第31話 白鳳凰教会の面々

「B班はA班より先行してポイントに移行して下さい。A班はごり押しの正面突破になりますので横からのサポートを熟しつつ、クイーンを探し出して破壊お願いします」

「「「「ラジャー」」」」

「皆行くよ」


 僕の号令に皆動き出す。

 本丸とされるMEの巣は森の奥深くにある洞窟では無いかとドローンでの調査結果で導き出されている。

 その周辺に繭のような卵の様な何とも言えない実の様な物が木からぶら下がっている。

 報告によるとその繭から孵化してゴブリンが生まれ出るらしい。

 このような産まれ方はどうやら初めてらしい。

 確かに白鳳凰教会の方でも聞いた事が無い。

 そして産まれ落ちるME全てが新種と思っておいて良いと言われていた。

 先輩が昨日撮ってきたサンプルのMEは恐らく能力自体ゴブリンと大差ないとの事だ。

 その他の生態などは全く分からないらしいが。

 なんにせよ産まれる前に潰した方が良いに決まっている。

 僕らは先輩達A班が気を引いている内に孵化していない繭を処分。

 そして元凶の排除が何よりの目標だ。

 いくら高位ミュータントエネミー『ギュスター』を先輩達が排除してもMEが産まれる元を絶たなければ意味が無い。

 まぁ、ギュスターなら恐らくそんな事にならないはずなんだけれど。


 それにしても今回の作戦は、僕ら白鳳凰教会に取ってはうってつけの作戦目標だ。

 白鳳凰教会の命題はMEの根絶。

 特区管理局もそうだろうけど少し両者では組織の持つ色の違いからか意味合いが違う。

 特区管理局はどちらかというと事後対応が求められる。

 脅威度の高いMEなんかは特区管理局にしか対応しきれない。

 その点白鳳凰教会は零細の団体ではあるがなるべく先手を打つように動く事を心がけている。

 目は小さい内に摘むに限る。

 それでもこうやって僕らの目も特区管理局の目もかいくぐって特大の集団を作り上げることがごく稀にある。

 仕方ないとは言え何とか事前に対応出来るように策を考えないといけない。

 そんな事を考えながら移動していたら誠也が何か見つけたみたいだ。


「あれ、そうじゃないか?」


 誠也の指刺す方向には大きな繭のような物が松の木からぶら下がっている。

 表面は少し光沢がある半透明な緑色で、周囲には血管の様な管が幾つも張り巡らされている。


「なにあれキモいんだけど」

「確かに」

「取り敢えず殺っとく?」

「そうだね取り敢えず僕がやるよ」


 背中のバスタードソードを抜き繭の近くにまで跳躍し一気に両断する。

 ざくりとバスタードソードの刃は繭を両断し、その内容物がそれに伴い落下する。

 緑色の血液の様な液体が決して小さくない水たまりを作る。

 その中央には緑色の肌を持つME。

 ゴブリンが腹部から両断されておりその腸を周囲にまき散らしていた。


「グロすぎ」

「おぇ」

「さっさと次行く。これまだ一匹目よ。まだまだ在るんだから。手始めにこの周辺も捜索しながらポイントに向かおう」


 僕がそう言うと皆は少し嫌そうにしたが、次の繭を探し始めた。


「見つけたら俺に教えて。俺が弓で貫くよ」


 そう言ったのは隆雄だった。

 隆雄は聖弓師のジョブを持っている。

 剣で切れば中身はこぼれ落ちるが弓で貫けばそこまでそれは防げる。

 それに動かない敵を倒すのには確かに向いている。


「取り敢えず繭は出来るだけって事で。目標地点である本丸の洞窟周辺に女王が居る可能性が高い。繭はそれが終わってからでも十分だから」

「了解」


 僕らは更に森の奥へとその身を踏み入れる。

 駆け足程度で移動しながら見つけた繭は隆雄の弓で貫いていく。

 走りながら弓を射るとか良くやるよね。

 どれぐらい走っただろうか第3ポイントに僕達が到着した瞬間それは起こった。


 ちゅどーーーーーーん!!!!


 轟音が響き渡り次いでぬるい爆風が吹き抜ける。

 西の方角で何かやらかしたみたいだ。

 A班の方はどうやら始まったようだ。


「えええ~」

「まさかの爆撃」

「誰があんな派手なことやるのよ?」


 雪がなんとなく不満そうに言う。

 何を不満に思う必要があるのか?

 きっと雪は自分より目立つ人間が嫌いなんだな。

 自分中心で居たいからか。

 目立ちたがり屋だけど実は地味


「きっと由奈だな。アイテムマスター意外と恐ろしいジョブよね」

「マジか~、おれちょっとあの子可愛いなとか思ってたんだけどちょっとアレ見ると引くわ」


 隆雄が言う事も分かる。

 確かに一見おっとりしている由奈が爆撃を行うとかちょっと引く。

 現在その効果か、恐らく由奈が何かしら行ったであろう攻撃の余波で森が結構な勢いで燃え始めてる。

 確かに燃やせば繭とか一網打尽だけど。

 分かってるけど。 

 あえて言いたい。

 何考えてんだと。


「森燃やすか~普通……」

 

 まあいいや。

 こっちも仕事しよう。

 アレだけ目立ってくれたら動きやすい。


「向こうは向こう。こっちはこっち。ささ、早く終わらしてさっさと帰ろう」

「そうだな」

「ギャギャギャギャギャギャ」

「ん?」


 後ろから聞こえて来ただみ声に振り向くと其処には一匹のゴブリンが居た。


「ち、いつの間に!」


 ゴブリンは男には目もくれず雪の方へと一直線に駆け抜けていく。


「雪!行ったぞ!!」


 雪へと飛びかかっていくゴブリン。

 それを雪は見事に身を捩りそれを躱す。

 雪に身を躱され地面にダイブしていくゴブリンだったが、雪はそれを地面に着く前にゴブリンの腹を蹴り上げることで掬い上げる。


「ギャボゥッ!」


 腹部を真下から蹴り上げられ無様に宙を舞うゴブリン。

 逆さまになって落ちていく所、頭部に雪のローキックがきれいに決まりゴブリンはその儚い命を散らした。


「フン!汚らしい」


 そう雪のジョブは武闘家。

 素手での戦闘技術は最強なのだ。

 雪は結構トドメの時とかに無意識でドS発言をする事がある。

 そういう時に限って誠也が少し顔を赤らめていることが多いのだ。

 一体何を想像してるのか?

 取り敢えずそういうのは一人の時にしてくれよと僕は言いたい。


「ん?何か聞こえるな」


 そういうのは赤面気味の誠也。

 誠也は探索者と言う盗賊と狩人のいいとこ取りしたジョブの持ち主だ。

 そして探索者の固有スキルである探知は何処でも使える超便利スキル。

 その探知の恩恵か誠也は兎に角目と耳が抜群に良い。 

 幾度このスキルに助けられたことか。

 しかも戦闘時は射撃武器と近接武器の両方を器用に熟すオールラウンダーだ。

 その誠也が真面目な顔をして静かにと口元に人差し指を立てるジェスチャーをしている。

 僕らには何も聞こえ無いけど誠也には何か聞こえるのだろう。

 何か掴んだのだろうか?誠也が顔を顰める。

 思わず僕は「どうしたんだ」と聴いてしまった。


「………多分、多分だけどこの先にゴブリン達のがある」

?」

「ああ、クィーンとかでは無く昔からある感じの奴だ」


 その言葉で僕は理解した。

 この先に囚われの人間が居ることを。


「行くぞ」


 僕が小さな声で、そう言うと作戦に支障を来たす思ったのか誠也が反対の意思を示す。

 だけど僕は決めている。

 なるべく脅威となる目は早めに潰すと。

 だから行かなければならない。


「本気か佑?足手まといを作る気か?」

「いや、そうじゃない。後藤長官からも仰せつかっているんだ」


 そう、後藤長官からもし囚われの女性がおり、そして生存していた場合のについて指示を受けていた。


「なんて?」

「――――無かった事にしろと」


 ゴクリと誠也が唾を呑んだ。


「この先何かあるみたいだから僕と誠也でちょっと見てくるよ」


 そう雪と隆雄に告げる。


「隆雄は場所を教えてくれたら良いよ」

「――――こっちだ」


 誠也の先導の後を僕は無言で付いていく。

 しばらく森の中を進むと少し辺りに甘い匂いが漂い出す。

 それと同時にぴちゃぴちゃと粘りけのある水音が聞こえて来た。


「多分あそこだ」


 隆雄が指刺す先は少し開けており、遠目には肌色が緑色に絡み付いているように見えた。

 もう少し近づきよく見てみると、何人もの女性達が自らゴブリンに奉仕している。

 自らの意志で咥え腰を振り嬌声を上げている。

 そんな光景が僕らの眼前で繰り広げられていた。

 行為に熱中するあまりか女性達はおろかゴブリン達すら僕らに全く気付いていない。


「気を付けろ佑。この匂い香が焚かれてる。恐らく強力な媚薬だ」

「ああ」


 ゴブリン達は女性に覆い被さり愉悦に浸りながらその肉を囓る。

 腕を胸を尻をその牙で食い千切り、女性達はその度に涙を流しながら嬌声を上げる。

 その周囲には事切れたのであろう女性達が幾人も横たわって居る。

 その遺体の中には腹部を引き裂かれ腸が飛び出ている物もある。


「可哀相に……最早正気じゃ無いだろう」


 僕は意を決し、静かに詠唱を始める。


「黄昏より始まり暁へと参れ――――」


 瞳を閉じて周囲のLoonを自分に集める。


「逆巻け時よ――――」


 やがて黒いLoonが僕の周囲に集まり次第にそれは一つの形へと成っていく。


『咎人のデスサイズ


 放たれた黒い鎌は一撃でゴブリンと女性達の命の灯火を消し去る。

 外傷は無くただただ命を刈り取る魔法。

 僕のみに許された暗黒魔法だ。


「よし、これで脅威は去った。次に行こう」


 努めて明るい声で僕は隆雄に告げる。


「……お前スゲーよ。俺には真似できない」


 そんな誠也の言葉に僕は返す言葉を持たない。

 ただただ僕は脅威の芽を摘んだに過ぎないのだから。


 

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