第27話

「中へどうぞ。」

Bは相変わらず、無表情だ。


中に入ると、ミチルは疲れ果てていた。

『侑、遅いよ。』

ミチルは小声で侑をつっついた。


「戻りました、これから杖を作ろうと思いますが何か希望は有りますか?」

侑はブラフマーがどの様な杖が欲しいのか、ヒントだけでも欲しかった。


「侑様が考えて、私の為に作ってくれた物が欲しいです。

長さも、形も全てお任せします。

それに、杖に拘らなくても良いですよ。」

ブラフマーは何もヒントを与えなかった、しかも杖でなくても良いと。


『どんだけ侑の事を気に入ってるのよ…』

ミチルはげんなりしてる。


「ちょっと考えさせて下さい。」

侑はいくつかの形を考えてきていて、ブラフマーの希望に沿ったものをその中から選ぼうと思っていた。


『どうするか…

俺のイメージだと、ロングロッドなんだよな…

戦う所がイメージし辛い、っていうか戦うのか?

戦うよりも癒やすタイプに思えるんだけど…』

侑は勝手にイメージを作る。


『方向は間違ってないけど、怒ると恐いよ?

攻撃・防御とカテゴリーで考えないで、派手にしたら?』

ミチルが侑に念話で伝える。


『ありがとう、助かるよ。』

侑も念話で返す。


『ロングロッドで、ある程度の装飾。

実用性より、アクセサリー的な感じ。

さて、石は敢えての水晶で。

木や金属では無く、クリスタルロッドかな。

若干、ミスリルを入れてアクセントを作るか。』

侑はイメージを固め始めた。


「それでは作りますね。」

侑はカバンの中から、水晶を出した。


『クリスタルのロングロッドで、六角柱のクラスターにワイヤーアートの様な装飾。

ロッド自体には火と水と風をイメージした装飾を一面おきに。

名前はレピオス。』

イメージが固まるとスキルを発動する。


『クリエイト』

水晶は指輪に吸い込まれ、魔法陣が浮き上がる。

侑は魔法陣に手を入れると、杖を引き出した。


「出来ました、名前はレピオスです。」

侑はブラフマーに手渡し、名前を伝えた。


「素敵な杖ですね、レピオスという名前も気に入りました。

侑様、ありがとうございます。」

ブラフマーは目をキラキラさせている。


「では、仕上げをしますね。

杖を両手で水平に持って、此方に向けて下さい。」

侑はブラフマーと向かい合って、杖を握った。


『カスタマイズ』

侑がスキルを発動すると杖が光り、侑の手の中で髪飾りに形を変えた。


「ちょっと後ろを向いて貰えますか?」

侑は後ろ向きになったブラフマーの銀髪を纏め、髪飾りを着けた。


その光景を見ていたミチルは

『あ~、これはマズイわ。

侑ったら、サービスし過ぎよ。』

侑を見て、溜息をついた。


「ブラフマー様、所有者認証と普段は髪飾りにしてみました。

ブラフマー様の意思で杖に変化します。

どうですか?」

侑はブラフマーが後ろを見ている為、表情が読めず気に入っているか分からなかった。


「………」

ブラフマーは何も反応しない。


「……ブラフマー様?」

侑はブラフマーの肩が小刻みに揺れているのを見て、怒っていると勘違いした。


「…侑様。

ありがとうございます、すごく嬉しいです。

ただ、許可なしに女の人の髪を触るのは反則ですよ。」

ブラフマーは嬉しさの余りに涙目になっていた。


「申し訳ありません、着けた感じが気になったもので。

不快でしたね、これからは気をつけます。」

侑は物凄く勘違いをしている。


「不快なんてとんでもない。

凄く嬉しかったですよ、ただ誰にでもやってはいけませんと言う話です。」

ブラフマーはすごい勢いで訂正した。


『見てられないわ…』

ミチルは呆れて、項垂れた。


「ブラフマー様、俺にもお願いがあるのですが。」

侑はテーブルにギルドカードを出した。


「ティーターンから、聞いてますよ。

カスタマイズで、弄れば良いのですね。」

ブラフマーはギルドカードに表示されるステータスの数値をLv相応になる様に、侑の必要な時には本当のステータスが表示される様に弄った。


「隠蔽は使わないのですね?」

侑はブラフマーがカスタマイズだけでカードを弄ったのが気になった。


「隠蔽は、概念が違うのです。

今回はカスタマイズでLvは本当の数値を表示、ステータスだけを本来のステータスに近い数値に改ざんしたものを表示する様にしました。

隠蔽だと、Lvが上がる度に毎回数値を改ざんし直さなければなりません。」

ブラフマーはシーンに合わせたスキルの使い方を覚えた方が良いと助言した。


「スキルは万能ではないのです。

足り無い部分を他のスキルで埋めるのが、普通です。

その普通を使い熟し、理解が深まるとスキル合成や上級スキルへの道が拓けるのです。」

ブラフマーは侑に得意分野でしょ?と笑った。


「色々ありがとうございました。」

侑はミチルを肩に乗せ、別れの挨拶をした。


「困った事があったら、何時でもいらっしゃい。

あなたは私の息子『…彼氏…』みたいなものですから。」

ブラフマーは心の中で、息子を彼氏と言い換えていた。


「侑、早く帰ろ。」

ミチルはブラフマーは危ないと本能で悟った。

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