第32話 オープンコンバット

 第3ポイントに到達し僕達は森の中へと侵入していこうとしていた。

 ちょうど今正に動き出そうかというタイミングで西尾さんに長官から通信が入っていたみたいだ。


「ええ―――――はい―――――ええ、分かりました―――――そうですか、ええ由奈に、はい」


 ん?由奈?

 突然名前が出たことで由奈は少し慌てた様子を見せた。

 そんな由奈は両肩に機銃をぶら下げ腰にはパイナップルを幾つもぶら下げている。

 あまりにも無造作にぶら下げているので落として自爆とかしないのか?とつい聞きたくなってしまいそうになる。

 パイナップルと言うのは言わずと知れたMK2破片手榴弾の愛称である。

 普通のパイナップルで5メートルから9メートル位の範囲の殺傷能力を持つと言うのだが、アイテムマスターのジョブを持つ由奈がそれを使うと威力も範囲も上がると言うから不思議だ。

 アイテムマスターのパッシブスキルの効果だと聞いた事がある。

 銃や化学兵器といった近代装備はMEには効きづらいのだが由奈が使うとME対策兵器に早変りだ。

 そんな由奈に目を付けたのが久樂博士で、何時も二人で悪い顔しながらME対策武器を作っている。

 もっとも由奈自体は戦闘技術も余り持たないのでもっぱら作る方が多い。

 2課のBHの武器の大半は由奈によって製作されている物が殆どだ。

 ちなみに僕のティルフィングやスヴェリンは久樂博士の謹製になる。


「由奈、お前ロケットランチャー持って来てるのか?」


 半分あきれ顔で隊長が由奈に訪ねる。


「勿論RPGとSMAWが在りますけどどっちが良いですか?」


 嬉々として答える由奈に少し頭が痛くなってきた。


「どっちでもいい。威力が高い奴だ。それを打ち込めとの長官命令だ」

「了解でーす」


 イベントリから1メートル弱の鉄の筒が取り出される。

 何故かその筒はピンク色に塗装されている。

 

「それと~」


 とか良いながら今度はラグビーボールを細長くした様な弾頭を取り出しピンク色の筒に篭めていく。


「それは?」


 ちょっと気になったので僕は聴いてみた。


「RPG-7。元々ヘリぐらいなら一撃ですよこれ」

「元々?と言う事は?」

「勿論改良済みですよ~、やだな~」


 事も無げに言うその姿に僕は無邪気だなと何故か感心してしまった。


「威力は通常の約2倍その分射程を犠牲にしたので500メートル位しか届きません。ちなみに今日持って来てる弾頭は2発だけなので残念ですが2発しか撃てないです」


 そう言う由奈の顔は全然残念そうでは無く、キラキラした瞳を観ているとそんな事より早く撃たせろと行った様子に僕は取れた。

 場違いなほど上機嫌な由奈に周囲はどん引きしている。


「フォーメーションの最終確認だ。まず由奈がそのランチャーで先制攻撃をぶっ放す。そしたら俺と樋口の二人で突入だ。その後由奈と瑛十で取りこぼしの処理。宗一お前は最後尾、殿だ」

「え?」


 隊長から告げられた、あまりの予想外のフォーメーションに僕はつい声を上げてしまった。


「なんだ?不満か?」

「いえ、そんな訳では……」

「本来なら因縁もあるお前が一番に突っ込みたい所なんだろうがこればっかりはお上の指示でな。今回はお前はなるべくとの命令が出ている」

「……了解です」

「まぁそんな訳だ。何時も宗一におんぶに抱っこじゃかっこ悪いと思ってた所だ。偶には先輩に良いかっこさせろ」


 僕の背中をばんばんと隊長が力強く叩いて行く。

 きっと姉さんの指示だろうな。

 魔人化の事とか気にしてるんだろう。

 本当に起こるかどうかも分からない事気にしても仕方ないのに。

 

「とりあえず撃ちますよ~。あ、其処危ないよ瑛十君。そ~~れ」


 カチ。

 どぉおおおおん――――


 発射と同時にバックブラストが起こり辺りを熱風が包む。

 発射された弾頭はひゅるるるるという高い音と共に森に中央辺りに勢いよく向かって行く。


 ちゅどーーーーーーん!!!!


 非常識な爆発が森の中央部分で起こるとむわりとした熱風が遅れてやって来た。

 勿論着弾ポイント周辺の木々は爆発でなぎ倒され、その時に起きた炎が徐々に周囲に燃え広がり始めている。

 ちなみに着弾ポイントから半径20メートル程は何も無いただの焼け野原だ。


「いやいやいや」


 近代兵器って恐ろしい。

 そう思ったのは僕だけじゃ無いだろう。


「これ、20発ぐらいあれば由奈だけで作戦終わらせれるんじゃ無いのか?」

「……そう言う説もある」


 隊長と瑛十がそんな恐ろしい話しをしている。


「瑛十君!何がそう言う説もあるよ。無・い・わ・よ!それにコストと製作時間の関係であんまり多く作れないのよ」


 由奈はそんな事言っているが、上手く稟議通せば費用は絶対出るだろうし何より犠牲者が出ないのが良い。

 今後はこう言う広域殲滅兵器の開発にも力を入れて貰わなければね。


「それにしても山火事とか大丈夫か?」

「大丈夫ですよ~もう一発撃てば爆風で消えますよ~。そりゃ~~」


 カチ。

 ずどぉおおお~~~ん―――――


「いや、一発目のは爆風で消えても二発目爆発でまた火の手が上がるだろう…」

「え?」

「え?」


 まさか気付いてないのか!


「……由奈に其処を求めるのは無理」


 瑛十の呟きに一同唖然として飛んでいくRPG-7の弾頭を見つめた。


ちゅどーーーーーーん!!!!


 勿論火の手は上がる。

 それもさっきより盛大に。


「取り敢えず事が終わったら119番通報だな」

「ちゃんと住所調べとけよ由奈」


 そう言い残すと隊長と樋口さんが正面の森へと駆け出す。

 二人ともの手にはおそろいの白銀の楯と白銀の片手剣が握られている。

 『白銀の双騎士プラチナナイツ』と呼ばれる二人の出陣だ。

 2課の中でもベテランコンビとして有名だ。

 その実力は折り紙付きで、何より『白銀の双騎士プラチナナイツ』の凄い所はなんだ。

 その生存確率91.2%。

 的確な指示や作戦を立てる能力とそれを行使する為に采配を振るう能力。

 この二つがあって初めて成せる事だ。

 そして彼らのジョブ、聖騎士が守る事に特化していると言うのも高い生存率を誇る要因の大きな一つだろう。


「……由奈行くよ」

「了解、瑛十君」


 そして遅れて駆けだしたこの姉弟。

 第二世代では頭一つ抜け出した実力を持つ。

 あまり何も考えて居ない様な天然キャラの由奈と何を考えてるかよく分からない無口キャラの瑛十。

 この二人、潜入任務や調査系が得意なのだが、先程由奈が見せたように実はその火力も侮れない。

 瑛十はシノビと言う忍者の様な職業を持ちバックスタブの様な対個人の技を多く習得しており、対する由奈はアイテムマスターと言う職業の特性を遺憾なく利用し、最近では高火力の近代武器を携帯出来るというBH唯一のマップ兵器と化してきている。 

 近頃2課の中で由奈のトリガーハッピー疑惑が取り沙汰されている。

 瑛十曰く射線上には入らない方が良いとの事らしい。

 誰しもフレンドリファイヤァーは避けたいところだ。


「ひゃっはーーーーー!!!!!」


 バラララララララ―――――

 軽い掃射音が森の中で響いている。

 どうやら交戦し出したようだ。

 だけどかけ声よ!

 年頃の女の子がそれでいいのかと疑問の声を上げたくなる。


「僕もそろそろ行こうか」


 左手にスヴェリンを右手に抜き身のティルフィングを携え僕は歩き出す。

 何となく急いでも仕方ない気がしたので。


 森の右奥の方で高濃度のLoonの発現を感知する。

 あの辺は白鳳凰教会の人達か。

 あちらもどうやら始まったみたいだね。


 ヘルメットのバイザー部分に表示されるME反応が多すぎるのでオペレータに設定変更して貰い僕の周囲20メートルのみの表示に変える。

 由奈が予め放っている索敵用ドローンの情報ではどうやらMEの反応は2000を超えて居るみたいだ。

 数が倍に増えてうじゃ無いかとか、その辺の事には誰も言及しない。

 ただ僕らが行う事はMEの殲滅。

 言うならばそういう業務だ。

 数は問題じゃ無い。


 それよりも気がかりなのは昨日のギュスターの別れ際の言葉。

 「真実を一つ教えてやる」

 あの言葉。

 彼は何を知っているのか。

 MEとは何なのか。

 BHとは、真実とは――――

 そして勝てるのか、僕は。

 ギュスターに。

 様々な事が脳裏を過ぎる。

 何を思おうが、何に悩もうが結果僕に出来る事は戦うことだけ。

 そう決めた。

 そうだろう?

 自分に自問しつつ森へと歩いて行く。

 

 森に近づくに連れて僕の鼓動が高まっていくのが分かる。

 歩くというその基本的な行為を行うだけで僕の周囲にLoonが渦巻く。

 鼻腔をくすぐるのは木々の焼けた匂い。

 そして肉の焼けた匂い。

 さっきまで感じていた夏の陽の暑さなど、もうとうに忘れてしまう程僕の脳が興奮している。

 これからの事を想像するだけで。


 何時も戦闘の前に思い出すのはあの日の惨劇。

 PTが壊滅した時の事。

 あの日の光景が僕の脳裏に蘇ってくる。


 ああ、今日という日に感謝を。

 今日まで生き延びれたことに感謝を。

 MEに復讐出来ると言う事に――――感謝を。

 

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