第46話 大精霊召喚

 直径5メートル程の光の奔流が大空に向け立ち上っていく。

 その様子は美しく、美しすぎて最早この世の現象では無い様に見えた。

 僕には一体何が何か分からなくなってきた。


「コレで2体目の大精霊様が召喚された」

「大……精霊?」

「ええ。そうですよ先輩」

「こんな何かよく分からない者呼ぶために……お前は仲間を殺したのか…」


 僕の目には吹き上がる黄金の光の粒子が死んでいった仲間達の魂のように見えた仕方が無かった。


「こんな者とは何ですか!こんな者とは~。美しく、荘厳で、壮大な大精霊様を観なさい。矮小な人の命程度でこの世界に呼ぶことが出来るのですから安い物じゃ無いですか」

「お前!それでも人間か!!」


 樋口さんが叫ぶ。


「馬鹿な!人間な訳無いでしょう!私は選ばれし種族エルフなのですから!この地球を棲み良い世界にするのが我らELF機関の使命!その為に人が死しても何も思うところは――――在りませんよ」

「貴様ぁ!!!」


 幾ら僕等が憤ろうがこのシールとか言う術が破れない。

 もがき動こうとしているそんな時だった。


「エルフ風情がこんな所で何をしている」


 凜とした声が場を支配する。


「――――ギュスター・グレリオ・ゴブリン」

「気安く人の名を呼ぶな―――」


 ギュスターが軽く腕を振るうと恐ろしいまでのLoonが奔流となって佑に襲いかかる。


「ぐっ!」


 その一振りに佑は膝を着く。

 その瞬間に僕はシールを振り解く。


「ふむ。どうやら妖魔ファナティスは失敗したみたいだな」


 妖魔ファナティス―――恐らく先程の大河内廉也の事だろう。

 それと僕が戦うことでギュスターの目的は達成されると言っていた。

 果たしてそれは何だったんだろうか?


「それにしても、アサヒ。お前あとほんの少しなのにな、惜しいな」

「何の事だギュスター?」

「教える義理も無い――――しかし基にした勇者が想像以上に弱すぎたのがネックだったか――――そうだ!アサヒ。お前あのエルフを殺せ」

「ななな、何を言ってるんだ!」


 エルフとか何とかどうとか言っても佑は佑だ。

 いきなり殺す事なんか出来ない。


フラッシュ!」

「フン!」


 佑が放ってきた攻撃をギュスターはまるで蠅でも叩き落とすかの様に片手で弾いた。


「チィ―――化け物が」

「普通なら殺す所だがこのはどうやら俺にも都合が良さそうだ。利用させて貰おう」


 そう言うとギュスターは元来た方向とは反対側に歩き出す。


「ああ、一つ。親切心で教えといてやろうそこのクズエルフ。お前馬鹿だなぁ~?欲に駆られてちゃんと確認してなかっただろう?賢者の石の欠片のを」

「な、何の事だ!?」

「何だ?何も知らないのか?それとも教えて貰ってないのか?――――――アグラリエルに?」

「魔族如きがその方の名を語るなぁ!!!」


 激高した佑が数十発の魔法攻撃を瞬時に展開しギュスターに向けて放つ。

 だがギュスターはそれの猛烈な攻撃に対し片手をかざすだけで防いでしまう。


「舐めるなよ小僧が」


 ニタリと嗤うギュスター。

 その顔を見て僕は薄ら寒い物を感じてしまう。

 今の僕ですら佑に敵うか怪しい。

 それをも軽々と封じるこの目の前の怪物は一体何が目的なのか?

 僕如きを殺すのに下手すれば指先一つで出来てしまう程の実力差を感じてしまう。


「まぁ良い―――俺は行く。せいぜい生き延びろよアサヒ」


 そう言って悠然と歩くギュスターの前の空間が突如揺らぐ。

 その揺らぎの中へとギュスターは入って行ってしまった。

 ギュスターが入ると空間の揺らぎは収まりそこは何も無かったように元通りとなっていた。


「空間魔術、だと―――」


 何も無い空間を佑が厳しい目つきで睨んでいる。


 カチャリと僕の持つティルフィングから音が鳴る。

 正直何が何かよく分からないが佑をこのまま放置も出来ない。

 エルフ機関とか聞かなければいけないことが多すぎる。

 敵うかどうかじゃない。

 此処で倒しておかないと。

 そう思いティルフィングの刃を佑へと向ける。

 その気配に佑も僕の方に振り返る。


 轟々と立ち上る光の奔流はその色を赤から青へ、青から緑へと変わっていきやがて綺麗だったその光がどんどん濁った色に変わっていく。

 暗い波動と美しい光が明滅を繰り返す様はまるで夜空に輝く数多の星々の様にも見える。


 ジャリ―――

 大地を踏みしめる音がする。

 佑は何時もの両手剣を地面に指してしまっている為剣は構えないがその手には高密度のLoonを留めている。

 その両手を構え深く腰を落とし構えを取る。


「やりたく無いんですけど先輩――――」

「今更聞けないよ佑―――」


 ブゥオン―――

 スヴェリンの翼が周囲のLoonを吸い込んで行く。

 Loonも瘴気も光の奔流さえも吸い取り僕の力へと変えていく。


 対する佑もその足下に這う髑髏が立上り、僕に向けてその牙を剥こうとしているのが分かる。

 

 今正にぶつかり合おうとしたその時―――

 それは現れた。


 さっきまで明滅していた光の奔流が無くなり、そこから暗い暗い炎が吹き上がったのだ。

 黒と紫を混ぜ合わせたような炎は次第に大きな鳥の形へと変わっていく。

 佑も呆気に取られた様にその様子を眺めていた。


「大精霊、鳳凰フェニックス――――」


 佑がそう呟いた。

 その瞳には畏怖の念と羨望の念が見て取れる。

 全長5メートル以上在りそうな炎の怪鳥。

 その正体は佑が言う事が正しければあの伝説の生き物の鳳凰だと言うことになる。

 だけど伝承に伝わる鳳凰は赤い炎を身に纏っていたはずだ。

 こんな禍々しい色の炎を纏っているなんて。


「おい!佑!アレは何だ?何なんだ?」

「先輩アレこそが大精霊様!炎の大精霊鳳凰フェニックスですよ!」


 クェエエエエエエエ―――――

 鳳凰フェニックスが天に向けて一鳴きした。

 それはまるで神に自分がこの世に顕現したのを伝えているかのようだった。


「さぁフェニックス様!私に力をお貸し下さい!!」


 佑が請う様に両手をフェニックスに向ける。

 ファサリファサリと羽ばたくフェニックスは大きく息を吸い込むと佑に向けて暗い炎を吹き付けた。


「危ない!!!!!!」


 瞬間に僕は佑をその場から弾き飛ばす。

 どう見てもさっきのは大型MEドラゴン吐息ブレスの予備動作と同じだ。

 さっきまで佑の居た場所がどろどろとした何かに変わっている。

 その様子に僕はアレに触れたら一巻の終わりだと感じた。


「―――何で?」


 何で助けた?

 そう聞きたそうな表情の佑に僕は応える。


「知らない。勝手に動いたんだ―――――そんな事よりアレはどうなってる?」

「………恐らくフェニックスは闇落ちしている」

「闇落ち?」

「はい。恐らくですが賢者の石の欠片―――コアが何かしら汚染されていたからかも」


 こうして話していると普段と別段なにも変わらない本間佑だ。


「要するに失敗したんだな佑?」

「口惜しいですが―――」


 ギリッと佑が歯を噛む。

 その様子にコイツに殺されてしまったであろう白鳳凰教会の面々の顔が浮かぶ。


「分からない事が多すぎる。佑――――兎に角アレを倒す。その後で全部話せ」

「―――――っ」

「良いな!」


 僕はそう言うと佑を突き飛ばしフェニックスに向かい空を駆け上る。


 クェェエエ――――とフェニックスが鳴くとその雄大な身体を旋回させる。

 それだけで数多の火の玉が飛来してくる。

 スヴェリンの翼を使っている僕には大した速度では無い。

 だけど呆然自失としている佑には避ける事は敵わない。


「クソッ!間に合わな――――「セイントウォォオオーーーーール!!!!」」


 どうやら樋口さんが聖壁を貼り、佑を助けた様だ。

 

「もう誰も俺の前で死なせん!」


 そう言う樋口さんの手には二枚の白銀の楯が装備されていた。

 隊長の楯と自分の楯。

 その二枚の楯と防護結界で鳳凰の一撃から佑を守っていた。

 旋回していたフェニックスは火の玉が効かなかった事に腹を立てたのか大きく一鳴きすると天へと昇っていく。

 その優雅な姿に僕は戦慄を覚える。


「何か来る!皆逃げろ!!!!!」

 

 大きな攻撃が来ると予測し僕はそれを潰すべくLoonを高める。


武玲威舞ブレイブ!!!」


 轟と僕の周りに高密度のLoonが沸き上がる。


「ティルフィング!シフトエリアルモード!!」


 燃え盛っていた刀と霜が降りていた刀。

 その両方に纏っていたエフェクトが切り替わりパチパチと紫電を纏い出す。


「シフト完了しました―――」


 女性の声が空に響く。

 少し葉月に似た声が。

 それだけで僕を勇気づけてくれる。


「うぉおおおおおおおおおおおお!!!!」


 バチバチと紫電を纏うその刀を空中に振るいまくる。

 空高く上がっていったフェニックスがくるりと宙を舞い此方に狙いを定めた様だ。


「うぉおおおおおおおおおおぉおおおおおおお!!!!!」


 その間も僕は超高速で斬撃を空中に繰り出し続ける。

 僕の前には紫色の紫電舞う磁場が出来上がりつつあった。

 僕の持ちうる最強の攻撃。

 トライエクスが最終兵器トライエクスたる所以。

 それだけの威がこの技にはある!!


 暗く燃え盛るその身毎フェニックスは僕等に向けて突進してくる。

 大質量の炎の塊が僕目掛けて突き進んでくる。


「うぉおおおおぉぉぉぉぉぉぉおぉおおおおおおおお!!!!!!」


 未だだ!

 未だ足りない!!

 アレを潰すにはぎりぎりまで磁場を大きくする必要がある。

 轟々と紫電迸る磁場に限界まで僕は両刃を振るい続ける。

 あと少し!

 あと少し!!


「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!いっけぇぇぇぇぇぇええーーーーー!!!!!!!!磁場電極砲レーーーールガン!!!!!!!!」


 莫大なLoonを放つ影響からか僕の周囲が全て白に染まっていく。

 駒送りの様に流れる景色に音すらも世界から消えていく。

 紫色した極太の光線が迫り来るフェニックスに浴びせられる。

 轟々と周囲のLoonをスヴェリンの翼で吸い上げる。

 そして僕の身体を通りティルフィングからその全てを送り出していく。

 体中が軋みを上げその激痛に悲鳴を挙げそうになる。


「ががががががぁあああああああああ!!!!」


 最期の力を振り絞りフェニックスを潰す!

 潰しきるんだ!!!


 葉月――――

 明弘――――

 隊長――――


 皆!!!力を、僕に力を貸してくれ!


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

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