第45話 凶宴-2
「来るな来るな来るな来るな!」
田中伸行は手に持つベレッタM92を闇雲に発砲していた。
彼はC班では唯一の男性で3課でも数少ない戦闘が出来るBHであった。
だが幾ら彼が戦闘が出来ると言っても彼のジョブは僧侶。
上級職のバトルプリーストにでもなれれば少しは違ったかも知れないが彼の得意とするところはどちらかというと遠距離武器だ。
したがって向かってくる敵には余り効き目がないと分かっていても拳銃を乱射するぐらいしか手が無かった。
カチカチカチ―――
「くそ!弾切れか、何で同じMEが二匹も―――」
マガジンを抜き慣れた手つきで再装填する。
そしてすぐさま迫り来るベレッタM92を再度大河内廉也に向ける。
だけれどベレッタM92が二度と発砲されることは無かった。
「コアもらいぃ~」
そこには嬉しそうにコアを丸呑みする大河内廉也がいた。
「こんな所にもコアが~」
そう言い大河内廉也は腰を抜かし草むらに隠れていた山之内瞬のコアを無造作にむしり取る。
ブチブチと何かがちぎれる音がすると瞬はその場で息絶えた。
「遅いよ~?ベビーフェイス?お陰で俺様コア一杯集めちゃったわ~」
そう言う廉也の胸には4つの黒いコアが輝いている。
「おまぇええええ!!!」
僕は『
コイツらは氷に弱いはずだ。
その証拠にさっき『
だがコイツはトカゲのしっぽ切りの様に片腕で『
「アハハハ!お前が勝手に日和ってる間に!お前のせいで!!二人死んだんだ!!!傑作だ!!お前が殺したんだ!!勇者のくせに!!!!」
「うるさい!!」
2匹目の廉也は何とか樋口さんと由奈が押さえている。
今のうちにコイツを倒してさっさと合流しないと、あっちがヤバい。
今は上手く押さえてるが何時どうなるか分かったもんじゃ無い。
だからこんな奴の言う事に耳を傾けてる場合じゃ無い!!!
「一気に終わらせる!!!『
武玲威舞は単純に身体能力強化を技までに昇華させた物だ。
ただあまりにもLoon消費が激しいのでトライエクス状態でないと使い勝手が悪すぎる。
僕は吹き上がるほどのLoonを纏うと一瞬で廉也の後ろに回り込む。
「アイシクルラーーーッシュ!!!」
完全に反応できていない廉也に『
細切れにされた廉也はその全てを凍らせる。
そこに僕は『
「次!」
僕は宙を飛び2匹目の廉也の所に駆けつける。
その様子に廉也は驚いたようで目を丸くして僕を見ている。
その隙に満身創痍の樋口さんと由奈はその場から退避する。
「あららら?本当に強くね?ベビーフェイス」
「そう思う事ならとっとと降参するんだな」
「何それ?降参して反省したら許してくれるの?流石日本人!あはははアイラブ祖国!!!」
「そんなわけ、無いだろ!!死ね!!『
必殺のタイミングで放った『
「バ~リアっ」
廉也が両手を前に出しケツを振りながら楽しそうに嗤っている。
「アハハハ!吃驚した?
「何故お前がそれを使うぅぅぅううう!!!」
ガキン!ガキガキガキガキ―――ン!!!
闇雲に振るう刃は全て廉也の防護結界に阻まれる。
「効かない効かない!――――今度は俺から行くぜぇ!」
廉也が僕に向かいその手に持つ黒いコンバットナイフで襲いかかってくる。
さっきのマテリアル化しているときよりは断然遅い。
誘いかと警戒しそうにもなったがその腕事切り飛ばす。
腕を切られたことで後ろに下がる廉也。
「あららら?結界から出たらダメなのかぁ~使えねーなこの技」
そう言って廉也は自ら張った防護結界を掴むとそれを自分の身に纏うように羽織った。
「これでいい」
「なんて非常識な奴だ」
「ベビーフェイスゥゥウ!お前に言われたかねーよ!」
いつの間にか生えそろった腕にコンバットナイフを持った廉也がその身を沈め深く構える。
「死ねよベビーフェイス!」
「お前が死ね!!!」
『
廉也の両の拳から繰り出される剣戟と拳撃。
それを打ち祓うように僕は莫大な魔力を乗せた剣閃で応える。
バリン―――
結界の割れる音がする。
廉也の攻撃は届かず、僕の攻撃は廉也に届いた。
只それだけだ。
防護結界を突き抜けた剣閃は廉也を真っ二つに切り裂くとその両方を燃やし付くさんとばかりに激しく燃え盛っていた。
「うううっぅぅそだろ――――」
上半身だけの廉也が血に這いつくばり僕の方へとその手を伸ばす。
しばらく宙を彷徨ったかと思うとぱたりとその手は地に伏した。
「今度ばっかりは流石に終わりだろう――――」
燃え盛るぼんやりと廉也を見つめる。
「せんぱーーーーい」
急に場違いな明るい声で僕を呼ぶ声が聞こえる。
この呼び方は佑だ。
声の方に向くと佑が大きく手を振りながら此方に駆けてくる。
その反対の手には何か緑色の物体を引き摺っている様に見える。
嬉しそうに駆け寄ってくる様は少し犬っぽい。
「これ?何なんですか?」
燃え盛る廉也を指刺して佑が僕に問う。
「――――大河内廉也だった物、かな」
「え?あの第3世代の勇者の?」
「うん。何が何だかよく分からないけど――――なんか色々あったんだ」
「そうだったんですね―――――あのアリストクラットの奴は?」
うん?
アリストクラットってギュスターの事かな?
「ギュスター?彼とは少し話ししただけに終わったよ」
「へ~相変わらずなんだね」
「相変わらず?どう言う―――」
そう言いかけた時、佑の持っていた緑の物体につい眼が行った。
緑の物体。
それは手足をもがれた緑色の肌をした少女だった。
「うぃ!」
思わず変な声が出てしまった。
「嗚呼、コレですか?余り気にしなくても良いですよ只の下級精霊ですから」
「精霊?」
「ええ」
本当に何でも無いことの様に佑は言う。
そしてその緑色の少女を地面に放り投げる。
「コイツらは人でも何でも無い中途半端な生き物なんですよ」
そう言う彼の服と鎧には僅かに赤い染みが出来ている。
「なぁ?他の白鳳凰教会の人達はどうしたんだ?」
「―――ん?向こうの方で休憩してますよ」
佑の口元が三日月型に歪んだ様に見えた。
「お前―――誰だよ?」
僕はそう言うと一歩二歩と佑から距離を取る。
「やだなぁ~先輩。僕は佑ですよ。生まれた時からずっと―――」
「じゃぁ何故――――ギュスターがアリストクラットの一員だと知っている?」
僕等の間に炎が舞い、その熱でちりちりと肌を焦がす。
「参ったな――――鋭いね、流石先輩。尊敬しますよ。でも僕は本間佑である事には代り無いんですよ」
「目的は……何なんだ?」
「ああ、目的は殆ど達成した様な物ですから、そんなに身構えなくても良いですよ先輩」
「どういう事だ?」
僕が問うと佑は胸の辺りからじゃらりとこぶし大の宝石の様な物を取り出すとそれを無造作に地面に投げた。
カチンと石と石がぶつかる音がする。
よく見るとそれはコアだった。
「お前……まさか仲間を――――」
「此処にはもう既に10個以上のコアが揃ってるみたいだから要らなかったみたいなんですけどねぇ~」
「佑、お前!」
「そういきり立たないで先輩。ゆっくりそこで観ておいて下さいよ『ダルダリオルイスが命じる――――
不思議な光が僕に張り付くと僕はそこから動けなくなった。
「おい、お前等そこで何やってるんだ?」
飯田結香に回復して貰ったのだろうか?
満身創痍だった樋口さんがこっちに寄ってくる。
「ああ、まだ息のある奴らいたんですね。ま、良いでしょう。皆にはこれから起こるスペクタクルなショーの見物者になって頂きましょうか」
「お前何いってる―――「『
「観ていろと言っているんだ」
鋭い口調で佑はそう言うと今だ燃え盛る廉也の方に歩いて行くと一切の躊躇も無く炎の中に手を入れた。
色とりどりの5個のコアを手にすると、先程放り投げた3つのコアの所にその五つも無造作に投げ捨てた。
「コレで8つか―――」
悠然と歩く佑は3匹目の廉也が倒された場所に赴き4つのコアを拾い上げるとそれをまた無造作に他のコアの所に放り投げた。
「全部で12個――――これは期待できそうだ」
そう呟くと佑は精霊と言っていた手足の切断された少女の頭を鷲掴み引き摺りながらコアの集められた場所にまで歩いて行く。
「フフフフフフフフ―――――さぁ始まるよ」
両手を広げ高らかに宣言する。
「暗闇より出る賢者達よ――――その知恵と力を我に与えよ」
「盟約を―――」
佑の足下が真っ暗に染まる。
その暗闇から佑の足にすがる様に髑髏が這い上がってくる。
その髑髏は一人分では無く次々と暗闇から這い出てきて次第に佑の足は骨によって雁字搦めになっていく。
「盟約を―――」「盟約を―――」「盟約を―――」
カタカタと髑髏が喋る度に骨のぶつかる音が鳴る。
周囲の血の香りと相俟って最早此処が山の中だとは誰も信じられ無いような、そんな様相を作り上げていた。
「地獄―――」
「ふふふ、言い得て妙だね先輩」
そう良いながら佑は自らの手首を手刀で切り裂くと足下の髑髏達に振りかけていった。
「――――成った」「――――成った」「――――成った」「――――成った」
「盟約は此処に成った――――ダルダリオルイスが命じる――――捧げよ」
そう佑は唱えると背中の両手剣を緑色の精霊の胸目掛けて一気に突き刺した。
「――――――――――ァア」
聞こえるか聞こえ無いか程度の声が森の中に響く。
とぷん―――
地面だった所に波紋が広がり、その波紋が通ると地面が黒く黒く染まっていく。
精霊を中心に暗闇が広がっていく。
そして無数の骸骨の手が精霊を引きずり込もうと暗闇から生える。
精霊も12のコアも暗闇へと引き摺り込まれていく。
「我奔る風の如く―――」
「我踊る炎の如く―――」
「我留まる氷が如く―――」
「我その身を産み出す大地が如く―――」
謳うように4体の髑髏が詠唱を始める。
天を仰ぎ両手を胸に祈る様な仕草をしている。
「―――――顕現せよ『
佑が詠唱を完成させる。
それと同時に暗闇だった地面から黄金の奔流が立ち上っていく。
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