第14話
「では、書斎から始めましょう。」
バトラは壁側の本をカバンにどんどん入れていく。
壁側が片付くと、今度は本棚側の本に向かった。
此方は入れ替えですね、取り敢えず先に仕舞いますね。
仕舞い終わると、今度は本を出し始めた。
手に取った本はどんどん棚に入れていく。
無造作に入れてる様に見えるが、よく見るとジャンル別でしかも関係を考慮した並びになっている。
「早いですね、しかも並び順も考慮されてるし。」
侑は手伝う事が出来ないスピードで作業するバトラに感嘆の声を出した。
「私は人間界に居た時に、イタリアの国立図書館で書士をしてましたから。」
バトラは手を止める事なく作業している。
…今日は書斎の片付けで終わりかなと思っていたけど、まさか一時間もかからずに終わるなんて。
「侑様がこれから作られる武器が気になり、ちょっと急いで作業してしまいました。」
バトラは早くラボに行きましょうと侑を急かす。
急かされるように侑はラボに向かった。
「侑様はどの様な武器を作られるか決まりましたか?」
バトラは少年の様な表情で、侑を見つめる。
「大体のイメージは出来てるんだけどね。」
侑は先程見た戦弓と同じ原理のマルチな武器を作ろうと考えていた。
「日本刀と弓を併せた形にしようかなと思っているんだけど、弭の部分をどうするか悩んでるんだよ。」
侑はバトラに良い案が無いか聞きたい。
バトラはカバンの中から一冊の本を出した。
「今回は必要ないかなと思い出さなかった本なのですが、此方のページを見て下さい。」
本には『忍者、隠密の全て』と書かれている。
「忍者刀という武器なのですが、柄の先から仕掛け刃を出す事が出来ます。
忍者の刀の構え方は通常と逆で、柄が前に刃は後ろになるのですが間合いがゼロコンタクトになった時に仕掛け刃を出して攻撃するようです。
この構造を上手く使えませんか?」
侑はバトラの知識の深さに驚愕し、また自分の知力がバトラと話す事で上積みされているのを肌で感じた。
「忍者ですか、バトラさんの知識は凄いですね。」
「日本贔屓ですから。」
二人は他愛のない会話をしながらも、頭の中はフル回転で武器を考えていた。
「決まりました。
デフォルトの形は太刀サイズの日本刀にします。
柄の先からは物理的な刃物では無く、魔力で刃物を出します。
その為、柄の中に魔力をある程度溜められる魔晶石のような物を仕込みます。
刃の先を弭にして、魔力の弦を張ります。
矢は魔力を込めたさざれ石を使います。
」
侑は自分がイメージしやすい様に細かく説明した。
「良く考えられていますね、では名前は何にしますか?」
バトラは当たり前のように聞いた。
「名前ですか?
考えて無いですけど。」
侑は見てから決めようと思っていた。
「刀匠は名前を決めてから刀を打つと聞いた事が有ります。
その方が、イメージが湧きやすく出来栄えが良いそうです。」
侑はバトラの知識は何処から身に付けるのか知りたくなった。
「では名前を決めます、使う石はもう決まっているので其処から名前を取って『鷹丸』とします。」
侑は使う石だけ決めていた。
「ほぅ、良い名前ですね。
石の名前等を教えて頂いても宜しいですか?」
バトラはミスリルか銀鉱石だと思っていたので、使う石が気になった。
「使う石はホークスアイです。
和名では鷹目石と呼ばれてますね。
石自体はタイガーアイと同じ単斜晶系の石です。
タイガーアイの酸化する前の色とも云われてますね。
石の意味は言い伝えですが、先を見通す、全てを見透かす等と云われてます。」
侑はインベントリから標本を出しながら答えた。
「ホークスアイですか、それなら今日お持ちしてますよ。
昨日も説明しましたが、この土地ではタイガーアイが採掘されるのです。
なので、今日は赤・青・黄のタイガーアイをお持ちしました。」
バトラはカバンの中からホークスアイの塊を取り出した。
侑は石を受け取るとイメージを固める。
一度作った正宗と鷹丸という名前、柄から出る魔力の刃、弓になった時のフォルム。
全てが混ざり合い、侑の頭の中で形になった時スキルを発動した。
「クリエイト」
指輪はホークスアイを吸い込み、魔法陣を描いた。
侑は魔法陣に手を入れ、刀を抜き出した。
「見事な日本刀ですね、正宗ですか?」
バトラは日本刀のイメージを言い当てた。
「正宗もご存知なんですね、やはりバトラさんの知識は底知れないですね。」
侑は鞘を抜き、刃紋を見ながら答えた。
鷹丸を鞘に仕舞いながら、バトラさんに問いかけた。
「このあとカスタマイズで所有者登録をしてしまうと俺以外使えなくなりますが、持ってみますか?」
バトラは口に出せずにいた事を侑から提案され戸惑った。
「宜しいのですか?」
「鷹丸は俺一人では出来なかったでしょう、
此処にバトラさんが居てくれたおかげで出来たのです。
ですから、良かったら一度持ってみて下さい。」
バトラは受け取ると
「この鞘の派手では無いが存在感の溢れ方。
鷹丸の刃紋、素晴らしいの一言以外出ませんね。」
バトラは愛おしそうに侑に返した。
それではカスタマイズしますね。
「カスタマイズ」
侑は所有者登録を行なった。
「あと、矢の代わりにさざれ石を使うのですがどうすれば石に魔力を溜めることが出来ますか?」
侑はバトラならば知っていると感じ、素直に聞いた。
「今回は私がやりましょう、風魔法の鎌鼬で宜しいですか?」
バトラは得意な風属性の魔法で良いか、侑に確認した。
「宜しくお願いします。」
侑はこれからバトラが行なう行為を見逃さないように意識を集中する。
「では、始めますよ。」
バトラはさざれ石を手のひらに乗せた。
「風を纏いし我が魔力よ、我の意思を汲み鎌鼬を水晶に込めよ。」
バトラは侑に見せる為、詠唱を行なった。
「いくつか溜めておきますね。」
バトラは無詠唱でさざれ石を握り、鎌鼬を水晶に込めた。
「ありがとうございました、勉強になりました。」
侑は後で試してみようとバトラから受け取った石をポケットに入れた。
「では、リビングに戻りましょうか。」
侑はラボのドアを開けた。
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