第30話

「予定通り、昨日の場所に移動するよ。」

駐馬場に着いた侑はみんなに声をかけた。

装備は昨日とほぼ変わらない、陣形も一緒。

ただ一つメイが回復メインから攻撃に参加する事を除いては。


「足止めすればいいのよね?」

歩きながらメイが侑に話しかけた。

侑はメイの横に並ぶ様に歩きながら、


「そう、母さんはアーススピアで剣山を作る感じ。

昨日やって見て分かったけど、俺がやるより母さんの方が硬いんだよ。

やっぱり専門職には敵わないね。」

「何でも出来る侑は自慢できる息子よ。」

メイは侑の肩を叩きニコニコしている。


ドラゴの肩に乗っているラピスがモンスターの接近をピョンピョン跳ねながら警告してる。

侑は索敵の範囲を広げ集中した。


「速いよ!

もう直ぐ視認できる距離だよ!

ブラッディーベアーじゃ無い、一体じゃないよ。

三体居る!

いや後ろにもう一体居る、四体だ!」


「見えたぞ!

大型のネコだ。

展開して来るぞ!」

ドラゴは広めのスペースを見つけて、足を止めた。

侑は陣形を変える。

メイとサラを中心に侑、ドラゴ、バトラの三角陣を取った。

ドラゴはトンファーをクルクル回し始めた。

バトラは鞘から抜かず、居合いの構えだ。

侑は鞘から抜いた二本の刀を水平に構えた。

サラは矢に風魔法を付加し始めた。

メイはパーティー全体に防御力アップの付与魔法をかけた。


ネコはジリジリと距離を詰めて侑達を包囲している。

後ろに控えている一際大きいネコが吠えると、三体のネコは一斉に襲いかかる。


ネコと言っても体長が1メートル近いので、トラに近いと侑は思った。

しかも、動きが速い。

ブラッディーベアーとは比べ物にならない。

侑はオニキスも本気を出したらこんな感じかなと思いながら、ネコの爪攻撃を躱す。


『今は一対一だが、後ろのデカイのが来たらちょっとヤバイな…』

ドラゴはちょっと押され気味だった。

攻撃を受ける事は無いが躱していると反撃が間に合わない。

体力の消耗戦になると少し分が悪い。

相手は魔獣化したネコだ。


〈ドサッ。〉


後ろで何かが倒れる音がした。

振り向くとネコだ。

倒したのはバトラだった。


「攻撃を躱してたら、いつまでも終わらんぞ!

動きを見極めて、カウンターで応戦しろ!

多少の攻撃を受けてもメイが居る。」

バトラは多少痛いのは我慢しろと叱咤した。


ドラゴはトンファーを腰に差し、空手の構えで手甲に火を纏わせた。

ネコがドラゴに飛びかかり、左前足の爪攻撃を繰り出してきた。

ドラゴは躱すことをせず、一歩踏み込むとネコの眉間目掛けて正拳突きした。

ネコはドラゴの攻撃を躱した様に見えたが、次の瞬間崩れる様に倒れた。


ネコの眉間には穴が開いていた。

ドラゴは手甲に火を纏わす事で、一本だけ出した爪を隠していた。


「上手く出来て良かった…

ギリギリだった。」

ドラゴは右肩を押さえながら呟いた。

肩からは血が流れてる。


ネコは残り二体。

侑の前と少し離れた所で見てる一際大きいネコだ。


侑はネコの攻撃を受けない様に躱していたが、バトラの喝で戦闘スタイルを変える。

脇差しを鞘に仕舞うと、右手で太刀を持ち左手をフリーにした。


「母さん!

大きいのが動いたらドラゴの前にアーススピアで剣山を作って!」

「分かった!

詠唱は終わってるから任せて。」


侑はアイススピアを左手で発動してネコめがけて飛ばす。

ネコが左に避けるのを見越して侑は踏み込み太刀を下から振り上げた。

ネコは上体を捻り、侑の太刀を避けた。

ネコが着地した瞬間、侑は太刀を振り下ろした。

侑は振り上げをフェイントに使い、燕返しを行なった。

太刀はネコの首を捉え、頭を落とした。


侑がネコを倒した瞬間、大きいのが動いた。

侑の予想通り、ドラゴと侑の間を割って入ろうと動いた。

メイはアーススピアをドラゴの前に発動した。

ネコは軌道を修正して侑に向かった。

侑は軌道を変えた瞬間、アーススピアを発動してネコが真っ直ぐに向かって来る様に仕向けた。


「真っ直ぐ向かってくればブラッディーベアーとやる事は変わらない。」

侑はネコの振り上げた爪攻撃を太刀で受け止めた。

ドラゴはネコの前足の骨を砕いた。

動きが鈍くなったネコの眉間をサラの弓から放った矢が撃ち抜いた。


「ふー、キツかったね。

鑑定したら、ソードキャットだって。

オニキスの進化前だって。」

「オニキスって本気出したらかなりヤバイんじゃない?」

「かもね…

寝てるかカニを食べてるところしか見たことないから実感湧かないけど。」

侑はネコをカバンの中に仕舞うと座り込んだ。


メイはドラゴの治療を始めた。


「これ位大丈夫ですよ。」

「駄目よ、このまま帰ると侑がエリカに怒られるでしょ。」

メイが休憩中の周りを和ませた。


休憩を取った侑達は昨日シズが居た洞窟の近くでブラッディーベアーと戦っているパーティーを見つけた。


よく見ると湖畔で侑達に絡んできた男達だった。


「どうするんだ?

あいつらを助ける義理も無いし、あいつらの仕打ちを考えたら手を出す気にもならねぇ。」

「苦戦はしてるけど戦えてるから様子見かな。

助けるつもりは無いけど、助けてと言われたら変わりに戦うかな。」

侑はパーティーの視界に入る位置で座った。


「お前ら、何やってんだよ!

手伝えよ!」

「なんで手伝わなきゃなんねーんだ?

てめぇらがうち等にやった事、忘れたとは言わせねぇぞ。」

ドラゴが声をかけてきた男の神経を逆撫でする。


「手伝わねぇなら、どっか行けよ!

邪魔だ!」

「だとさ、行くか?」

ドラゴは侑の肩をポンと叩くと『行こう』と動き始めた。


サラはパーティーのリーダーに向かって矢を放った。


「あぶねぇーな!

てめぇなにすんだ!」

リーダーはブラッディーベアーの攻撃を避けながら、サラを睨んだ。


「感謝しなさいよ。」

サラは矢を指さした。

矢は毒蜘蛛を仕留めていた。


「勝手にやったんだから、礼は言わねぇぞ。」

リーダーは周りをキョロキョロ見渡した。


「どうするんだ?

逃げるならブラッディーベアーは引き受けてやるぞ?」

「誰が逃げるか!」

「じゃ、俺達は行くぞ。」

「ま、まて、逃げないぞ、俺達は逃げない。

ただ、お前らに譲ってやる。

戦略的撤退だ。」

「素直に逃げるって言えよ!

あとでグチグチ言われんの嫌なんだよ。」

「分かったよ、逃げる。

お前ら、殺られろ。」

リーダーが捨て台詞を吐いて離脱すると、他のメンバーも攻撃を避けながら逃げ始めた。


全員がブラッディーベアーから離れたのを確認して、ドラゴがブラッディーベアーの気を引く。

離脱したパーティーが離れた所で座っている。


「見えない所まで移動しろ!

流れ弾が当たっても文句言わせないぞ。」

「うるせー、ちょっと休ませろ。」

「トドメだけ刺しに来ようとしてるのがミエミエなんだよ。」

「ちっ……」

パーティーはスゴスゴと動き出し、森の中に消えて行った。


「よし、邪魔者は居なくなったから始めるか。

母さん準備出来てる?」

「いつでも良いわよ。

ただ、ドラゴの間合いだとちょっと不安ね。」


「ドラゴ離れろ。

俺が気を引く。」

バトラがドラゴとスイッチしてブラッディーベアーの前に立った。


バトラは弥生を鞘から抜いて二刀流の構えを取った。


「父さん、一振り渡そうか?」

「いや、構わん。

弥生で受けるのが嫌だから、鞘を防御に使うだけだ。」

バトラは弥生が折れるとは思わないが、キズが入るのも嫌だった。


「……あなた。

それで怪我しても治しませんからね。」

メイはバトラが弥生を大切にしてる事を嬉しく思う反面、弥生を庇って怪我されたら困るのでバトラに怪我するなと釘を刺した。


「分かっておる。

爪の攻撃より、お前がタイミングを外す方が恐いわ。

大丈夫なんだろうな?」

「大丈夫よ!

詠唱は終わってるから、あとはあなたが攻撃を捌いて離れた瞬間発動するだけよ。」

メイは杖を地面に刺して、タイミングを待っている。


「なかなか動かないね。

昨日の奴より知能が高いのかな?

ちょっと挑発するか…

サラ、右目を狙って一本矢を放って。」


「右目ね。

本気で狙って良いのよね?」

「何言ってんの?

本気で狙わないでどうするの?」

「当たっちゃったら、計算狂うでしょ?」

「その時は動かなくなった瞬間に母さんが発動するから結果は一緒だよ。」

「ならいいけど。」


サラはバトラの左後ろの離れた所に移動すると、矢を放った。


『バシュッ。バキッ。』


サラの放った矢はブラッディーベアーの右手で叩き落とされた。

ブラッディーベアーは叩き落とした右手を軸に回転してバトラに尻尾で攻撃した。

バトラは鞘で尻尾を受け止め、バックステップで距離を取った。


「アーススピア!」

回転を止められたブラッディーベアーの足元に地面から槍が突出し、何本かが足に刺さった。


『ガァッ!』

ブラッディーベアーは刺さった足をバタバタと動かし槍を折ろうとするが、なかなか折れない。


「ドラゴ行くよ!

サラも狙えるタイミングで攻撃!」

侑はドラゴと左足を砕きに行った。

ドラゴは足の関節を狙ってトンファーで攻撃してる。

侑はドラゴを援護する様に尻尾を斬り落とした。


『ギャウン。

ドスン、ドサッ。』

尻尾を斬り落とされ足は砕かれたブラッディーベアーはバランスを崩して倒れた。

侑とバトラは首を狙いに行った。

次の瞬間、


『ギャー、痛ぇー!

何だこりゃ!』

森の影からトドメを刺す瞬間を狙っていた逃げたパーティーがメイのアーススピアの餌食になっていた。


「やっぱりな…

根性腐ってるから、狙ってくると思ってたよ。」

ブラッディーベアーの首を落とした侑が呆れ顔でパーティーを見る。


「フザケるな!

俺達が見つけたんだぞ!

お前らが横取りしたんじゃねぇか!」

リーダーがさも自分達は横取りされた被害者だと言い放った。


「面倒臭いし、もう関わりたく無いから終わりにしよう。

流れ弾に当たっても知らないって言ってあるし。

別に罪に問われても構わないし。」

侑は刀を仕舞うと、カバンから鷹丸を出した。


「何する気だよ!

刀で斬って流れ弾とは言わせないぞ!」

「お前らに近付きたくないから刀を持ち替えたんだよ。」

侑は刀を鞘から抜くと弓形態に変化させた。


「何だそれ!

どうする気だよ?

冗談だろ?

本気じゃないよな?」

「お前ら五月蝿い。

湖畔の時点で殺しとくべきだった。

それで改心すれば良しと思った俺が甘すぎた。

獣以下は何を言っても無駄だって勉強させてもらった。」

侑は鎌鼬を付与した石を左手に持ち、弓を引いた。


「待てよ!

ちょっと待て!

何で殺されなきゃいけないんだよ?

俺達が何したって言うんだよ!

誰でもしてる事だろ?」


「…理由が分からない位の馬鹿なんだから死ねよ?

まだスタンピードが収まって無いから、死骸はモンスターが食べてくれるだろ。

良かったな、最後に人のいやモンスターの為に役に立てて。」

侑は石を放った。

ワザとかするように外した。


「殺す気は無いんだろ?

改心するから許してくれよ?

なっ?

その熊はお前らが持って行って良いから。

だから………」

次の言葉を口に出す前に侑は次の石を放った。


「ごめん、父さん母さん。

俺は我慢できなかった。

自分に降りかかる物には我慢できたけど、今回は無理だった。

あとでギルドに報告して処罰を受けるよ。」

「お前は悪くない。

お前に悪い所が有るとしたら、この世界の汚い部分を見なかった事だ。

お前は綺麗な部分にしか触れてこなかったから、この世界が綺麗な物だと勘違いしているんだ。

今は理解出来なくても、ギルドに行けば嫌でも理解する事になる。」

バトラは侑の肩を抱き、気に病むなと声をかけた。


『侑さん、空気が変わり始めましたよ。

モンスターが一箇所に向かって動き始めました。』

ラピスが侑の肩に乗ってスタンピードの終わりを告げた。


「よし、ギルドに戻ろう。

報告もしなきゃいけないし、全員で行くか。」

侑は今日は家に戻れない覚悟をしていた。

だから、少しでもみんなと一緒に居たかった。

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