らなくて良いんだからね。

一杯楽しむのよ。」

ブラフマーは侑の後ろ姿に声をかけた。


侑は振り向かず、また来るよと手を振った。

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