第36話 後藤愛子出立

 長机の上に置かれたタブレットの画面を夕紙素子は眺めていた。

 流れる映像は森の中を進むA班班とB班の視界映像をリンクした物だ。

 予想していたMEの大量氾濫は無く意外と言ってはアレだが順調に作戦は進んでいるように見えていた。

 途中上級亜種と言うランクのMEが出現したが聖騎士ペアによって無事討伐されている。

 その他で言えば、森の中には大量の気味の悪い繭が存在していた。

 けれど其処から産まれ落ちる事は無く、今のところぶら下がった無抵抗の状態で全てトドメをさせているのが現状だ。


「順調ね~」

「そうですね~」


 後藤長官が後ろから声を掛けてくる。

 少し適当に返事をした感は否めないがそれも順調すぎる作戦に毒気を抜かれてしまい、極度の緊張が緩み一気に弛緩した状態になってしまったせいである。

 長官も、そんな小さな事で目くじらを立てるような事も無く普通にスルーしてくれる。


「ねぇ、そう言えばバイタルチェックした?」

「あ、まだしてません」

「2時間おきにやっといてね」

「了解です」


 バイタルチェック。

 作戦開始前に配ってある腕時計型のウェラブル機器をBHが装着者する事でバイタルを随時オペレーターやサポーターが確認出来る様になっている。

 基本作戦開始時から2時間起きに確認する事がサポーターには義務づけられている。

 一応オペレーターもそういった確認事項はするが基本サポーターが作戦に付けばそう言った雑務はサポーターが行う事になっているのが通例である。

 9:30の作戦開始時に確認したので次ぎに確認するのは11:30になる。

 今は時計は11:22を示している。

 少し早いが夕紙素子は2つあるタブレットの片方を取りLIVE画面を終了させるとバイタルチェッカーのアプリを起動させる。


 BHの名前とその隣に体温、脈拍、血圧、意識の有無が表示される。


 1 アサヒソウイチ 36.2 84 127 GREEN

 2 ニシオカズヤ  36.0 72 131 GREEN

 3 ヒグチマモル  35.2 70 106 GREEN

 4 イシノユウナ  36.8 88 133 GREEN

 5 イシノエイト  35.8 72 122 GREEN


「A班はちょっと由奈の体温が高いのが気になるけど概ね良好ね」


 6 ホンマタスク  36.0 80 120 GREEN

 7 シロマユキ   36.2 82 125 GREEN

 8 ヤマガミセイヤ 35.9 68 110 GREEN

 9 モリタカオ   36.2 77 131 GREEN


「B班も何も無いわね」


 10イイダユカ   36.1 73 108 GREEN

 11ハタナカミライ 35.2 70 111 GREEN

 12ホンダツムグ  35.8 66 112 GREEN

 13タナカマサノブ 36.6 82 120 GREEN


「C班にはそりゃ何も無いわよね。一応医療班も兼ねてるし」


 それにC班は本陣の直ぐ其処の日陰で待機している。

 目が届く範囲だ。

 何かあれば直ぐに分かる。


「最後にD班っと……」


 14オオコウチレンヤ---- -- --- LOST

 15ヤマノウチダイ 36.3 72 110 GREEN

 16シミズゲンキ  36.0 80 123 GREEN

 17ヤマノウチシュン36.4 73 111 GREEN

 18ショウジカオリ 35.9 74  92 GREEN


「………え?」


 夕紙素子はオオコウチレンヤの名の横に写る棒線とLOSTの文字に釘付けになってしまった。


「ロロロロロ――――」

「どうしたの夕紙さん」

「ロストです!大河内廉也ロスト!!」

「え?何言ってるの。あの子は周辺警備……」


 そう周辺警備しているはずのD班から死亡ロストが出るなどあり得ない。

 この周辺にはビーコンを利用した索敵装置も置いてあり其処に今のところ全く反応は無い。

 D班がMEと交戦したという報告も無ければ発見したという報告すら無い。

 そのD班の廉也がなぜLOST表示なのだ。


「待って。もしかしたらグローブを取ったのかも知れない。廉也君のGPS調べて」

「了解です」


 BH本人達には余り知られていないがBHの持つほとんどの装備にはGPSが没入されている。

 これを特定することにより個人が何処に居るかリアルタイムで確認出来るのだ。

 衛星と連携する為上位権限が無ければ使用する事が出来ないのが欠点だが、それも今S.Z.Aの最上位権限が此処に居るのだ。

 ただのサポーターである夕紙素子でも使用権限を長官から譲渡されれば直ぐに使える。


 タブレットのGPS追尾アプリを起動する。

 上位権限によりパスワードスキップ。

 BH077の番号を入れるとオオコウチレンヤと表示されツルギ地区周辺の地図の中、36°46'00.6"N 138°32'59.6"Eの表示と共に赤いポイントが点滅する。

 其処は山崎山、山岳部の奥、森を越えた場所。

 所謂作戦目標ポイント付近に最終の反応がある事が分かる。

 時刻は11:02、物の20分程前だ。


 夕紙素子の頭に浮かぶのは単独行動の4文字。


 本陣を作成していた時から既に単独行動していたら…。

 そして一人で突入、何らかのMEと遭遇しロスト……。

 最悪の予想が頭を過ぎる。


「れ、廉也さん作戦目標ポイントに単独先行していたみたいです」

「何ですって!」


 後藤長官が歯を食いしばる。


「まだ死んだとは限らないわ。夕紙さんC班D班を大至急集めて」

「え、はい。ど、どうするんですか?」

「決まってるじゃ無い。現地に行くわよ!」

「ええぇぇぇえええええ」




 

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