第37話 動き出す暗雲

「どうやらこれが目標ポイントの入り口みたいだね」

「どう見てもそうだろうな」

「ああ、なんて言うんだこう言うの」


 僕等は今洞窟の入口とおぼしき場所に立って居た。

 洞窟の内部からはどろりとした濃い瘴気が漂ってきている。

 正直ここまで濃い瘴気を見たのは初めてかも知れない。


「ああ、禍々しい。そう言うんだな」


 樋口さんがそう呟いた。

 隊長と樋口さんは丁度この洞窟の入り口前でさっき合流した。

 ここに来るまで結構な戦闘があったみたいで二人は見て分かるほど疲弊していた。


「どう、します?」

「どう、とは?」


 僕が投げかけた問いかけに隊長がオウム返しに問いを僕に投げる。


「いえ、そろそろ作戦行動開始時刻から2時間、一度後方と合流し支援を受けるのも手かと僕は思うんですが」

「なんだソウ、心配してくれてんのか?」

「ははは、まぁズタボロだしな俺等。そら心配もされるわ」


 大笑いするのは隊長だ。

 だけど隊長の言うとおり彼ら聖騎士ペアは割とぼろぼろだ。


「見たことも無いゴブリンと樹の合いの子みたいなのに出会ってな、紫色した奴なんだがな。まぁパワーもスピードも超凄かったがオツムがアレだったのか戦い方が非常にシンプルでな」

「ああ、アレは助かったな。歴戦のMEとかだったら多分死んでたな俺等」

「はっははは、違いないな」


 どうやら強敵と出会い死にかけたらしいが、笑ってられるなら大丈夫か。


「まぁアレだ。見た目はズタボロだけど一応即時回復薬ポーション飲んでるから傷はねぇーよ」

「それなら行きますか?」

「ああ、あ、でもちょっと待て由奈と瑛十に連絡入れとく。あわよくば合流してから行こう」

「そうですね」


 確かに彼らがいると作戦に安定感が増す。

 彼ら姉弟はまだレベルは低いがその多能性は十分戦力として評価に値する。


「ザザッ―――――此方西尾、由奈、瑛十、聞こえるか?」


 A班用のチャンネルで隊長が呼びかける。


「――――――ザザザザ、ガピーーーーーー」

「ちっ、ジャミングされてやがる」

「このダダ漏れの瘴気のせいかもな」

「ああ、もう。メールだけ飛ばしとくか」

「だな」


 結局由奈達にはメールでここの座標と中に先行する事を伝えた。

 僕等は洞窟の中に入ることにし隊列は聖騎士の二人が前衛で僕が殿。

 全員前衛職なのだけど二人の気遣いからかなるべく戦闘を避けるように僕をポジショニングしてくれる。

 有難い。

 しかしここまで気遣われると僕はBHとしてどうなんだと少し考えてしまう。

 戦えないBH等電波の入らないスマホみたいなもんだ。

 文鎮程度の役にしかたたない。

 そろそろ引退かな。

 そんな事すら頭に過ぎってしまう。


「ぼーっとすんなよ。入るぞ」


 隊長に促され僕等は洞窟の内部に入っていく。

 奈々子と言う名の救助した女性の情報通り中はうっすらと明るい。

 彼女が言うには基本的にずっと一本道で所々に部屋のような広場がある。

 そして奥に行くと十字路があるのだが、その十字路の正面に行くと彼女が目覚めた行き止まりの場所がある。

 それ以外は彼女は行っていないので何があるか分からないとの事だった。

 途中もし亜子と言う女性が居たのなら助けて欲しいと懇願されたが彼女が目撃した時には既にゴブリンの苗床だったらしい。

 恐らく既に手遅れだろう。

 それでも遺体ぐらいはと思い通路を見て歩くが何処にもその様な痕跡は無い。

 それどころかME自体見かけない。

 一体此処はどうなっているんだ?

 奥に行くにつれて濃くなる瘴気と比例するように、僕の中に芽生えた焦燥感も増していく。

 気が付けば件の十字路まで僕等はたどり着いていた。



□■□■□■□■□■


「やっと見つけた」


 ああ、やっと見つけた。

 心の底から歓喜で打ち震えそうになる。

 

 それに出会えたのだ。

 こんなに嬉しいことは無い。

 精霊が顕現していると言うことは言い換えれば、地球自体が望んでいる証拠だ。

 ここまで進んでくれればこの世界が僕等の物になるのは間近だ。

 そして精霊を滅ぼすことで更に精霊を呼ぶ。

 そうする事で世界の接続は俄然加速する。

 事が成れば瞬く間に世界は改変される。

 そうなれば彼女の悲願が達成される。


「ねぇ?佑?どうしたの?」


 雪が僕をみて心配そうに話しかけてきてくれた。

 どうやら思わずが零れてしまい、不安にさせてしまったようだ。


「いえ、大丈夫ですよ。目標を無事見つけることが出来て少し興奮してしまいました」

「……コレに興奮?」

「これが恐らく目標のME増産装置だよ」


 僕が目の前の大樹、そこに埋め込まれてしまった精霊「ドライアド」、そしてそのドライアドと繋がる蔦、その先の繭、その全てがあった。


「これが?」

「ああ、多分ね。変異してしまってるから少し調べないと分からないけど恐らくそうだろう」

「変異?」

「うん。ドライアドはこんな精霊じゃないんだ。確かに樹木の精霊ではあるけれど、こんな風に樹に縛られるなんて存在じゃ無いんだ」

「元々?何言ってるの佑?佑はもしかして見たことあるのこの――――精霊を」


 少し喋りすぎてしまった。

 そう思い佑は取り繕う。

 彼女は簡単にこの男の言葉を信じる。

 だからこそ隣に置いておく価値がある。

 簡単だから。


「うん。ちょっと前にね聖女様に見せて頂いた文献に載っていたんだよ」

「ふ~ん。おねぇちゃんと仲良く何してたのよ?佑?」

「べ、別に雪が思うようなことは何も無いよ」

「怪し~い」

「それより僕は少しこの装置を調べるから、皆で周囲の警戒をしておいてくれないかな?」

「……いいけど、ちゃんと教えてよね、ほん「ああ、この作戦が終わったらね」」


 流石にちょっと強引だったかな。

 まあいいや。

 それよりもこの目の前の装置を調べよう。

 折角の精霊も眠ったままじゃ意味が無い。

 無理矢理にでも引き剥がし起こし悲鳴を挙げて貰わないと。

 お人好しの精霊が助けに来なければ意味が無い。


「暗闇より出賢者――――その知恵を貸し与えよ」


 僕の周囲に黒いLoonが渦巻く。


「盟約を」「盟約を」「盟約を」「盟約を」


 僕の足元に四体のリッチがその髑髏しゃれこうべを晒し出す。

 カタカタと頭蓋を鳴らしながら喋る声は生前のそれと変わらない。

 懐かしむと同時に、親指の皮を噛み切り自身の血を垂らしリッチに与える。


「成った」「成った」「成った」「成った」

「盟約は此処に成った。『ダルダリオルイス』が命ずる」


 リッチはいずれも地面へと戻っていく。

 その際に僕に力を貸し与えてくれる。


闇の四賢者マギプロシネス


 瞳を通じて僕の思考と賢者の知識が接続される。

 この魔法闇の四賢者マギプロシネスは、言うなれば脳内に無数の本棚が出来、それを即時検索するための暗黒魔法である。

 使徒足る者これぐらい出来なければ皆に呆れられてしまう。


 そうして僕はこの目の前の装置を陥落していく。

 その知恵と魔導の粋を使い。







 

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