第52話 閑話 勇気達の休息(後編)
何度目かのトライで少しコツが掴めてきた。
やっぱり幾らBHと言っても海の中では動きがかなり制限される。
それでも魚と同じ位の速度では泳げるみたいだ。
それにしても海とかかなり久しぶりだ。
たしか僕が小さい頃、まだ父さんや母さんが居た頃海に来た事があったな。
あの時は僕が溺れて父さんは遠泳していて近くに浮き輪で浮いていた姉さんが助けてくれたんだっけな。
アレがなかったらもしかしたら溺死とかもあったのかも知れないね。
ゴキブリと言い海と言い僕幼少期に命の危機に遭いすぎじゃ無い?
そろそろ息が切れそうな僕は海の上へと呼吸しに戻る。
僕の口から漏れる空気が細かな泡となって上へ上へと登っていく。
ゆらゆらと揺蕩う海に太陽の光が差し込みその光が、泡をまるで宝石の様に変えていく。
綺麗だな。
その景色に見惚れてしまいそうになる。
ダイビングする人の気持ち少し分かったかも知れない。
こんな身近に神秘はあるのだな。
「ぶっはぁ~」
空っぽの肺に新鮮な空気を取り込む。
少し立ち泳ぎしながら休憩する。
僕の腰には海草で括りつけた魚が既に7匹程ぶら下がっている。
袋とか貰って無かったので即席で造ったのだ。
取り敢えず10匹確保したら帰ろう。
そんな事をぼんやり考えていたら、少し遠くの砂浜に姉さんと樋口さんがBBQの用意をしているのが見えた。
そしてその手前にはキャッキャウフフよろしく三人の水着の女性が波打ち際で遊んでいる。
あれは3課の娘達なのかな?
本音を言えば、すこし近くで見たいなぁ~なんて……。
こういう時に光学ズーム機能が僕の眼にあれば良いのになんて思ってしまう。
取り敢えず帰る地点は分かった。
とっと後3匹取ってあのパラダイスに帰るのだ!
僕は気合いを入れてもう一潜りするのだった。
□■□■□■□■□■
「あははは―――」
「それ!」
「紬下手くそ~取れないよ~~」
私たちは今ビーチバレーをしている。
何故か急に樋口さんが「がぉぉおおおお」とか言い出して遊ばないと喰っちまうぞぉ~なんて言うもんだから皆で砂浜まで来て遊んでいるのだった。
あんな事があった後だからもう少し落ち込むのかと思ったけど紬曰く「犬にでも噛まれたと思って忘れるわ」だそうだ。
それにどうやら二人とも殿方と、ま、まぐわのが初めてでは無かったらしいのでそれも在るのかもしれない。
彼女らが言うには、死んだと思ったのが生き返ったのだから楽しまないと損らしい。
二人とも強いな。
私なんか未だに宗一様と手すら繋げない。
宗一様は私の様な何も知らない娘はお嫌いなのでしょうか?
足下に転がってきたビーチボールを取り上げる。
「どうしたの?元気ないよ結香!」
「えっ?そんな事ないよ元気いっぱい」
私は両手に力こぶを作る。
「何それ~筋肉は元気と関係無いよ!」
「そんなんじゃ盗られたちゃうよ愛しのベビーフェイス様ぁ」
「ちょ、ちょっと紬ぃ~」
「結構狙ってる人多いって聞くわよ~総務の人とか」
「あ~知ってるOPの人でしょ?浅日さん奥手で有名なんだけど……………でも此処だけの話し、地方地方に現地妻が居るって噂聞いたことあるよ~」
げ、現地妻!!!!
ふっと私は彼女の事が頭を過ぎった。
少し先で由奈さんと仲良く釣りをしている彼女。
ツルギ地区のサポーター夕紙素子さん。
ツルギ地区は宗一様専属と言っても良い特区。
確かにあの二人何時も気兼ねなく話してるように見える。
それに引き替え今日だって宗一様は何処か私には余所余所しい。
ま、まさか!!
現地妻所か既に本妻!!!
私はあまりの衝撃に膝から崩れ落ちてしまった。
「あらあら、未来が変な話しするから結香がまたトリップしちゃってるよぉ~?」
「ああ、もう。う・わ・さ!あくまで根も葉もない噂話だから!ね?現実に帰ってきて?」
「……うわさ?」
「そうよ噂話だから、ね?大丈夫よ?きっと結香なら行けるから!」
そう、なの?
「ほ~ら、噂を信じちゃ行けないよって昔の人も言ってるから!ほら立って立って」
そうよね。
宗一様は今付き合ってる女性は居ないとの情報でした物ね。
「私頑張る」
「「その意気よ結香!」」
「うん」
私は誓うのだった。
二人の友情に報いるためにも必ず宗一様と添い遂げると!
「ねぇねぇおねぇさん達~?楽しそうだねぇ~?これおねーさん達が使ってったビーチボールじゃ無い?」
そう言って声を掛けて来たのは如何にもサーファーですって言っている様な風体の男性二人組でした。
「うひょ~!超可愛いじゃんゲキマブーーー」
「良いね武その表現!超バブリーじゃね?」
何が楽しいのか二人の男性は私たちの前で大はしゃぎしています。
知性のかけらも感じられないその様子に私は辟易としてしまいます。
「取り敢えず俺等とビーチバレーしようよ!」
「良いね武!それ最高!!勿論おねぇさん達が負けたら俺の車の中でびっちり朝まで罰ゲームね!」
「「ギャハハハハハ」」
馬鹿笑いする二人の前に堂々と紬が立ちはだかりました。
「ちょっと誰があんたらみたいなの相手にするって言ってんのよ?ちっとは鏡でも見てきたら?」
「ああぁ~?ねえちゃんあんま調子のってっと攫っちゃうよ~?」
男達は低い声を出し凄んで来ます。
「分かんないかなぁ~?あんたら観たいなドサンピンじゃ釣り合いが取れないって言ってんのよ」
紬は全く物怖じせず彼らに言い返しました。
そんな時でした。
彼らの後ろの海にサメの背びれのような見えたのは。
「アレ?ねぇアレって……?」
未来も気付いたようでそれを指刺します。
猛烈な勢いで近寄ってくるそれはどう見てもホオジロサメ!
「え?ちょっとちょっと!!」
ホオジロザメがこんな浅瀬になぜ!
そしてホオジロザメは大きな音を立てて此方に飛び上がってきたのでした。
その音に驚いて二人の男が同時に振り向きます。
ざっぱぁぁあああああん―――
「「「きゃぁああああああ―――」」」
「「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいい――――――――――――」」
大きく口を開けたホオジロザメが男達に向かい飛び込んできます。
ですがどう言う事か男達に食らい付くその寸前でホオジロザメは空中で停止したのです。
その隙に男達ははんば腰を抜かし駆けながらその場から奔って立ち去りました。
「ん?あれ??皆どうしたの??」
なんとホオジロサメは何と宗一様だったのです。
□■□■□■□■□■
「ほんとめっちゃ吃驚したんだからね?」
「あ、すいません」
「もう私たちBHじゃ無いんですから!」
「ほんとスイマセン」
なぜか僕は今砂浜に正座していた。
なにが食べれるのかよく解って無い僕は丁度目の前に大きな魚が居たから最期の記念にと素手で仕留めて持って来ただけなのに。
どうやらその魚の運搬方法がダメだったらしく、今猛烈にダメだしされている。
可愛らしい女の子が二人僕が正座している為、水着姿で前屈みになりながら怒るのだ。
二人とも結構なボリュームで、出来ればずっと怒られていたい。
左側には畠中未来さん。
彼女はパレオを纏った少し落ち着いた感じの水着なんだけど、水着の色合いと柄がファンシーで落ち着きすぎずとてもよく似合っている。
ビキニタイプで露出も多く目のやり場に困る。
特にパレオから覗く白い太股がセクシーでつい眼が行ってしまう。
それを観ているのをばれないように眼を泳がせると反対側には本田紬さんが待ち受けているのだ。
彼女はピンクの花柄模様が可愛らしいオーソドックスなセパレートの水着を着ている。
ただ彼女の場合その凶悪なまでのおバスト様がその胸に鎮座されているのだ。
そんなおバスト様が前屈みなってその存在感を果てしなく強調する。
むしろ僕が前屈みになりそうだ。
「ほんとスイマセン」
これ以上は僕のマウンテンが怒髪天をついてしまいそうなので取り敢えず土下座でマウンテンを隠す。
しかも刺激的な彼女たちを観なくて済むとても残念で有難い特典付きの土下座となっている。
「じゃぁ罰として今度私とデートして下さいね」
「え?」
「ちょっとずるい紬!私も~」
「え?ちょっとちょっと二人ともどういう事よ~!!」
そう言って真っ白なワンピース型の水着を身に纏った飯田結香が僕に向かって駆けてくる。
僕は土下座の姿勢から頭だけを起こして彼女を観ている。
ええ、揺れているのですよ。
大きすぎず、小さすぎず素晴らしい理想のおバスト様が!!
コレを観ずには居られない!
「言ったでしょ?皆狙ってるって~」
「ねぇ~」
「ダメダメダメダメェ!!ダメなの~~~!!!!」
飯田結香の絶叫が夏の海に木霊する。
彼女のこんな大きな声を聞いたのは初めてかもしれない。
呆れた顔で僕等を観ている姉さんや樋口さんS.Z.Aの仲間達。
心地よい波の音が聞こえてくる。
僕の背中にはなぜか飯田さんが覆い被さって来ていてさっきから「ダメダメ」を連呼している。
僕の背中には柔らかい二つの双丘が押しつけられている訳で。
どうやら僕は今しばらく諸事情で土下座したままでいなければならないようだ。
風が潮の香りを運んでくれる。
こんな日がずっと続けば良いな。
皆の楽しげな笑い声が響き渡る。
戦士達の休息 完
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