第32話

「おはよ」

侑はアクビをしながらリビングのソファーに座ると伸びをした。


「あれっ?

サラは?」

侑は周りを見渡し、サラが見当たらないのでエリカに聞いた。


「サラなら用が出来たから一回家に帰ると朝早くに出たわよ。」

エリカは侑の前にコーヒーの入ったコップを置いて横に座った。


「そっか、帰ったんだ。」

「すぐ戻って来るって言ってたけど、寂しい?」


「何で?」

「侑、寂しそうな顔してる。」

「別に寂しく無いよ?

こうやって、横にエリカが居てくれるし。」

侑はエリカの肩に頭を乗せるように寄りかかった。


「なら、良いけど。

今日は本当に王城へ行くの?」

「うん、行くよ。

落ち着いてきたけど、やっぱり心のモヤモヤが晴れないからね。」

「早く帰ってきてね。」

エリカは寄りかかっている侑を抱きしめた。


王城にはバトラと二人出向かう事にした。

王城の場所は街の中心だからギルドからでも見える、ただ帰れなくなる事を予想してバトラを連れて行くことにした。


王城の門につくと門兵が侑とバトラを止めた。


「あの時の冒険者じゃないですか。

今日は王城に用があるのですか?」

門兵はスタンピードの時、穴の警備をしていた衛兵の一人だった。


「国王様に呼ばれましたので伺いました。」

「そうですか、ちょっと待っていて下さい。」

門兵は門を開け、侑とバトラを迎え入れた。

詰め所で待機していた衛兵に声をかけ、二人を王城の中へ案内する様に指示した。


衛兵は謁見室の横にある待機部屋へ二人を待たせると右大臣を呼びに部屋から出た。

侑とバトラは椅子に座り呼びに来るのを待った。

しばらくすると、大臣らしき人物が現れ二人を謁見室に通した。

謁見室の中には大きな円卓と囲む様に椅子が並んでいた。

一番奥には国王が座っている。


「此方へ来て座れ。

バトラは隣室にて待っておれ。」

バトラは一礼して部屋から出た。


「お主がうちの衛兵に差し入れをした冒険者か?」

国王は侑を品定めするような眼力で見据えている。


「はい、侑と申します。

魔素の噴出している穴の警備をされていた衛兵様達の中に体調が悪くなった方がいらっしゃったみたいなので皆様に浄水を差し入れさせて頂きました。」

侑はその時の状況を思い出しながら、国王に説明した。


「衛兵からの報告では水を差し入れしてもらったと聞いておるが?」

「はい、浄水と伝えて差し入れさせて頂くと遠慮されてしまうと思いましたので。」

「お主は断られる事を思慮して水だと言った訳だな?

中途半端な物を渡して浄水と胸を張って言えなかった訳では無いのだな?」

「はい、渡した物は鑑定して確認しましたし信頼の出来る薬師と付加術師と一緒に作った物ですから品質には胸を張れます。」

侑は国王の威圧を感じながらも怯む事なく話をした。


「うむ、では改めて言わせて頂こう。

うちの衛兵に対する心遣い、誠に嬉しく思っておる。

ありがとう。

衛兵達からも感謝の気持ちを伝えてくれと頼まれておる。」

「勿体無いお言葉、ありがとうございます。」


「では、お主に褒美を取らせるとしよう。

何を望む?」

「見返りを求めて行った訳では無いので、何も望みません。

ただ、許されるならば一つ話を聞いて頂きたいです。」

「言ってみよ。」

国王は肘掛けに寄りかかるように姿勢を崩し、侑の言葉に耳を傾けた。


「私はこのスタンピードで人を殺してしまいました。

殺した事に後悔はありませんが私は治安や国を護る大義を持って殺した訳では無く、自分の為にしてしまったのです。

しかしギルドでは身元も分からず証拠も無い為、報告は受けたが処分は無しと言われました。

俺は人を殺してしまった事に対しての罰が無いのが納得できないのです。」

「ふむ、お主は四人の男を殺した事に対しての裁きが無いのが納得出来ないと申すのだな?」


「失礼ですが、人数も性別も話していませんが何故知っていらっしゃるのですか?」

話していない情報から切り出してきた国王に侑は驚きを隠せなかった。


「報告は聞いておる。

今朝早く娘が帰ってきたと思えば、ずっとお主の事を話しておったからな。

…ドアの影に隠れず、出てきたらどうなんだ?」

国王はドアに向かって出てこいと声をかけた。

ドアが開き、姿を見せたのはサラだった。


「サラ?

えっ?何で?娘って?」

サラの出現に侑は頭が混乱した。


「私は国王の娘なのよ。

ただ王位継承権は無いし、退屈だから家から出た只の薬師よ。」

サラは混乱している侑に只の薬師を強調して説明した。


「サラが報告したと言う事は、人を殺してしまった事に関しては信じて頂けると言う事ですよね?」

「ギルドでは不明と言われた身元も分かるぞ?

娘の行動に制限をかける気は無いが、大事な娘だから隠密を付けておいたからな。

隠密からも報告を受けている。

奴等は他のギルドで多くの問題を作って出禁になり流れて来た冒険者だ。

お主が殺さずとて、奴等は国王の娘を侮辱した罪で死刑だった。

だから、気に病む事は無い。

…と言っても納得出来ないであろう。」

侑は混乱から落ち着いてきたとはいえ平常心ではないと察し、国王は話を一度切った。


「隠密が付いていたのですか…

俺の索敵にも、従魔の索敵にも反応出来ませんでした…

それに父さんとも面識が有るのですね…」

侑は混乱を紐解くように疑問を口に出していた。


「うちの隠密は気配を消すと神でも見つけるのは難しいであろうな。

バトラと同類だと思えば良い。

あいつは知将と呼ばれていたが、政には口を出さないと城に寄り付こうとしなかったからな。

儂の側近に欲しくて口説いたが無理であった。」

国王は侑の表情を観察し、話を進めた。


「今回のお主の処分に関して話しても良いか?」

「はい、宜しくお願い致します。」

侑は神妙な面持ちで国王と向かい合い、処分を聞く体勢になった。


「では、侑に処分を言い渡す。

向こう一ヶ月の国外追放とする。

守らねば、永久追放とする。」

「承知致しました。」


「では、次にお主に対する褒美だが…

今お主が一番欲しいであろう治らぬ火傷に関しての情報をやろう。」

「何か知っていらっしゃるのですか?」

侑は褒美と聞いて辞退するつもりでいたが、口から出た言葉は違かった。


「治らぬ火傷自体は知らん。

だがな、王家にのみ伝わる秘薬について教えてやるとしよう。

万能薬と云われるこの秘薬は病気や怪我、呪いであろうが治せる物だ。

製法は王家から門外不出とされているが、今回のお主の行動は国家を助けたに価する。

なので、製法を他言しない事を条件に教えてやろう。」

「王家の秘薬の製法など畏れ多くて頂けません。」


「エリカとやらを治したくは無いのか?」

「治したいですが…

秘薬の製法に価する働きなど俺はしていません。」

「構わん、秘薬の製法は口伝にて伝わっておるが現物を見た事は無い。

儂は秘薬の効果をこの目で見たいのだ。」

国王はニヤッと笑い、サラに王妃を呼びに行かせた。

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