第33話
「何の用よ、忙しいのよ。」
サラに連れられて王妃が部屋に入ってきた。
「この者に秘薬を作らせようと思ってな。
お前の意見を聞こうと思ってな。」
「勝手にしなさいよ。
どうせ失敗するんだから。」
王妃はくだらない事で呼ばないでと機嫌が悪い。
「侑なら作れるわよ。
彼に作れない物なんて無いんだから。」
サラは王妃に向かって顔を真っ赤にして怒る。
「何よ、彼の事が好きなの?
もう、ヤッたの?」
王妃はサラの表情が嬉しいのか楽しいのか煽ってきた。
「馬鹿言わないでよ!
なんで私が侑と…
侑には好きな人が居るし…」
サラは下を向いて吃ってしまう。
「もう止めんか。
久し振りに娘と会話して嬉しいのは分かるが、話が進まん。
で、この者に秘薬の材料と製法を教えて良いのだな?」
「だから、いいって言ってるでしょ。
材料を全部揃えるのは無理だろうし、製法なんて器に全部入れてひっくり返すだけじゃない。」
「分かった、もう下がって良い。」
国王は話を進める為王妃に退室を促したが、王妃は部屋から出ようとしない。
「なんだ?
忙しいのだろう?
もう良いぞ?」
「材料を聞いて愕然とする彼の表情を見てから行くわ。」
王妃は椅子を少し離れた所に引き摺っていくと足を組んで座った。
「それではお主に材料と製法を伝える。
材料は青い氷の薔薇、世界樹の新芽、浄命水、時の器の四つだ。
妻も言っているが、製法は簡単だ。
材料さえ揃えられれば、失敗はしないであろう。」
国王は難しいのは材料の調達だが、その中でも時の器は存在すら確認できない物だと言う。
「不親切ね。
サラ、私の書斎の本棚の一番上の段…
右端の手記を持って来なさい。」
サラは頷くと足早に部屋から出た。
「良いのか?
あれはお前が一生懸命集めた国家機密並の情報が記されている大事な物であろう?」
「貴方は本当に周りが見えない人ね。
サラの目を見た?
それに彼の目も。
二人とも同じ目をしていたわよ?
材料を聞いて落胆している目では無かったわ。
前に進めると目を輝かせていたわよ。
ならば手助けしてあげたいと思うのは親として当然でしょ。」
王妃は国王を見て溜息をついた。
「持ってきたわよ。」
サラが一冊の手記を手に持ち帰ってきた。
王妃は受け取るとパラパラめくり目当てのページを探した。
「あったわ。
青い氷の薔薇はこれよ。
場所は火の国にある火山で目撃されてるわね。
世界樹の新芽はエルフの国ね、日が昇ると同時に芽を出した新芽じゃないと駄目よ。
浄命水は砂の国ね、砂漠の蜃気楼の中に現れるオアシスの大きな木になる身の中に入ってるわ。」
王妃は手記に書かれている絵を指差しながら、何処で手に入るか教えてくれた。
「最後に時の器ね。
これに関してが一番の難関だと思うわ。
神器で絵しか残ってないから、何処にあるかも分からないわ。
目撃情報も無いから、これだけは自力でどうにかしなさい。」
王妃は時の器が一番の難関だと言うが、侑はその絵を見た時に気付いた。
「この時の器でしたっけ、俺持ってますよ。」
侑はカバンの中からティーターンに貰った砂時計を出した。
「これはまさしく時の器。
お主はこれをどこで手に入れた?」
国王は身を乗り出して砂時計をマジマジと見た。
「転移した時にティーターン様から頂きました。
読書する時とかに重宝していたのですが、間違った使い方をしていたのですかね…」
侑は砂時計をひっくり返すと時間がゆっくり流れて長い時間読書が出来ると説明した。
「神様から頂いたのか?
それに転移とな?
お主は一体何者なのだ?」
国王は自分の送り込んだ隠密から侑の情報を余り聞いていなかった。
「ちょっと貴方のステータスを見せてもらえるかしら?」
「構いませんよ。」
侑はギルドカードをテーブルの上に置いた。
ステータスは本来の数字を示している。
「加護持ち…しかも二人。
初めて見たぞ…
しかも、何だこのデタラメな数字は…
全体的に数字が高いが、知力のステータスは賢者より高いではないか。」
国王は侑のステータスを見ると顔が高揚して赤くなった。
「サラ、貴女今すぐこの方とヤりなさい。
既成事実を作って、逃がしちゃだめよ。」
「だから、侑には好きな人が居るから…」
「そんなの関係ないわ。
貴女の前には二度と現れないわよ?
…私が代わりに事実を作ろうかしら。」
王妃は顔をポッと赤くした。
「お主に先程言い渡した罰を変更させてもらうぞ。
一ヶ月の国外追放と申したが止めだ。
お主には他の罰を与える。」
「何でしょうか?」
「万能薬を完成させて持ってこい。
その際、エリカとやらを連れてこい。
目の前でその効果が見たい。」
国王は侑なら本当に作りかねないし、逆に一ヶ月もかからない気がした。
このままだと自分が一ヶ月も待たなければならない苦痛を味わう事になりそうなので、罰を変更した。
「分かりました。
それでは旅の準備をして明日にでも出発します。」
侑は罰の内容が変わっても、材料を探すのに同じ位の時間がかかると思ったので敢えて反論はしなかった。
「サラ、貴女はこの方と一緒に材料探しの旅に出なさい。」
「言われなくても付いて行く気だったけど?」
「隙あらば……」
「だから、何回言わせるのよ!」
サラは怒りを通り越して、呆れている。
「俺は独りで行くつもりですが?」
侑は王妃とサラの会話に口を出した。
「いや、サラを同行させる。
旅先でお主に何かあったらどうする。
何代も作れなかった秘薬を儂の代で再現出来そうなのだぞ?
少しでも、不安材料は無くしておきたい。」
国王は命令だと侑に言った。
「分かりました。
同行してもらいます。」
侑はサラに旅の支度ができ次第、家に来るように言った。
「旅の支度なんて無いわよ?
カバンに必要な物はいつも入ってるし、他に着替えとかが必要になったら侑に作ってもらうし。」
サラは侑と一緒に家に帰ると言った。
「着替えを作るって、ステータスには表示されてなかったけど貴方は服飾のスキルも持ってるの?」
王妃は変な所に喰い付いた。
「いえ、服飾のスキルは持っていません。
ただ、イメージした物を作れるスキルを持っています。」
「服に限らないって事?」
「私の武器も防具も侑が作ってくれたものよ。」
「便利なスキルを持っているのね。
是非ともこの目で見てみたいわ。」
「何か作りましょうか?」
侑は作らないと収まりがつかなそうだと諦めた。
「そうね…
サラ、彼が作った物で一番気に入ってる物は何?」
「下着かな。
一度身に着けると手放せなくなるから……」
「下着?
じゃあ、私にも下着を作ってくださる?」
侑は溜息をつきながら、デザインを書くようにと王妃に紙を渡した。
王妃は紙を受け取るとサラに説明されながら、下着のデザインを書いて侑に渡した。
「それでは作りますよ。」
侑は紙を受け取るとカバンから石を出してイメージを始めた。
紙に書いてあるデザイン、色を創造する。
スキル『クリエイト』を発動し、魔法陣から下着を出し王妃に渡した。
「凄いわね。
この触り心地はこの世界の物では無いわね。
貴方の前に居た世界の物かしら?
素敵な物をありがとう。」
王妃は下着を触りながら侑に礼を言った。
「それでは行くが良い。
一日も早く秘薬を完成させて持ってくるのだ。」
国王は自分の分が無い事に拗ねるように侑を送り出した。
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