第41話 狂宴-1
「あっれ~~~~?源樹死んじゃったのぉ?なっさけなぁ~い」
洞窟の入口には少し気怠そうに、そして何が可笑しいのか軽薄な笑みを浮かべた大河内廉也が立って居た。
「れ、廉也!お前今まで何処に!」
「うるっさいなぁ~。何処だって良いだろう~」
がなり立てる様に大河内廉也に一人の少年が詰め寄っていく。
少年は先程下半身を串刺しにされた少年とよく似ていた。
ああ、確か第3世代にも自分達のような兄弟が居たな。
串刺しにされた方の少年は既に結香の回復魔法によって一命を取り留めている。
だが流れ出た血が多すぎたのと痛みとで気を失い、未だ意識は回復していない。
「なんて言い草だ!お前がロストしたって言って皆心配して、見て見ろよ源樹は死んじまったし大はあの状態だ」
「はぁ?頼んでねぇーし、つーかお前邪魔」
胸ぐらを掴む勢いで近づいていた少年を大河内廉也は片手で吹き飛ばした。
D班唯一の女性、確か東海林さん。
吹き飛ばされた少年はその東海林さんの隣まで飛んでいった。
「え?」
声を上げたのは誰だったか。
次の瞬間大河内廉也は東海林さんの目の前にまで移動していた。
「香織~、お前何度もやらせろって言ってのにやらせねえからだぞぉ~?」
そう言った大河内廉也の腕は東海林さんの胸に埋まっている。
そしてまるでリンゴでももぎ取るように彼女の臓器を引き抜き自身の顔の上に持ち上げ滴る血をごくごくと飲んでいた。
声も無く絶命した東海林さんは腕を引き抜かれたことにより支えを失い、まるで糸の切れた人形の様にその場に崩れ落ちた。
「いやぁ~~。お腹空いちゃって空いちゃって」
口の周りを真っ赤に染め上げた大河内廉也の足下にはどす黒い瘴気が渦巻いていた。
「しかし美味いねぇ~人間の血って……アハッ」
廉也は自分の指を美味そうに舐り、目を細める。
まるでその様はソムリエがワインの香りを楽しむかの様だ。
だがそれも其処までだった。
「……死ね」
瑛十君が廉也の背後に現れその刀で首を切り落とした。
瑛十が使う刀――――菊一文字は、超音波振動メスと言われるハーモニスクカルペルの技術を応用した近代的兵器で切れぬ物は無いと謳われる程の威力を誇る。
そしてシノビのジョブを持つ瑛十君だから出来る一撃必殺のバックスタブ。
それが決まった。
決まったのに――――
私は今何を見ているのだろう?
私の目が正しければ、首の無い廉也の身体が繰り出した蹴りを瑛十君が腹部に喰らいその身体をくの字に折りながら吹き飛ばされている。
よほど強力な蹴りだったのか、はたまた予想外の攻撃に隙を突かれたからなのか草むらに横たわっている瑛十君はぴくりとも動かない。
「痛たたた……。全く酷いな。いきなり首を切り落とすなんて、ねぇ?パイセン?聞いてる??」
頭部だけで喋る廉也。
それを背後から大事そうに抱き上げるの首の無い廉也の身体だ。
一体何がどうなっているの?
私は何を見ているの?
頭の無い身体が頭部を持ち上げ元在った場所に戻す。
すると切断面から黒いナニカが蠢き切断されていた両者を繋ぎ止め、元のカタチに戻った。
「ああ、痛かった。ちょっと血が抜けちゃったから補給しなきゃ」
そう言うと明らかに血走った瞳を廉也は此方に向けてきた。
ぞくりと寒気が身体を襲う。
見つめられただけで吐き気を催す。
まるでも胃か腸でも直接握られてるのでは無いだろうかと思う程の不快感に襲われる。
「そんなに怖がらなくてもいいんだよ」
廉也はそう言うと倒れていた東海林さんのコアに手を掛けるとそれを無理矢理引き抜いた。
ブチブチブチブチ――――
不快な音が森の中に響き渡る。
コアはBHならば誰もが持っている。
BHになるときにコアとBH自身が融着するのだから。
引き抜かれたコアの背には管のような物が付いておりその管が生きているかのように蠢く。
コアという無機物から出た管が生き物の様に蠢くその様が酷く人間が元来持つ生理的な嫌悪感を刺激する。
そして廉也はその手に持つコアを自らの身体に押し当てた。
「おおぉお、おおぉおおっ――――クルクルクルクル来るぅぅううう!!」
廉也の足下を纏っていた瘴気が大きくうねる。
そしてそれは先程までの瘴気より一回り大きく、そして更に暗く変化していく。
廉也自体は大きく仰け反り天を仰いでいる。
この隙に逃げるべきだ。
私の本能の部分がそう叫ぶ。
だが、この場には他の人も居る。
「何なのよぉ~何なのよぉ~」
「大丈夫、大丈夫よ、紬」
悲鳴の様な鳴き声の様な声が聞こえてくる。
見ればC班の本田紬が錯乱しかけている。
それを飯田結香が抱きしめ宥めている。
その後ろで後藤長官が片膝を付き何かごそごそと動いている。
彼女らを置いて逃げるのは何とも後味が悪い。
それに瑛十君の安否も確かめたい。
そう思い私は弟の瑛十君の元へと身を潜めながら移動していく。
「良いキモチ……だぁ~……ふしゅるるるる~~~~~」
廉也はまるで違法薬物でもキマッタかの様な光悦とした表情している。
胸にはコアが2つ輝きを放っている。
「そういや源樹―――――おまぇ死んでたなぁあああ」
嬉しそうに顔を歪めると廉也は絶命した清水源樹の遺体に近づくとまたもやコアを引き抜いた。
ブチブチブチィ―――――
そして何の躊躇も無くそのコアを自分の身体に押し当てた。
「ぎひひいいいいぃい……アアアアア、くくくぅうるぅううう」
バン、バン、バン――――
突然のマズルフラッシュが三度の炸裂音と共に森の中に響く。
標的とされた廉也の頭は吹き飛び胸に大きな穴を開け左腕は肩口から先は無くなっている。
硝煙の香りのする方にはS&W29改リボルバーを構える後藤長官がいた。
「全員退避よ!動ける者は即刻逃げなさい!」
ふらふらと揺らめく廉也の身体。
吹き飛んだ箇所から黒い蔦のような物が一斉に生える。
そして蔦同士が絡まると欠損していた部分が元の形に戻っていく。
その様子はタチの悪いホラー映画みたいだ。
バン、バン、バン――――
再度乾いた音が響く。
後藤長官の持つS&W29改リボルバーは44マグナムミスリル弾を使用出来る特別製のはずだ。
長官自身は戦う力は皆無に等しい。
しかしこうして前線に出る事も多い彼女は自分の身を守るための武器が欲しいと私と久樂博士に相談を持ち掛けてきた事があった。
そしてコスト度外視で出来た武器がS&W29改リボルバーだ。
武器自体はそう大した物では無い。
問題は希少金属であるミスリルを使った弾丸、44マグナムミスリル弾だ。
MEには必ず含まれる高濃度Loon、それと相反する作用を起こすプログラムを付与された弾丸。
中位クラスのMEでも一発でその存在事吹き飛ぶ。
但し製作費用1発数百万という高コスト武器だ。
それを3発叩き込まれ再生する廉也――――いやアレは廉也の形をした上位クラスのME。
そして再び三連の銃弾を喰らった廉也は今度は頭とその両脚を吹き飛ばされた。
「夕紙さん、弾―――」
「は、はひぃ」
ガチャリとS&W29リボルバー改のシリンダーをスイングすると空の薬莢を抜く。
すぐさま夕紙サポーターに渡された銃弾をシリンダーに込めていく。
スピードローダーまでは用意していなかったのか一発ずつガチャガチャと音を鳴らしながら弾を込める後藤長官の様子はその不慣れさをそれだけで表明しているような物だった。
私はこの隙に瑛十君の元へと一気に駆け寄り、朦朧としている瑛十君に支給されていたポーションを飲ませる。
そして両脇に手を差し込むと一気に引き摺ってアレとの距離を取る。
「痛いじゃないかぁ~――――――ババァ!!!!」
どこから声を出しているのか不明だが顔すら無い廉也が腕を長官の方に伸ばすと黒い針が一本飛んで行き後藤長官の肩に突き刺さる。
その衝撃で弾き飛ばされた長官は短い悲鳴と上げるとその手に持っていたS&W29リボルバー改を落としてしまう。
ギュルギュルギュル―――
その隙に高速で廉也から生えている蔦が蠢き廉也は元通りの姿になる。
しかし元通りになったのはカタチだけであり、その中身はもう既に別物だ。
眼は爛々と赤く輝きだらりと垂らしている舌からは涎が垂れ落ちている。
その様子は正に醜悪なゴブリンと瓜二つだ。
じゅるり―――
舌舐めずりを廉也がする。
片手を胸の高さに掲げると手の平から黒い管が一斉に飛び出す。
高速で飛来する黒い管を皆は避けることも敵わず全員が拘束されてしまう。
私たち姉弟を除いて。
ちらりと赤い瞳が此方を見た気がしたが取るに足らないと判断したのか放置された。
「ふぅう~……どれにしようかな?神様の言・う・と・お・り」
廉也は拘束されている女性達を順に指刺していく。
その指は最後に畠中未来へと止まる。
拘束されている未来は嫌な予感がしたのだろう。
無我夢中に身体を捩りその場から逃げ出そうとするのだが一向に逃げ出せる気配すらしない。
口には猿轡の様に黒い管が巻き付いているので声すらもまともに出せないでいる。
「光栄に思えよ~」
そう言う廉也が未来の頭を片手で持ち上げ乱暴に未来を地面に転がす。
そうしてうつ伏せに寝転んだ未来の背後にゆっくり回るとその腰を掴み一気にズボンを引き摺り降ろした。
まさか……。
「俺ってさー、童貞だったのよぉ~だからその筆卸、させてやるからなぁ~」
体中吹き飛ばされていた廉也はほぼ全裸に近い。
その股間には人の物ならざる黒い管がそそり立っている。
「ふぎぃぃいいい」
「ジタバタすんなよぉ~」
廉也は無理矢理力で未来を押さえつけその臀部にそそり立った管を近づけていく。
「ん?入んないな?……どれ、んんん、うんぉぉぉお、入った入った祝脱童貞てかぁ~?」
「ふぐぅぅううう……ぁぁああああ」
パンパンパンパン
肉がぶつかり合う音が森の中に響く。
狂っている。
何もかもが―――。
「おおっおおっ―――――」
ピシャ―――。
何かが弾ける音がしたと思ったら未来の頭部が廉也により潰されていた。
いとも簡単に。
水風船でも割るように。
「なにコレ――――」
何とも言えない恐怖に私は捉えられ逃げ出すことも忘れていた。
最も脚が竦んでしまった私に今更此処から逃げれるとは思えないが。
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