Epilog

第49話 戻ってきた日常

 翌日、僕等の殆どはTURUGI.Coの誇るツルギ総合病院に収用されていた。


 あの後程なくして目を覚ました皆と白鳳凰教会の面々を回収してエクスカリバーへと帰路についた。

 姉さんがヘリを運転してきた事もあり5人ずつのピストン運動でエクスカリバーへと帰っていた。

 その歳、大河内廉也をその場で殺すかと言う過激な論議が繰り広げられたが、結果は出せず両手両脚を拘束して猿ぐつわを噛ませてから帰ることになった。

 ハプニングなどは――――フェニックスが僕とぶつかり消滅したことで全裸で約5メートル上空から落下、そのすぐ近くに飯田結香が立っており、背中を強かに打ち付けて痛みにもがく僕のジャングルを凝視していた、コレをハプニングと言わないならば―――――殆ど何も起きず、無事に帰路へと発った言えるだろう。


 フェニックスの放った蘇生魔法により蘇った隊長達には残念な事ながらは見受けられていない。

 多少の記憶の混濁などがあれば無駄に傷つかなくても済んだ人もいたのだけれど。

 そこまで都合は良くなかったみたいだ。

 大河内廉也は何かしらの精神汚染を受けていた可能性は高いみたいだが、それも独断での先行が及ぼした物と言える事から隔離された収容所に連行されていった。

 恐らく彼には厳しい処罰が下ることだろう。

 幾ら蘇ったとは言え、仲間を犯し、殺した罪は重い。


 変わった事と言えば、隊長達蘇生組全員が引退を表明した事だった。

 何故かと言われると彼ら蘇生組と僕浅日宗一はBraveHeartの証したるコアが消えて無くなってしまったのである。

 戦う力が無くなってしまったのだ。

 引退もやむなしである。

 それで無くても彼らは一度死を体験しているのだ。

 幾ら歴戦のBHと言えど生半可な気持ちでは復帰出来ないだろう。


 僕?

 僕は確かにコアは無くなったんだけど……。

 何となくだけど前より力が漲っているんだよね。

 正直僕の身体がどうなったかは詳しく検査してみない事には分からない。

 だけどあのフェニックスが最期に言った言葉。


『お主と儂は繋がってしまったのだ―――――』


 あの言葉の真意を問いたい所なんだけど当のフェニックスは何処に行ったのか分からない。

 佑が言うには僕とぶつかり消滅したように見えたらしいけど。


 佑と言えば彼も何か隠し事が沢山あるようで審問を行われる迄その身柄はS.Z.A本部で勾留されるようだ。

 恐らく白鳳凰教会には帰る事は出来ないだろうし、ほとぼりを冷ます意味でも良かったのでは無いかと思う。

 佑にコアを盗られた白鳳凰教会のメンバー達は隊長達と同じ様にきっと引退するのだろう。

 彼のした事自体にどんな意味があったかは分からない。

 けど、彼がした事は仲間のコアを盗り、大精霊たるフェニックスを召喚しただけなのだから。

 大きな罪に問われるのかと聞かれれば正直ちょっと微妙な所だ。

 結果論かもしれないが、佑が行った事によって、呼び出されたフェニックスのお陰で樋口さん達は蘇ったのだから。

 授受酌量の余地はあるのかも知れない。

 

 嗚呼、それと変わった事と言うか、なんと言うか、誰にも迷惑はかかっていないのかも知れないのだけれど――――


「宗一様、リンゴ剥きましたの。お一つどうぞ」

「あ、貰うよ。有りがと――――」

「あーーーーん」


 僕の隣で美女がもの凄くにこやかな笑顔でフォークに刺さったリンゴを差し出してくれている。

 アレ?夢……?

 僕がそう思ってしまうのも仕方ない。

 だって――――


「あーーーーーん」

「あ、あーーもがっ!」


 だって、あの飯田結香が―――

 聖女である彼女が僕の側から離れようとせず、尚且つ誠心誠意何故か尽くしてくれるのだ。

 本人曰く、僕がフェニックスに殺されたとあの時思ったらしく(実際は一度殺されていたみたいだけど)自分もフェニックスに飛び込み後を追おうと決意したらしい。

 結局彼女は何が言いたいかと言えば「命がけで愛してます」との事らしい。

 勿論僕の事を、だ。

 10歳近く離れた女性の真っ直ぐすぎる告白にたじろぐしか出来なかった僕に何も言わず彼女は傍らに座りこうして尽くしてくれている。

 多少強引な所が見え隠れするけどS.Z.A一の美女に言い寄られて悪い気はするわけが無い。

 なんともこそばゆい気持ちはあるのだけど女性に不慣れな僕には上手く対応する事は出来ない。

 なんだかんだ言って僕は10歳からずっと戦うことだけを生きがいにしてきたのだ。

 BraveHeartと格好付けたところで軍部に勤める兵隊とそう大きな差は無い。

 むしろ剣を振るい直接この手で命を奪うだけ僕の方が罪深い気がする。

 コアは無くなってしまったけど戦う力も意志もなくなっていない。

 だからきっと僕はまた戦うのだろう。

 この身を焦がし―――

 狂気渦巻く戦いの渦に――――

 飛び込んで行くだろう――――


 何故なら僕はBraveHeart勇者だから――――





 ひゅるりと生暖かい風が病室のカーテンを揺らす。

 カーテンの向こう側に見える景色の中に銀色に輝くエクスカリバーがその身を覗かせる。

 遠くに見えるエクスカリバーは夏の日差しをその身に受け、今日も燦然と輝いて見える。

 夏は未だ終わらない。






 S.Z.A―第2課勇者係 Episode-1 

                BraveHeart   完

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