第47話 決着-1

「何よアレ」


 力が抜けて身動きの取れない白間雪はその景色に驚愕していた。

 本来なら大仰に訴える所だが如何せんコアを取られて殆ど身体が動かないのだ。

 隣に横たわる伸也と隆雄も同様で物言わず光輝く中空を眺めていた。


「まるでお伽噺だな」


 伸也がぽつりと言った。

 その言葉には自分達とは次元の違う戦いを繰り広げる者に対しての羨望が多分に含まれてる様に雪は感じた。


「嗚呼、あの黒いフェニックスと戦っているのは誰何だ?まるで戦天使だな―――」


 隆雄が言う。

 誰なんて聞く迄も無いのに。


「ふん!何上手く言ってるのよ!」


 そう、強気に言い放つが、もう自分達はあそこにたどり着く手段も無ければ気概も無い。


『君達のレベルではこの先戦えないだろうから――――』


 そう優しく語りかけた佑の言葉を思い出した。

 その優しい笑顔であの人は私のコアを奪い去った。

 普通コアを取られるとBHはその生命活動を停止すると言われている。

 何かの魔術を使われたみたいで気を失ってしまい、その間にどうやって奪い去ったか迄は分からないけど気が付けばコアを盗られていた。

 だけど私たちは何故か無事生きていた。


 コアも無くなり、もうBraveHeartとでは無い私たちだが、その私たちでも視認出来るほどの高密度のLoonがあの場では渦巻いている。

 紫色の炎を纏った不死鳥。

 その不気味な炎に正面から立ち向かっているのは一人の青年だ。

 背中に二対の翼を生やし大空を駆けている。

 その様子はまるで巨大な悪に立ち向かう天空の騎士の様に見えた。

 小さい頃憧れたファンタジーゲームの世界。

 それが目の前に現れている。


 何故だろう?

 頬を涙が伝うのは?

 好きな人に裏切られたから?

 それともにもう行けなくて悔しいから?

 分からない―――

 分からないけど、私は不死鳥に立ち向かうあの青年に届けと。

 唯々、精一杯のエールを送った。


「………………るな………負けるなぁ!!!!」



□■□■□■□■□■


「ぉぉおぉおおおおおおおおおお!!!!!!」


 全力で放ち続ける磁場電極砲レールガン

 その維持のために高速で僕をLoonが循環していく。

 1秒毎に皮膚が剥がれ、肉が沸騰するような錯覚に気が遠くなりそうになる。

 鼻からはぬるりとした液体が滴り出ている。

 おそらく鼻血が吹き出しているのだろう。

 限界は近い。

 僕の身体の。

 それに伴い磁場電極砲レールガンの出力が落ちていく。

 先細っていく光の波動をフェニックスがその身に受けながらも進んでくるのが見える。

 紫色の炎が吹き上がり一際大きくフェニックスが羽ばたく。

 その身に纏う獄炎で僕を燃やそうと迫ってくる。

 

「慈しむ光、纏う星――――癒やせ「聖なる守護リジェネレイト」」


 軋む身体を癒やしの光が包み込む。


「湧き起これ――――鋼の意志よ!その雄を持って立ち上がれ!!!『聖戦ジ・ハード!!!!』」

 

 次いで腹の底から湧き起こって来る力。

 まだこれだけの力が僕の何処にあったのか。

 聖女と謳われる飯田結香からの支援魔法に僕は気力を振り絞る。


 何でも良い。

 コイツを倒せるなら!

 例え借り物の力だろうが!

 この後倒れようが!!


 もう僕の目の前で決して!誰も!!殺させない!!!


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ―――――」


 風前の灯火だった僕の力が沸き上がってくる!

 スヴェリンの翼が大きく広がり何もかも根こそぎ吸い上げて行く。 


 スヴェリンの―――明弘の―――

 ティルフィングの――――葉月の――――

 そして僕の――――


 三つのコアが一際大きく輝き始める。

 紅く―――

 碧く―――

 蒼く―――

 三つの光が絡まり僕を包み込む。


 轟々と高濃度のLoonが僕の周囲に巻き起こり暴風と化す。

 それなのに―――

 そんな中なのに―――

 声が聞こえた。


『負けないで―――』『諦めるな―――』『死なないで――――』『頼む―――』


 皆の声が聞こえた気がした。


「コレで!最期だ!!一・撃・剣・閃!!超究極奥義!!!極大磁場電極砲アルティマレールガン!!!!!!!!!!」

『行けぇぇええ!!!!!!!!』



 超極大の磁場電極砲レールガンが迫り来るフェニックスに照射される。

 そして照射されたフェニックスを包む禍々しい紫色の炎が吹き飛ばされ行く。

 ペリペリと捲れ上がる様に吹き飛ばされて行く紫色の炎。


 その時に僕は気付いてしまった。


 この紫色の炎は――――


 この禍々しい炎は――――


 ――――マテリアル化したフェニックスの鎧だった事に。


 だけど気付いたとしても、もう早手遅れだった。

 全ての力を出し切ってしまった僕は空の上で気を失ってしまった。


 最期に観たのは磁場電極砲レールガンを通り抜けて僕の胸に到達した赤いフェニックスの嘴だった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る