第21話 S.O.Sエマージェンシー
室内に赤色灯の灯が明滅する。
「な、なに?」
さっきまで激高していた雪がいきなりのサイレンに右往左往している。
確かにちょっと吃驚したけどこういう時慌てても仕方ない。
それに、恐らく―――
「―――ジジッ―――ツルギ地区BH各員聞こえますか?此方S.Z.A本部OP室です」
ほらね。
大体の場合オペレターが状況を把握している。
腕時計型のウェラブル機器から通信が入る。
「聞こえてるよ。何があったの?」
「現在山崎山中腹でBH032、033ユーナ特派員とエイト特派員が未確認MEと交戦中です」
「場所と数は?」
「場所はリンクを送ります。数は随時増殖中です。現在212匹」
「了解。すぐ向かうよ。二人の誘導お願いね」
「了解致しました。エクスカリバーに誘導で宜しいですか?」
「いや、僕に誘導してくれれば良いよ」
「ですが―――「大丈夫」―――了解しました」
しぶしぶ。
そんな感じでオペレーターから了承された。
だけど避難場所のエクスカリバーにMEごと惹き付けるより僕に向けてくれた方が色々纏めることが出来て楽だ。
ヘルメットを被るとティルを手にし、そして装備品が入ったリュックを背負う。
「姉さん、ちょっと行ってくるよ」
「―――気を付けるのよ」
「うん」
僕はそう言って軽く手を上げて会議室を後にしようとする。
そんな僕の前に白間雪が立ちはだかる。
両手を腰に当て、足を肩幅より広く広げ顔には私不満ですと書いているかと見間違うぐらい不服な表情をしている。
「どいて、くれるかな?」
「―――なんでよ?」
「何が?」
この子は何が不満なのだろう?
僕の前に立ちはだかったこと事からきっと僕に不満があるのかも知れない。
「何でアナタは直ぐに出られるの?私が何回言っても出れなかったのに!私達には佑も居るのに!何でアナタはそんな直ぐに出て行けるの!?
食って掛かってきておきながら、ぐっと唇を噛み締める雪の様子はまるでだだっ子だ。
本当なら僕が説明しても良いんだけど今はそんな暇が無い。
「ごめん」
「ちょっと!」
僕は立ちはだかる雪をぐいっと押しのけて会議室を後にした。
言葉が足りないとか色々あるけどそんな事どうでも良い。
2課の仲間が窮地に陥っている。
それだけで僕には戦う理由がある。
エクスカリバーの内部を駆ける。
走りながらオペレーターに連絡する。
「オペレーター、聞こえる?」
「―――聞こえていますよ」
「設定解除お願い出来るかな?」
「了解です。
エレベーターホールで待つ時間の間僕は出来る事をしておく。
僕には他のBHと違って一つ大きな弱点がある。
それは準備に時間が掛かる、と言う事だ。
僕は長く戦い続けてきた。
そしてBHは戦えば戦うほど強くなる。
それはゲームで言うLVUPみたいな物で、倒したMEの高濃度Loonを取り込む事によって強くなっているらしい。
僕が他のBHと違うのは、ただ単純にMEを倒しすぎた。
久樂博士に倒しすぎたと言われるほどMEを刈った僕は他のBHと比べて勿論強くなった。
頭2つは飛び抜けたいると言っても過言ではないと思う。
ただ、その代償で僕の身体を今も高濃度Loonが蝕んでいる。
その高濃度Loonを中和する薬もTURUGI.Coの関連企業で開発されてはいるのだが、それでも僕がMEを倒す事を辞めない限り高濃度Loonによる浸食は止まらないだろうと言われている。
だから僕は普段、中和剤のLナチュライザーを飲み続け身体の中の溜ったLoonを抜いている。
そしてその効率を上げるために僕は普段封印されている。
その封印のを今回恐らく解かないといけないだろう。
その為の準備もしておかなければならない。
「――――――――――ジョブ設定、霊子力封印――――――――限定解除
モード『
「―――いきなりLV5、ですか…」
「うん。今回もしかしたら僕の全部使わないと行けないかも知れない」
「―――ですがそうなると」
「そうだね。もしかしたら今回限界が来るかも知れない。だけどそれでもやらないといけない。それ位今回のはヤバい。そんな気がするんだ…だから準備だけはお願いね」
「――――長官に許可は?」
「それも含めて、ね」
「もう、今度本部帰ってきたら奢って下さいよ」
「了解。じゃぁ業火炎って所の地獄極楽担々麺食べに行こう。超美味しいから」
「――――却下」
そんな事を話してたら1Fまで着いた。
エクスカリバーの1Fにはいつも通り案内のお姉さんが中央にいるし警備員も入口に立っている。
但し立って居るのがエクスカリバーの外部では無く内部になっている。
そしてガラス張りだった3階分はあろうエントランスホールの外壁は無骨な鉄に覆われている。
僕が出入り口まで歩いて行くといつもの警備員のおじさんが敬礼してくれる。
僕もそれに敬礼で帰すと、僕が出たら入口も防護壁で囲うように伝えておく。
なるべく弱点はない方がいい。
そして僕はエクスカリバーを後にする。
太陽は西に傾き落ちかけている。
200匹強の未確認ME―――
夜戦になる前に取り敢えずの片を付けた方が得策だな。
既に起動していたティルがMEの方向を教えてくれている。
その方角に僕は走り出す。
勿論そこに道は無い。
本日二度目の崖へのダイブ。
大丈夫と分っていてもこの落下時のなんとも言えない浮遊感は苦手だ。
大きな杉の木を足場にし、10メートル程先の杉の木目掛けて飛び移る。
それを何度も繰り返す。
ちょっとしたムササビ気分だ。
□■□■□■□■□■
「ちょっと!あの方、崖に飛び込んだわよ!」
双眼鏡で雪が外を見ている。
恐らく先輩を観ていたんだろう。
さっきから雪の発言にはもう気が気じゃ無い。
もともと雪はよく先輩に突っかかっていたけどそれは雪の性格だから仕方ないと思っていた。
だけど違う。
恐らく雪は朝日先輩がどういう存在かちゃんと知っていない。
所謂無知なのだ。
それが分ったのは「こっちには佑もいるのよ」って発言だ。
一応僕もジョブは勇者だ。
だけど僕と朝日先輩には隔絶するほどの差が存在している。
BH事
それはこの日本が所有するコア本体の数の最大数が108だからだ。
そしてコアと契約することで僕達はBHとなる。
契約することで僕達BHは様々な恩恵を受ける。
人外の力だったりジョブを持つ事で、そのジョブ特有の能力を使うことが出来様になる。
例えば魔法使いのジョブに付いた人はその日から魔法が使える。
使い方も知識もジョブ付いた瞬間から分るのだ。
一方野良でBHを名乗っている人達もいるが、彼らは実際少し違う。
彼らはコア持たず高濃度Loonの放射を浴びたり取り込む事で進化と言って良いのか分らないけど人から少しずれた存在だ。
今現在のBHの内訳だけれど、第一世代の今のBHは18名、第二世代のBHが32名、第3世代のBHが45名未契約のコアが10個あり計95名だ。
勘定的には残り3個のコアがあるはずなのだが1個のコアの契約者は行方不明。
そして残りの2個のコアは先輩が契約しているのだ。
普通一人一個のコアとしか契約出来ないのだが先輩は何故か三つのコアと契約している。
すなわち3つのジョブを持っている事と同じなんだ。
勿論受ける恩恵も3つ。
基本的な身体能力のUPなどの基礎の部分から3倍なのだ。
正直規格外なのだ。
浅日宗一はこの日本におけるBHのエースであり切り札的な存在なのだ。
僕みたいに偶々ジョブが勇者ってだけで並べるような存在ではない。
どうやらその辺を雪にちゃんと説明しなければいけない。
だから僕は窓辺で先輩を双眼鏡で追うのを諦めて、今や景色を楽しんでいる雪に声をかけた。
「雪、ちょっと大事な話があるんだ」
「―――え」
其処には何故かほんのり顔が赤い雪がいた。
「ちょっと此処ではなんだから違う部屋に行かないか?」
「え?え?ちょ?え?」
戸惑う雪の手を握り僕はすこし強引に雪を引っ張っていった。
勿論世界最強勇者BH001浅日宗一先輩の素晴らしさを分って貰うためだ。
一体どこから話そうか。
やっぱり柳沢ゴブリンハザードかな。
ぱたん。
会議室の中には扉を静かに見つめる4人が残っていた。
「なかなか大胆な人なんですね佑さんて」と夕紙女子。
「普段無口な人って急に動くよね」と後藤愛子長官。
「いや、たぶんアレ違うと思うんだ」と山神誠也。
「きっとすぐ帰ってくるよ」と森雄隆。
きゃっきゃうふふと話す4人の所に「まったく最低ですわ!」っと顔を真っ赤にし雪が部屋に戻ってきたのはものの五分後の話しだった。
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