第四章 1話
「で、どうするか?」
侑はサラとドラゴを書斎に呼び、行く順番を相談していた。
「途中からエリカが行きたいって言い出した時の事を考えると、最初に世界樹の新芽を採ってきたほうが良さそうだな。」
ドラゴはアイツなら言い出しそうだと侑の提案に笑った。
「薔薇は最後にしてくれるか?
もしかしたら、俺はそのまま火の国に戻るかもしれないからな。」
ドラゴは侑の提案に被せる様に話を紡いだ。
「じゃ、世界樹の新芽、浄命水、青い氷の薔薇の順ね。
エリカが行きたいって言い出したとして、最後が火山で大丈夫かしら?」
サラは火傷の事が気になる。
「火山も砂漠も暑さは変わらないさ。
それに暑さ対策はちょっと考えてあるし。」
侑はエルフの国さえ終われば、後は大した問題では無いと言い切った。
「明日は必要な物を準備して、エルフの国には明後日出発しよう。」
侑の一言で今夜は解散となった。
ベッドに横たわった侑は目を閉じた。
決して罪の意識が消えた訳では無い…
一人になり思考に虚空の空間が出来ると人を殺してしまった罪悪感が満たしていく。
罪悪感は思考を侵食し身体は動かなくなる。
同じ状況に遭遇した時に自分は同じ事をするのか、それとも動けずに状況を受け入れてしまうのか…
その時、女の人の声が聴こえた。
「侑、ちょっと来てください。」
声の主はブラフマーだった。
侑は重い身体を起こし、礼拝室に向かった。
ブラフマーの部屋をイメージして礼拝室のドアを開けた。
「侑、いらっしゃい。」
ブラフマーは侑を手招きした。
淡いピンクがかった空間にはテーブルとイス、テーブルの上には相変わらず侑の創った花瓶と薔薇が飾ってあった。
ブラフマーは侑が座ると魔法陣からティーセットを出し、侑の前に紅茶の入ったカップを置いた。
「来てもらったのは私のせいで侑に迷惑をかけてしまった謝罪とティーターンが貴方に会いたがって居るからなの。」
ブラフマーは俯きながら侑に謝った。
「私が貴方をエリカのもとに向かわせなければ、貴方を苦しめる事はなかったでしょう…
先を読め切れなかった私の落ち度です。
本当に申し訳ありませんでした。」
ブラフマーは侑と目を合わせ、謝罪の言葉を口にすると頭を下げた。
「ブラフマー様、どうか顔を上げてください。
エリカのもとに向かわせてもらって、俺は感謝しています。」
侑はブラフマーを見つめた、そして言葉を被せる様に…
「人を殺めてしまった事に関しては、遅かれ早かれ経験する事でした。
それがたまたまエリカが居るタイミングだっただけで殺めてしまった事とエリカは全く関係有りません。
それに、ブラフマー様には何不自由無く素晴らしい環境で毎日楽しく過ごさせて頂いている事に感謝以外無いですよ。」
侑はブラフマーに対する感謝の気持ちを強調する様に話した。
「そう言ってもらえると気持ちが少し軽くなります。
侑、ありがとう。
私が万能薬を出しても良いのだけれど、侑は受け取ってくれないでしょう?
それに私が作るとこの世界の為にもならないから手助けをさせて。
これから侑の行く国を治める神様に会わせるから加護を貰いましょう。
そうすれば、この旅が少しは楽になると思うの。」
ブラフマーは申し訳なさそうな顔で侑を見ながら、万能薬はこの世界の人が作らないと一回限りになってしまい多くの人を救えないと説明した。
「ブラフマー様が思っている通り、万能薬を出してくださっても俺は受け取りませんよ。
万能薬の材料を集める旅は俺の罪に対する罰ですから。」
「その意識の事なんだけど…
侑は地球で人を傷付けたり殺してはいけませんと教育されて育ってきました。
それはとても清らかな考えで素晴らしい事なんだけど、この世界では当てはまらないの。
この世界でも人を傷付けたり殺したりする事は良くない事よ?
でも、それは何の罪も無い人や自分に危害を加えない人達を殺すって事なの。」
ブラフマーはひと息つくと話を続けた。
「侑の世界ではゴキブリや蚊は見つけたら大概の人は殺したでしょう?
それは自分に危害を加える外敵からの防衛本能で、其処には人は含まれなかった。
でも、この世界の理は人も含むの。
だから、侑は裁かれる事は無かったでしょう?
侑は地球とこの世界の理の違いに順応出来ず苦悩の日々を送ってしまった。
これも多分、私のせいですね…
本当にごめんなさい。」
ブラフマーは侑を大事に思うあまりこの世界の綺麗な部分しか見えない様な環境にしてしまった事を謝った。
すいません、この先はアルファポリスでお楽しみ下さい。
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