第12話 ツルギ警察署再び
AM11:30
お昼を食べてから警察署に行くか、警察署に顔を出してからお昼を食べるかと言う悩みを抱えながら私と長官は結論を出せないままツルギ警察署に到着した。
コンクリートで建てられているであろう警察署は相変わらず重厚な雰囲気を醸し出している。
それはやっぱり全ての窓に鉄格子が付けられているのと、くたびれた警察のマスコットキャラクターの看板が醸し出しているのだろう。
入口を過ぎると受付が並んでおり、昨日対応してくれた生活安全課の受付へと足を向ける。
昨日と打って変わって、殆どの警察官が出動しているのか中はがらんとしてもぬけの殻に近い状態だ。
それでも各受付にはちゃんと婦人警察の方が座っており私が近づくと声を掛けてくれた。
「こんにちわ。本日はどう言った用件でしょうか?」
「あ、こんにちわ。私特区管理局の夕紙と申します。昨日の件で伺いました。山本様はおられますでしょうか?」
取り敢えず昨日対応してくれた山本という男を出して貰う事にした。
ある程度話しの内容が通っているだろうと推測しての事だ。
「少々お待ち下さい」
そう言うと婦人警官は立上り後ろの机に行き、何やら話しをしている。
そこには昨日見た山本は居らず、頭の禿げ上がった壮年の男性と茶髪の年の若そうな青年が居るだけだった。
どうでも良いことだけど、きっと頭の禿げ上がった男はデカ長なんだろうなぁ~とか考えていた。
「あいにく山本は外出しておりまして用件は僕、
一見丁寧だが、私と私の後ろに立っている後藤長官を値踏みするかのように睨め付ける青年は保城と名乗った。
そう言ってにっこり笑う彼は歯が白い。
そして珍しい名字だな。
それ以外の感想はない。
元々文学少女の私にはこう言う茶髪のちょっと軽いノリの男性は苦手である。
どちらかと言うとアサヒさんみたいな童顔の可愛い系が好み……って何考えてるんだ私!
「よろしくお願いします」
平静を装いつつ挨拶を交す。
こんな時にまで私を虐めるなんてアサヒさんは酷い人だ。
こう言う対応は若干苦手ではあるが仕事だし、長官の手前取り敢えず私がやれる事は私がやらないと。
保城の後について受付後ろの面談スペースの様な所に移動する。
こういうスペースがあるのなら昨日もここで良かったんじゃ無いだろうか?
何故わざわざ昨日は取り調べ質のような所の移動したのだろう?
ほんの少し疑問が頭を過ぎったが私はそう深くは考えなかった。
「どうぞどうぞ」
促されるままに着座する。
ここまで一向に喋らない後藤長官はスマートフォンを広げながら何やら調べ物をしている様だ。
「それじゃ、今日はどう言った用件なんですか?僕あの山本巡査にこんな美人が二人尋ねてくるなんて興味あるなぁ~」
衝立があり周囲から見えないからか保城は途端に相好を崩し前屈みに訪ねてきた。
一体何なんだコイツは。
美人な~、とか言いながら、さっきから私の胸の谷間しか見てないし。
きっとこんな倫理観の薄い警察官がVR売春法違反とかで捕まるに違いない。
私は保城が前にかがんできた分後ろに反るように動き、その姿勢で拒否を表す。
それに何を勘違いしているのか、私たちは山本の為人も知らない。
「ごほん、昨日我々特区管理局が問い合わせたご遺体の件で本日伺っております。山本様から引き継ぎか若しくは言づてのような物は無かったのでしょうか?」
わざとらしく咳をし、この軽薄男の興味とは別の話をする。
「え~、僕そういうの聞いてないからさぁ~、分かんないかな」
またもやにっこりと笑う保城は歯を見せるように笑う。
このタイミングでこういう風に笑えるとはちょっと信じられない。
「そ、じゃぁ分かる人出しなさい。私たち暇じゃないの」
簡潔に後藤長官が頬白に言う。
先程から何か調べ物をしているらしく今もスマートフォンを膝に置き空中に固定された拡大画面をひっきりなしに操作している。
その様子はまるで、アンタなんか眼中にないと言って居るような物だ。
それを気にした様子もなく頬白はそれでも話す。
「いや~分かる人って言っても山本さん朝から出て行ったままだし、誰も分からないので~」
「そう、無能なのね、貴方達」
ちゅどーーーーーん!!
爆弾投下!
まさかの無能発言!
「き、きっついな~。それに無能ってちょっと酷くないですかぁ?」
頭をポリポリかきながら保城は言う。
「じゃぁ、隠してること――――言いなさいよ」
「や、やだなぁ~。何にも隠したりしてないですよぉ。あ、あはは」
なんとも白々しい乾いた笑い声を上げる保城。
流石にこんな態度を示せば勘の鈍い私でも判る。
何か、あったのだろう。
警察署が特区管理局に隠したがる何かが。
問題はそれが何か、なのかだけど。
「あらそ、じゃぁ聞くけど、ほんの40分程前なんだけども此処からほど近いツルギ総合病院に山本孝典という39歳の男性が緊急搬送されているのだけど心当たりないかしら?一応職業は刑事となってるみたいだけど」
「ちょっとアンタそれ何処で!」
ガタッという音を立て頬白が勢いよく立ち上がる。
「なんだ、在るんじゃない―――――――――――隠し事」
悠然と足を組替えながらそう言う後藤長官に、場違いながらも、この人に業務改善など提案出来ない事を私は悟った。
少しの間保城と後藤長官が睨み合う。
先に目をそらしたのは保城だった。
「―――っ、少々お待ち下さい」
そう言って顔を歪ませながら保城は足早に立ち去っていく。
「ガキが一丁前に」
逃げる様に立ち去った保城の背中を見送りながら後藤長官は、その様子を「ふん」と鼻で笑う。
「長官さっきの情報はどこで?」
「ああ、日本全国で一応それらしい被害があった場合、必ず特区管理局に情報が流れるの。勿論情報源は消防と病院よ」
し、知らなかった。
そんなシステムがあるなんて。
「警察はダメなの。隠蔽体質だからね――――それと夕紙さん、良いかしら?情報共有しときたいからこの資料メールしておくわね。内容は10:48分頃にツルギ総合病院に山本孝典39歳男性、高田春菜33歳、此方は多分検死係ね。後は身元不明の女性の遺体、年齢は20代前半~中頃と予想されてるみたいね。死後1週間近く経っている身体の至る所が損傷しているわね。どうやら検死を行う為に搬送中だったいなの」
死後1週間近く経っている女性のご遺体って言えば―――
「長官、そのご遺体って――――」
「ええ、まず間違いなく昨日貴方達が観たご遺体でしょうね。何しろお腹が裂けていたらしく、まるで内部から食いちぎられた様だと報告があるわ」
「まさか!」
「ええ、そのまさかよ」
私の頭の中で最悪のシナリオが過ぎる。
「孵化したのよ。MEが」
「そんな!」
「恐らくだけどね―――――情報を元に私が建てた推理はこうよ」
驚く私を余所に後藤長官は自身の導き出した推理を話し出した。
最後にじっちゃんの名にかけてとか言い出さないか少し心配だ。
「司法解剖するためにME被害女性のご遺体を搬送する事になった。その時に山本孝典さんが後で合流するであろう、あなたの為に窓口となる為一緒に移動する事になった。若しくは只、指令を受けて搬送に付き添っただけなのかも知れないけれども。そしてその最中にご遺体からMEが孵化。ご遺体の様子がおかしいことに気付き途中で車を停車し後部のドアを開けたところを、がぶり。って言うのが大きな流れかしらね?そして偶々通り掛かった救急車の通報により、皮肉にも元々の目的地だったツルギ総合病院に到着した」
「孵化したMEは―――」
「逃げたのでしょうね。そして今大慌てで警察がMEを探している所って感じで良いかしら?」
後藤長官がそう言うと衝立の向こう側からのっそりとした様子でデカ長さんが禿げ上がった頭を叩きながら入ってくる。
「いや全く、殆どその通りです。流石は特区管理局長官殿」
「おべんちゃらは宜しくてよ。それで何匹逃げたの?」
「山本の話では、5匹―――緑色の体躯で全長60センチ程、内一匹はその他の化け物より二回りほど大きかったそうです」
「化け物――――ね」
化け物と言っている時点で警察にMEの情報がほぼ皆無なことが分かる。
それに気付いた後藤長官はため息をついたのだろう。
「ただいま捜索中ですので直ぐに見つかると思います。少々おま―――」
「何を根拠に言ってるのかしら?直ぐに見つかると」
「え、いえツルギ警察署総力を挙げて捜査し―――」
「へぇ~警察官が総力を挙げれば見つかるんだ?」
意地悪な質問だ。
みればデカ長さんは緊張からか汗だくだ。
警察にMEを探す探知機など在ろうはずもない。
何しろ警察は人間専門の機関だ。
「夕紙さん、大至急BH手配、2課集合させてちょうだい。あ、後は此方で引き受けますので事故のポイント、MEの逃げた方向、ああ、後被害に合われた方の状況、教えて下さるかしら?」
「いえ、しかし――――」
「あら、あなたはこう言いたいのかしら?自分のケツは自分で拭くと?それがふけるケツなら私も何も言いません。今こうしている内にも被害者がでて女性が孕みそれがまた孵化しと繰り返せばあっという間にこのツルギ地区はMEに占領されてしまうわよ。その責任も警察は取れるとおっしゃられるのでしたらどうぞご自由に探して下さい。その安っぽい威信とやらを賭けて」
後藤長官が立ち上がる。
私もそれに習い立上ると長官の後を慌てて着いていく。
「まって下さい――――わ、私が言ったって事内緒にして頂けますか?」
デカ長が折れた。
いやデカ長かどうかは分からないけど。
「ええ勿論よ。なんなら、今の署長を首にして、次のツルギ警察署署長はあなたにって警視総監に推しておくわよ」
にっこりととてもいい笑顔で笑う後藤長官。
この人なら本当にやりそうだ。
何となくそんな事を思いながら私は後藤長官と共に、デカ長さんの説明を聞いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます