第43話 トライエクス
僕等S.Z.Aの最終決戦兵器――――それがトライエクス。
それは僕と言うBHを核に核融合弐式霊剣事ティルフィングと核融合参式兵装であるスヴェリンを一時的に同調する事で爆発的な力を得る事が出来る。
「トライエクス起動――――スヴェリンモードチェンジ―――――モードクロスへ移行」
「モードクロス移行します」
スヴェリンから男の声がすると、楯の形状だったスヴェリンが僕の手を離れ宙に浮く。
そして僕を包み込むようにその姿を変えていく。
赤い朱色の核が僕の蒼い核の下に位置するように配置される。
ブレストプレートの様な形状に変化したスヴェリン。
楯の形状の時にあった翼のような装飾は背に周りまさしく翼へと変形している。
「トライエクス起動―――――ティルフィングモードチェンジ―――――モードイクリプス移行」
「モードイクリプス移行します」
ティルフィングから女性の声が響く。
幅広の長剣ほどだったティルフィングがその中央から真っ二つに分かれる。
一対の片刃の剣がそこから生まれると片方の刀身は真っ赤に燃え盛りもう片方の刀身には霜が降り立つ。
両方の鍔の中央にある装飾部が大きく開くとその柄から何かが僕の身体に打ち込まれる。
急激にLoonが引っこ抜かれるような感覚に陥る。
だけどこれでいい。
イクリプスとは日本語に直せば『蝕』だ。
使う度に僕を蝕む。
その代りに絶大な恩恵と力を僕に与えてくれる。
「行けます!」
前で戦う聖騎士二人に声を掛ける。
正直二人とも防戦一方で手も足も出ていない。
彼らが防御特化型だからこそこの僅かな時間しのぎ切れたのだ。
他のBHならあの絶大な速度に翻弄され切り刻まれてしまった事だろう。
廉也が樋口さんに向け大きくコンバットナイフを振りかざしたその隙に僕は二人の間に身体を滑り込ませる。
黒いコンバットナイフをティルで受け止め廉也の腹を思いっきり横蹴りで吹っ飛ばす。
「助かる」
そう短く声に出すと樋口さん。
下がる二人を背に僕は逆に前へと出る。
吹き飛ばした廉也を追いかける。
体勢を立て直した廉也が大地を蹴り僕へと迫ってくる。
両手に持ったコンバットナイフで僕へと斬りかかってくる。
その尽くを僕はティルで打ち落とす。
弾かれた事に驚きもせず、何一つ躊躇すること無く廉也はその身を僕の懐へと潜り込ませてきた。
どうやらコイツは格闘戦に自身があるようだ。
けれど幾ら彼が格闘術が上手かろうが、才能があろうが、何だろうが僕は22年間勇者として戦ってきた。
その僕が格闘術を修めてないとでも思っているのだろうか?
「舐めるなよ!」
超接近からの放ってくる膝蹴りをティルの柄頭で横から潰し残った軸足を払い転んだ所に燃え盛るティルフィングの刀身を突き刺す。
「
「ぎゃっ」
短い悲鳴と共に大河内廉也の全身が燃え盛る。
ジタバタと身体を動かして火を消そうと試みている様だ。
「無駄だ」
僕は追撃を繰り出しその四肢を切り離していく。
だけれど瞬時に繋がり元へと戻っていく。
そして瞬時に延ばした触手を樹に巻き付けその身体を僕から遠ざけていく。
「化け物が!」
「お前が言うなよベビーフェイスッ!」
一瞬で離れた間合いはおよそ五歩程度の距離。
この中距離を潰すには剣技がいる。
そしてこの距離は触手をもつ廉也の方が有利な可能性が高い。
奇襲をかけれたのは大きかったがどうやら廉也が少し僕を警戒している。
そりゃそうか。
いきなり蹴り飛ばされ、燃やされて切りつけられたら誰だって警戒ぐらいはするか。
「どうした?ビビっちゃったのかな―――――坊や?」
だから挑発する。
「アハハハ―――――凄いや流石最強の勇者。フヒフヒ……こりゃ強い。俺様も流石に敵わないよ」
僕が目配せをすると聖騎士の二人が廉也の背後に回っていく。
逃走されないように、此処でケリを付ける為に退路を塞ぐ。
「だけどお前はゆるさなぃいいい!!」
廉也の4つのコアが怪しく輝いた。
黒い瘴気が廉也を包む。
禍々しいほどの瘴気はそれ自体が物質へと変化していく。
「嘘だろ……瘴気がマテリアル化するとは」
マテリアル化―――
超高濃度のLoonが変化したとき物体を持たないLoonはその特性を無視しこの世界に顕現することを言う。
そのマテリアル化した瘴気が廉也を包み一回りその身体を大きくする。
逆立つように廉也にまとわりついていた瘴気はまるで鬣の様に変化しその獣性の高さを表現しているようだ。
手には長い爪のような物まで生えている。
そしてその手を大きく振りかぶりながらこっちに突っ込んで来る。
僕はティルでその爪を防ぐ。
だけどマテリアル化した廉也の力は想像以上に跳ね上がり僕はそのまま力で押し切られ吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされた僕に追討ちをかけるように追い縋る廉也。
その間に今度は樋口さんが防護結界を貼り廉也の追撃を押しとどめる。
その隙に僕は自身を立て直す。
ダメージはほぼ無い。
樋口さんの張った防護結界を即座に破り廉也が僕に迫ってくる。
「
両手に持つティルフィングを使い一のタイミングで超高速の二発の突きを繰り出す技だ。
紙一重で避けよう物なら必ず喰らう必中の突きだ。
それを廉也は両手の爪で受け止める。
「ぐるぅぶらぁああああ」
弾かれたティルを引き戻し即座に横凪の剣閃を繰り出す。
「
相反する属性の氷と炎が僕の周囲に渦巻き獣の様に迫り来る廉也を牽制する。
どうやらコイツは手を抜いて戦える相手じゃなさそうだ。
僕の背にある二対の翼が大きく広がる。
そして大気中に漂うLoonを吸い取っていく。
これこそが僕だけにある能力『循環』だ。
勇者には他のBHと違い、それぞれ少し特異な能力が宿っている。
僕の能力は『循環』だ。
その名の通りLoonを吸い取り我が身に留め、そのLoonを使い高威力の技や魔術を連発する。
他の二人の勇者の能力は知らない。
そもそも他の二人は目覚めて居ない可能性すらあるらしい。
久樂博士の言い分だから今となっては信用できるかどうかも微妙だが。
そしてスヴェリンの翼を使う事によりその能力を拡張する。
ソレこそがトライエクスの正体である。
「このままじゃどうにも拉致があかない」
迫り来る廉也を片手で弾き、もう片方で袈裟切りを放つ。
しかしマテリアル化した瘴気の鎧は固く廉也には傷一つ追わせられない。
スヴェリンの翼が仄かに光ると周囲のLoonを吸い上げていく。
大気に漂うLoonも瘴気もお構いなしだ。
廉也は僕の異変に気付いたのか大きく力を溜めるように息を吸い込んだ。
周囲のLoonが僕を中心に渦巻く。
その全てを一対の刀に乗せる。
両手の爪で僕を切り裂こうと廉也が襲いかかってくる。
「行くぞ!!!!!!」
「おおおおおおおっっっぉお!」
爆発的にLoonが高まる。
そして燃え盛る超高温の一撃が廉也の身体を切り裂く。
それでも襲いかかる廉也に二の太刀で切り付ける。
「くらぇぇええええ!!!!!一・撃・剣・閃!!!!!!!―――――――――
超高温の攻撃からの絶対零度攻撃の弐連撃。
-279.13度という急激な温度低下に対象の全ての分子が停止する。
そして最後にもう一度刀を振るうことでその全てを破壊する業だ。
一瞬にして僕の周囲は氷点下を下回る。
木々は凍り大地は霜が降りる。
その大地の上に廉也だった物の破片が散らばっていた。
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