第48話 決着-2

「お願い!」


 迫り来るフェニックスに立ち向かう宗一様。

 今私に出来る手は全て出し切った。

 癒やしの泉足り得る聖なる守護リジェネレイトと聖女が勇者のみに行える超高難度支援魔法聖戦ジ・ハード

 枯渇しかけていた魔力をルーンポーションで何とか回復し、ぎりぎりのタイミングで放った一手。

 お陰で崩れ落ちかけていた宗一様を奮い立たせることは出来た。

 そして再び宗一様が放った攻撃は見たことも無いほどの超超高威力の攻撃だった。

 極太レーザーの様な攻撃がフェニックスのその身全てを吹き飛ばさんと襲いかかります。

 私は思わず口にせずには居られませんでした。


『行けぇぇええ!!!!!!!!』


 その場に居た皆が叫びました。

 それは心の底からの叫びだったのです。

 行けと!

 勝ってと!


 そして今正に宗一様に迫る、そんな勢いだったフェニックスの禍々しい炎が吹き飛ばされて行ったのでした。

 だけれど私の目が確かなら―――――

 紫色の獄炎の下からは真紅に燃えるフェニックスが顔を覗かせている。

 このままでは宗一様が!

 もう宗一様の眼前には真紅のフェニックスが迫っている。


 そう思った所でもう私に出来る事は何も残っていませんでした。

 

 両手を胸の前で組み合わせ祈ること位しか。


 しかし私の祈りは届きませんでした。


 空に浮かぶ宗一様の身体を真紅の不死鳥フェニックスが突き抜けていったのです。

 此処に居るだけでも熱波が襲ってくる様な化け物の炎に、宗一様はその身を焼かれてしまったのです。

 

「ああ、あああああぁぁああ―――――」


 私は文字通り膝から崩れ落ちてしまいました。

 絶望と共に止め処なく溢れてくる涙は私の視界を奪っていきました。

 

 クェェエエ――――――


 誇らしげに鳴くフェニックスの声が響き私は顔を上げました。

 憎き怨敵を忘れない為にも。



□■□■□■□■□■



 目を覚ますと、僕の目の前には真紅に燃え盛る鳳凰が居た。

 

「――――これは?夢?」


 よく分からない状況に自分の身体を見やる。

 何故か生まれたままの姿で綺麗な身体の僕が宙に浮いているみたいだ。

 暖かな赤い光りに包まれている。


『人の子よ――――』


 男性の様な力強く、女性の様な優しいそんな声がした。

 少し下には佑と飯田結香、それに姉さん達が此方を見上げている。

 そうなってくるとこの声の出所は―――


「まさかフェニックス?」

『如何にも―――』


 雄大に羽ばたく目の前のフェニックス。

 その表情は全く分からない。

 揺らめく炎がちりちりと舞い上がり消え、そしてまたフェニックスから沸き上がる。


『――――済まない』


 お互い黙って見つめ合っていると急にフェニックスが謝ってきた。


「済まないって、一体何が?」

『急に襲いかかってしまった事に―――』


 確かにこのフェニックスはいきなり出て来て襲いかかってきた。

 そもそも出て来たこと自体訳が分からない。

 そんな生物に急に襲いかかられたからといって別にクレームを言ったりしない。 そう言うのは敵性生物だと思うのがBHの常だ。

 大体のMEは問答無用で襲いかかってくるからね。


『世界の守護者足る大精霊が、人の子に問答無用に襲いかかるなど在っては成らない事なのだ――――』

「へぇ~」


 少しフェニックスが頭を垂れたように見えた。

 謝っている体勢なのだろうか?

 それにしても大精霊とは世界の守護者なのか。

 初めて聞いたよ。

 そも精霊自体観たこと無いからね僕。

 もしかしたらこのフェニックスから色んな事が聞けるかも知れないと少しほくそ笑む。


『うむ。我にもその、事情があってだな――――』


 そんな事を考えていたら何故かフェニックスが慌てた様に話し出す。

 僕はそれに「ほう」と短く答えた。


『そのしょ、召喚された時に不覚にも汚染された賢者の石の欠片を喰らってしまってな、前後不覚に陥ってしまってだな……け、決して腹が減っておって兎にも角にも飛びついた訳ではないからな。この破壊と創造を司る原初の火と呼ばれる不死鳥が誓って言うのだ――――』


 相変わらず雄大なその身をゆったりと羽ばたかせながら何やらこのフェニックスはよく分からない弁明を始めだした。

 

「なるほど。よく分かったよ」

『―――お、おお有り難う人の子よ――――』

「要するに召喚される際、餌として蒔かれた賢者の石の欠片に飛びついたら汚染されてて怒りに身を任せて『』僕達に襲いかかりその余波で『』巻き込み殺したと言うわけだ」

『――うっ、いや――――』


 やっぱりだ。

 このフェニックス殆ど覚えていないんだな。

 さっきまでの事を。

 それを証拠に僕がかまを掛けたにも拘わらず何一つ否定しない。


「何か違うの?」


 もう一押し。

 僕はなるべく平坦にフェニックスに声を掛ける。


『ぐぬぬぬ―――――』

「決してフェニックスが悪い訳じゃ無いんだよね。偶々混ざっていた賢者の石の欠片が汚染されていたのが悪いんだよ――――そう、偶々、ね?」

『うぅむ―――そ、そうであろう我に落ち度は無かっ―――』

「そうかな?」


 此処だ。

 僕は畳み掛ける様にフェニックスに問いかける。


「僕の仲間は最初の炎で消し炭になっているんだけど?」


 コレは嘘だ。

 誰一人消し炭になど成っていない。

 だがあの時廉也に喰われてしまった隊長はその身の一欠片すら残っていないのだ。

 このフェニックスが伝承通りならば――――

 このフェニックス自身が語った様に、破壊と創造を司るのならば――――


「出来るんだよね?――――――――――――僕にしたみたいに」

『気、気付いておったのか―――』

「何となくだよ」


 そう何となく、僕は感じていたんだ。

 自分の身体の変化を。

 あの瞬間全て出し切って抜け殻になった。

 薄れ行く意識の中で、そんな風に感じていた。

 なのにほんの数秒後、若しくは数十秒後程度に目を覚ませば生まれ変わったように身体が軽い。

 傷一つないのだ。

 最低でも全回復された。

 若しくは一度殺されて蘇生した。

 そう考えるのが妥当だろう。


 そして何より僕の胸に装着されていたコアが無くなっているのだ。


『――――出来なくは無い』


 フェニックスはそう短く答えた。


『一度だけだぞ人の子よ―――――』

「頼むよ」


 天まで昇る勢いでフェニックスは空を駆け上がる。

 美しく燃え盛るその身は正に原初の炎。


『―――――ならば、清も濁も飲み込んでやろう』


 遙か上空で宙返りをするとフェニックスが地に向かい突き刺さる勢いで飛来する。


「何だ、知ってのか」


 僕の呟きが聞こえたのだろうか。

 揺らめく炎で創られた不死鳥の顔が僅かに笑った様に見えた。

 

原初の炎プロメーテスフレイム――――』


 地面すれすれをフェニックスが飛んでいく。

 ルビーの様に赤く輝く炎が全てを飲み込み――――

 そして全てを再生していく。


 なぎ倒された木々も――――

 踏みつけ手折られた花々も――――

 そして傷つき、蹂躙されその命を散らしたBraveHeart達も――――


 輝く光の雨と赤い炎が此処にある命全てを祝福している。


「すげぇー」


 神々の座する世界に来たような、そんな錯覚に陥る。

 

『人の子よ――――』


 最初に語りかけ来た時の様に雄大にフェニックスが語りかけて来た。


「有り難う、フェニックス」


 何も語らない彼に僕はそう礼を伝えた。

 僕の下では死んだはずの隊長が、頭を潰された畠中未来が、コアを毟り取られ殺された山之内瞬と田中伸行が、蘇っている。

 彼らはまだ目覚めて居なようだが此処からでも分かる様、その身は生気に包まれている。

 ただ気にかかる点は大河内廉也――――

 彼も蘇ってしまった事だ。


『コレで帳消しだぞ――――』

 

 そう告げるフェニックスに僕はもう一度礼を言う。


「有り難う」

 

 それにしても、大きく羽ばたくその身体は先程より少し小さくなったようだ。

 蘇生という力を使った影響なのだろうか? 


『あ、言い忘れておったが、その―――――』


 何故か言いにくそうにフェニックスが語りかけてくる。


「ん?」


 羽ばたきながら此方に向かってくるフェニックス。


『―――――お主の持っておった賢者の石の欠片の影響で……』


 そしてどんどん僕の方へと向かってくる。


「え?何、お前、ちょ!!」


 迫り来る大質量のフェニックスに僕は思わず目を瞑る。

 そしてぶつかる瞬間に衝撃的なフェニックスの声を聞いた。


『お主と儂は繋がってしまったのだ―――――』

 

 どうやらこの日、僕は大精霊と繋がってしまったようだ。

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