第42話 狂宴-2
「おいおいおいおい一体こりゃぁ……」
「遅かったか」
洞窟を駆け抜け外に出た僕達を待ち受けていたのは地獄だった。
その様子に足を止め樋口さんが思わず声を上げる。
森に入った瞬間目にとまったのは男女1名ずつの遺体。
そしてその先には頭部のない女性の遺体。
何故女性と分かったかと言うと下半身が剥き出しになっていたからだ。
おびただしい量の血が流れ出たのだろう。
土と混じり黒い液体が水たまりをそこらかしこに作っている。
全ての遺体は制服を着ていることから間違いなくS.Z.AのBH。
「どうなってるんだこりゃぁ…」
周囲を見渡しながら僕達は進んでいく。
森の木々はそこら中で切り傷が入った物や倒木した物、何かに貫通された様な跡が残っていた。
貫通された跡はまるで其処の空間だけ抜き取られたかのように綺麗な穴が空いている。
「おい、お前こんなところで何やってる!?」
僕が貫通部を観察していると隊長の怒声が聞こえる。
その剣幕に僕も隊長の立って居る方に向かう。
其処にはほぼ全裸で腰を振っている男の背中があった。
「ああ~?何ってセッ○スだよぉ~見て分からない?」
そう言ってくるりと顔を此方に向けた男はにへらと嗤う。
その目は真っ赤で人の物では無い。
「おまぇえ!大河内廉也か!」
隊長が名を呼ぶことで男の正体が僕にも分かった。
しかし彼の顔に浮かぶ凶相からかそれともその異常に赤い瞳のせいか全く印象が違っていて正直別人にしか見えない。
「ちょっとまってよぉ~―――――ううぅっ……と」
ぶるりと背を振るわせると廉也はのっそりと立ち上がる。
その奥に股を開いて倒れている女性はS.Z.Aの制服をその身に纏っている。
口には猿ぐつわを噛まされ両腕は後ろ手に固定され胸部を黒い管が何重にも覆い拘束しその動きを阻害している。
少女は涙を流し虚ろな瞳で空を見つめている。
見たことがある顔だ。
確かC班の本田紬―――
こんな所で……コイツは仲間を拘束して……一体何をしていたんだ……。
ギリッ―――
湧出てくる嫌な想像に僕は奥歯を噛み締める。
「なぁ?もうちょっと待ってくれない?後ひーふぅーみー…バァバァは良いか。3人残ってるからさ」
大河内廉也は指折り何かを数える。
「何の話しをしてるんだお前?それにお前今此処で――――」
「ハイハイハイハイ。そう言うの良いから。後3人女が待ってるからちょっと合体してからにしてくれないかな?俺ってほら若いからさ、ヤリたい盛りなのよね。ほら」
大河内廉也が何かを引っ張り出すような仕草をすると黒い管に拘束された人間が草むらから放り投げられるように飛び出してくる。
夕紙さんと飯田結香、それと姉さんだ。
姉さんはどうやら肩に傷を負っているみたいだ。
「後もう一人向こうで腰抜かしてるからさ、せめてこの二人犯すまで待ってよ、パイセン。あ、俺ババァは好みじゃ無いから良かったらパイセンにあげちゃうよ、アハハハハ」
「貴様ぁああああ!!」
白銀の刃が煌めく。
大河内廉也の身体を隊長の剣が両断する。
頭から股間まで真っ二つにされた身体は切られた順に即座につなぎ合わされていく。
「何!!」
「痛いなぁ~何するんだよ」
ゆらりと幽鬼の様に揺らめく大河内廉也。
赤い糸が正中線に出来るがそれも次第に頭部から順番に消えていく。
そしてその胸には左右二個ずつ色違いのコアが輝いている。
「人間辞めたか!廉也!!」
叫ぶ隊長が楯を掲げ臨戦態勢に入る。
その隣に樋口さんも楯を構え滑り込む。
「おい、ソウ。コイツ大分キテるぞ」
「ええ」
返事をする僕はティルフィングを構え、隊長達とは違う方向に身体を動かしていく。
「何で抵抗しようとするかなぁ~?コイツらがどうなっても知らないよぉ~??」
そう言う廉也の言葉に連動するように森の中から黒い管に宙づりにされた男が二名出て来た。
確かD班の山之内瞬とC班の田中伸行だ。
「た、助けて、助けてぇえええ」
「ひぃいいいい」
「ほらほらほらほら?助けてって言ってるじょ~?俺に逆らったらコイツら死んじゃうよ~~パイセ~~~ン??」
本当のクズだなコイツ。
「いや、いやぁだぁ、ヒッグ……嫌だ死にたくないよぉ助けてよぉ~浅日さぁ~ん」
田中が僕の名前を呼ぶ。
嗚咽混じりその声に思わず歯がみする。
「アサヒーーー?アサヒ浅日?朝日?アサヒィぃいいいい!」
ぐるりと廉也の首が回り僕の方を向く。
その可動範囲は人のそれを優に超えてる。
赤く輝く目を見開き僕を睨付けて来る。
「ベビーーーーーフェィスゥウ!!お前のせいで、お前のせいで俺はおれはぁあああ!!」
急激に廉也のLoonが高まるのを感じる。
それと同時に廉也の足下から真っ黒な波動が吹き上がる。
その勢いは周囲の石を吹き上げ木々ですら音を立て枝葉すらへし折って行く。
「っく!何だコレは」
近くにいた隊長と樋口さんは楯でその身を瞬時に守った様だが、襲いかかってくる波動の衝撃に踏ん張る為其処から動けなくなっていた。
最も割を食ったのは廉也の足下にいた本田紬、彼女だろう。
その身を吹き飛ばされ大きな樹に叩付けられ力なく大地に横たえていた。
「ベビーフェイスぅぅうう、お前の代わりに俺は――――生きたまま虫に食われ、穴という穴から何千何万と言う虫が這いずり回り俺を、俺を、俺おぉぉおおお~~~~~~~ゴボッ――――」
廉也の喉の奥から突如黒い塊が顔を覗かせる。
足下から吹き出していた波動は急激な収まりを見せる。
廉也の口から出て来ているソレは、てらてらと舐めかましく光り輝いている。
そして廉也だった物の皮をべろりとめくりあげ身体の奥から這い出てきた。
黒いそれは突如大きく膨れあがるとあろう事か廉也を丸飲みにした。
あまりにも行きなりの事で誰もが反応出来ずにいた。
廉也が喰われたことにより皆を縛っていた拘束が解けた様で皆は這いずりながら一塊になっていく。
普通なら皆の所に掛けより肩を貸すなりした方が良いのだろうけど、僕はこの目の前の現象から目が離せないでいた。
それは隊長達も同じ様で高めていくLoonがその警戒の色を濃く表している。
黒い何かは次第に収束していきまるで子供が紙粘土でこねた様な不細工な人の形へとその身体を変えていく。
真っ黒な人型が出来たかと思うとその顔の部分がぱかっと割れるとその奥から大河内廉也が顔を覗かせた。
「ックッはぁああああ~……ああ、ごめんごめん。話しの途中だったね」
廉也の顔は先程までの様な凶相は携えておらず、むしろ微笑んでいるようにも見える。
ぎらぎらと輝き赤かった瞳は普通の色に落ち着いている。
不出来だった身体のラインはいつの間にか整い、黒い鎧のような物を身につけているように見える。
その声にも先程迄のような狂気は感じられず落ち着いているように見える。
「取り敢えず邪魔だからさ―――――――――――死んでよ」
そう廉也が言うとその背から触手の様な物が生える。
その触手が瞬時に伸びると僕に、隊長に、樋口さんに一斉に襲いかかる。
皆は一様に楯で触手を弾くとその体勢を立て直すべく大きく距離を取った。
「何が何だか分からないけど、兎に角コイツ倒すぞ」
「応」「はい」
隊長の呼びかけに僕と樋口さんが応える。
「「
聖騎士の二人がお決まりの防護結界であるセイントウォールを張る。
その隙に僕はティルフィングで目の前の廉也をアナライズにかける。
「――――鑑定結果――――特異級MutantEnemyと断定。このままでは全滅の危機すらあり得ます。至急トライエクスモードにシフトする事を推奨します」
ティルフィングの封印も解除したことによりその性能もだが、何故か言語能力も向上している。
どうでも良いが聞き取りやすくなって有難い。
「隊長!!コイツ特異級と断定されました!注意して下さい」
取り敢えず僕は端的に注意喚起をする。
「特異級って!!お前、注意してどうにかなるのかよ!」
樋口さんが特異級と言う僕の報告に悪態をつく。
僕にだって分からないよ。
特異級なんて初めて聞くんだから。
「知りませんよ!兎に角少しだけ時間を稼いで下さい。シフトします」
「「了解」」
しゅるりと廉也の触手が蠢く。
数多の触手が一斉に聖騎士の二人に襲いかかる。
「てめぇ!おっさんに触手攻撃は無いだろう!」
樋口さん、その意見には全くの同意だ。
「はっははは―――誰得ってか?そんなに言うならコイツで殺してやるよ」
凶悪な笑みを携えた廉也の手には真っ黒なコンバットナイフがその両手に握られている。
いつの間に手にしたのかも見え無かった。
これは本格的に不味いかもしれないな。
僕は自身のLoonの高まりと同調するかのように不安も高まって行くのを感じていた。
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