異世界スローライフ

第29話

「それでですね…」

バトラ達との楽しい食事の後リビングでコーヒーをを飲みながら談話中、侑は話を切り出した。

「今日ブラフマー様の所に行きました、

もっと周りを頼りなさいと諭されました。

ティーターン様の所にも行きました、もっと我儘に自由に生きろと言われました。」

侑は神殿で言われた事について、考えていた。

「俺は6歳の時に親を亡くして、大人に囲まれて生きてきたのでこんな性格です。

親には甘えていたと思いますが、記憶は少ないですから甘え方も分かりません。」

バトラ達は話の展開が読めなくて、ちょっと困惑している。

「なので、バトラさん夫妻にお願いが有ります。

俺の親代わりになって、此処で一緒に暮らして下さい。」

侑の爆弾発言が炸裂した。

「「侑様の親代わり?!」」

バトラ達は驚きを通り越して、二の句が継げない。

「…いや、しかし、急に言われても、

いや、急じゃなくても、嬉しくないわけ無いんだが、でも、」

バトラは自分でも何を言っているのか分からない。

「…しかし、私達は。」

バトラは、侑からの申し出が嬉しい反面もう転生願いを出しているし…口籠っていると。

「転生願いを出したことは知っています。

いつまでも一緒にとは言わないです、

俺もいつまでも独りで居る訳じゃないし。

旅して気に入った土地があったら移り住むかもしれない。

ただ、親を早く亡くしたから…

少しの間だけでも、親子がしてみたいっていうか亡くなったまま悲しいままで終わらせたくないっていうか…

所謂、我儘ですね。」

侑は言い慣れない事を言っている自分に笑えた。

「転生願いを受理されてもすぐには出来ません。

それは、一ヶ月後から一年後かそれ以上か。

今回は夫婦一緒にとお願いしたので、更に時間がかかるかもしれないです。

ですから、此方にいる間だけでしたら喜んでお受けします。」

バトラは期間限定ですがと笑ってる。

「侑、良かったね。」

ミチルは尾羽を振ることなく侑に言った。

「では、明日町に行く前に引っ越ししますか。」

バトラは荷物はほぼ無いから、明日でも問題無いと言っている。

「ミチルさん、明日からはずっと一緒ですね。」

メイはミチルと一緒に居られるのが凄く嬉しくてすごい笑顔だ。

「そうですね、楽しい毎日になりそうですね。」

ミチルはメイの肩に乗った。

その夜、寝室で侑はミチルを見つめていた。

「勝手に決めてごめんね。」

先に口を開いたのは侑だった。

「…別に気にしてませんよ。」

ミチルは侑を見つめ、微笑んだ。

「なら良いんだけど、ブラフマー様の所から帰ってきてからちょっと変だから。

普段のミチルかと思えば、無理にはしゃいでみたり、大人しくしなったり。

ブラフマー様と二人で話していた時に何か言われたの?」

侑はミチルの顔を覗き込んだ。

「そんなに顔を近付けるとキスしちゃいますよ?」

ミチルはいたずらっぽく笑った。

「実はブラフマー様とお話している時に、医療系の情報が足りないって言われたのよ。

この世界は魔法やスキルで怪我とか病気を治せるって思ってるでしょ?

それは、間違ってないけど正解でもないの。

魔法もスキルも核になる情報を基に構築されてるの。

だから、新しい病気や呪いを治す為には新しく正しい情報を核にしなければいけないの。」

ミチルは『ここまで分かる?』と侑の顔色をうかがう。

「例えばね、キュアとヒールの違いって分かる?

本来はね、キュアは状態異常等の内科的な物。ヒールは怪我等の外科的な物なの。

でも、今はどちらでも治るでしょ?

正しくない情報で構築したから、魔力消費数で選ばれてしまう。

正しくないから、本来の治癒力が出ない。

この流れは絶たないと、近いうちに魔法は衰退してしまう。

未知の病気等に立ち向かえ無くなってしまう。

それは絶対に駄目。」

どぉ？ちょっと難しい?ミチルは侑の顔を見つめる。

「ちょっと難しいけど、何となく理解できてるよ。

で、その話とミチルの挙動不審はどう繋がるの?」

侑はミチルが難しい事を整然と話しているのが不思議だった。

「侑のいた世界では、医者になるのは大変でしょ?

同様に、此方の世界でも医療系に特化した使徒は少ないの。

転生して、あちらの世界で医者をしていた使徒は数える位しか居ないの。

転生してから、医療に関して勉強したのでは手遅れになるかも知れない。

だからね、転生した時に医者をやっていた私に声がかかったのよ。」

ミチルは黙っていたかった過去を話した。

「ミチルは女医さんだったの?」

侑はミチルの告白にびっくりした。

「本題に入るけど、侑は私が居なくなったら寂しい?」

ミチルは真顔で侑に聞く。