第16話

「例えばね。」

メイが20センチ位の杖をテーブルに並べた。


「この杖を人だとするわよ?

この人に10%の攻撃ブーストをかける。」

メイは一本の杖を指差す。


「ブーストをかけられた人がもう一人に同じブーストをかけると、かけられた人は何%アップする?」

メイは謎かけの様な質問をした。


「10%アップした10%だから、理論値は11%よ。

普通のエンチャンターは自分対人なのよ、

何故ならそう教わるから。

エンチャンターは魔杖を使うの、普通にね。

だから、出力は約11%になる訳。」


メイを先生に勉強をしているみたいだなと侑は思った。


「じゃ、二人が同時にブーストをかけたらどうなる?

10%+10%だから、20%になるわよね?

これを理解してると本筋に辿り着けるのよ。

本筋に辿り着いたエンチャンターは杖を二本使ったり、杖を使わずリングにしたりして同時にブーストをかけられるように工夫するのよ。」

メイは発想と努力で後方支援するのがエンチャンターだと言った。


「因みに私は普通の魔杖を使わない。

私の杖はトリガーシステムって特殊な技術が使われてるのよ。

忘れられた技術って呼ばれてるわ。」

メイの愛杖は今の時代のものでは無いとバトラが付け加えた。


「ダンジョンで稀に見つかるアーティファクトってやつですか?」

ドラゴが話だけは聞いた事があると言った。


「そうとも呼ばれてるわね。

だから、普通の鍛冶工房とかでは直せないの。

忘れられた技術を研究している研究所でしか直せないのよ。

でも少し勉強したら、侑なら直せるかもね。」

メイはクスクスと笑った。


「私が転生する時が来たら、愛杖は侑にあげるわ。

その時は大事に使ってね。」

メイは急に真剣な顔になった。


「分かったよ。

でも多分だけど、本物を見たら今でも作れるよ?」

侑は突拍子も無い事を言った様に聞こえた。


「俺の構造解析ってスキルで杖の詳細を調べれば、クリエイトで作れると思うよ?」

侑はイメージで創造すると違った物になってしまうが、構造解析で細かく見れば同じ物が出来ると言う。


「そうね、侑ならできるかもね。

侑がギルドに行ってる間に持ってこようかしら。」

メイはいつ直るか分から無いより、侑に作ってもらった方が確実かもしれないと思った。


「侑は鍛冶じゃなくて、スキルで武器を作れるのか?

だとしたら、俺の武器も見てくれないか?」

ドラゴは手甲を侑に渡した。


「これが武器なの?」

侑は防具に見える手甲をマジマジと見た。


「俺は向こうの世界では格闘家だったんだよ。

だから、剣を振り回すより殴ったほうが早い。

詳細を見れば分かるが、火の国独特の技術で

物理攻撃力アップとスピードアップの二つが魔法付加されてるんだよ。

発動には魔石が必要な位の魔力を使うから、隠し玉みたいなもんだけど。」

ドラゴは手甲の内側にある蓋を開けて魔石を取り出した。


「面白い武器だね、

同じのが欲しいの?

それともオリジナルを考える?」

「同じシステムで作れるのか?」

「やったことないけど、多分出来るよ?」

ドラゴは改良したい所があるから、オリジナルを考えると言った。


「で、いくら払えばいい?」

「パーティメンバーから、お金は取らないよ。」

「そうか、悪いな。

じゃ、代わりに今渡したソレを侑にやるよ。

使ってる金属がミスリルより硬いアダマンタイトだから、錬金術でナイフ位には変えられると思うぞ?」

ドラゴは希少な金属だし、この国では採掘量が少ないから見た事無いだろうと思った。


「これ、アダマンタイト使ってるんだ。

アダマンタイトって、防具に使うもんだと思い込んでたよ。」

侑はアダマンタイトの硬度は魅力だけど、硬すぎて折れやすいからミスリルに混ぜようとして親和性の低さで失敗した話をした。


「なんだ、使ったことあるのか。

確かに刀の様に薄くすると折れやすいかもな、俺の国では両手剣やバトルアックスみたいに斬るよりも叩き斬る感じの厚さのある武器に使うな。」

「厚みがあれば折れないからね。

叩き斬るスタイルには向いてるよね、俺には向いてないけど。」

侑は頷きながら、自虐と自嘲を含んだ笑顔を見せた。


「侑は鍛冶がLv5だから、自分の武器は自作だろ?

ちょっと見せてくれよ。」

ドラゴは侑の戦闘スタイルが気になった。


「俺の武器はこれだよ。」

テーブルの上に二振りの刀を置いた。


「厄切丸と土龍だよ、鞘から抜いてもいいけど気をつけてね?」

ドラゴは戦闘スタイルがフルコンタクトだから、刀の扱いに慣れてないだろうと侑は思った。


「ちょっと見せてね。

ドラゴは土龍を手に取ると鞘から刀身を半分位抜くと、その刃紋に驚いていた。

何だよこの刃紋!

龍が泳いでるじゃないか⁉」

ドラゴは装飾刀だと勘違いしてる。


侑は近くにあった紙を土龍の上から落とした。

一枚の紙は土龍をすり抜ける様に二枚になった。


「装飾刀じゃ無いのか?

何だよこの切れ味は‼」

ドラゴは慌てて鞘にしまった。


「俺の作った父さんの刀はもっと凄いよ。

俺の最高傑作だよ。」

「侑‼」

バトラは自分に振られて慌てた。

これを見せたら、メイに使わせて貰え無くなるかもしれないと。


「マジか⁉

バトラさん、見せてくださいよ!」

「私も見たいなー。」

メイもがぶり寄る。


「侑……

お前のせいで使えなくなったら、恨むぞ。」

「父さん、大丈夫だよ。

俺に任せて、遠慮なく使える様にしてあげるよ。」

侑はちゃんとフォローを考えていた。


バトラは腹を括って、刀身を見せた。


「何だこの刃紋‼

ロン毛の女の人に見えるぞ⁉」

「ふーん、あなたはそういう趣味なんだ。」

メイは冷めた目でバトラを見てる。


「この刀は真名が与えてあるから、名前は言えないけど母さんにだけは教えてあげるよ?」

侑はリビングの端にメイを呼んだ。


「父さんはどんな時でも母さんと居たいんだって、散々惚気けられたよ。

もう、刀の名前は分かったでしょ?

父さんは刀を使う事を躊躇ってる節があるから、母さんから使いなさいって背中を押してあげて?

それとも、母さんの化身を汚さないようにした父さんが怪我するほうがいい?」

侑はメイを説得した。


「真名を与えたって事は刀の名前は弥生ね。

あの人ったら……

私の杖もあの人の真名にしようかしら。

そうすれば、あの人も遠慮せずに使えるでしょ?」

メイは目に涙を溜めて顔を赤くしていた。


「二人で惚気けられた俺の立場は?」

侑はメイに微笑んだ。


「あなた、遠慮なく使いなさい?

使うのを躊躇って怪我したら許さないからね?」

メイはバトラに自分の作ってもらう杖の名前を決めたと言った。


「そうか、怪我しない様にしないとな。」

バトラは笑顔で答えた。

そして侑を見つめると、目でありがとうと言った。


「そろそろ、ギルドに行ってくるよ。

四人パーティを登録してくる。」

侑がソファーから立ち、刀をカバンにしまっていると


「ちょっと待って、あと一人入れるわよね?」

サラが侑に声をかけた。


「入れるけど、エリカは連れて行かないよ?

魔素濃度が高いからね。」

侑はワザと話をずらした。

エリカはオロオロしている。


「私は駄目って事なの?」

サラは少し怒っている。

いつの間にか、手には大鎌を持っている。


「冗談だよ、怖いから大鎌しまって?」

侑は笑っている。


「で、私は入れてくれるの?」

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