第16話 作戦会議 エクスカリバー編
PM 13:22
まぁ、そんなわけで僕らはエクスカリバー内のS.Z.Aツルギ支店に戻ってきていた。
実は支店は42階というビジネスフロアの結構な上部に位置する。
そして会議室からは階数に伴う眺望が望める。
10回以上此処には来ていたが、会議室に入るのは初めてで、中々の絶景だ。
エクスカリバーは連なる山脈の中程に位置している。
其処から地上42階と言う事は約130メートル程上空からの景色になる。
もう十年も前なら冬場には雪景色なんか見れたかも知れない。
棚にはお茶請けのお菓子が並んでおりテーブルの中央には象の印のポットが鎮座している。
それだけで此処が普段どういう使われ方をしているのか伺うには十分だ。
それに何よりこの部屋に来た途端、山田さんがお茶の準備を始め現在既にお茶請けまで並べられている。
「なんか緊張感ないわね」
たぶん皆が思っていてた事を姉さんが代弁してくれた。
だがそう言いながらも「あらこのお茶おいし」とか言ってお茶を啜っている。
「はぁ~、暖かいお茶って良いわね~」
「まぁ和むのも良いんだけど、そっちはどうなの?姉さんの事だからちゃんと手配してると思うけど」
「ええちゃんと2課から招集掛けてるから近場にいるメンバーならたぶんもうすぐ来るわよ」
「誰?」
「瑛人と由奈」
「なるほど・・・・流石におっとり姉弟だけじゃないだろ?他は?」
流石に二人って事は無いだろう。
瑛人事、エイトマンは忍者と言うJOBの持ち主で戦闘面はあんまりだけど偵察に関しては右に出る者を僕は知らない。
ユーナはアイテムマスターのJOBの持ち主だ。
アイテムマスターはアイテムに関する知識、製法、使用効果が上昇する等で様々なサポートを行うJOBだ。
この二人は姉弟で常に一緒に行動し姉のユーナが弟のエイトマンをサポートし、様々な任務を熟すエキスパートなのだ。
なんだが、二人とも非常におっとりしていて超がつくほどマイペースなんだ。
直ぐ来るかどうかが一番の心配所だ。
「あー、後はね~・・・」
姉さんが言い淀む。
こういう時は限って奴が来る。
フリーのBH、しかもJOBは僕と同じ勇者。
そして奴が来るって事はその取り巻きも来るだろう。
「教会が来るんだね」
「・・・うん」
彼らは戦力としては優秀だし悪い人達じゃ無いんだけど、苦手なんだ。
「教会って、あの白鳳凰教会ですか?」
「ああ」「そうよ」
眼をキラキラさせた夕紙さんが其処にはいた。
「私ファンなんです~」
「ええっと・・・・」「ずずず―――」
取り敢えず放置しておこう。
教会の勇者、タスクはイケメンだし、中にはこういう人も居るだろう。
別に悔しくなんか無いもん。
無いったら無いもん。
「他は?」
「今のところ以上」
「マジで?」
「マジよ」
「・・・・・はぁ~」
コレはちょっと今回本気で掛からねばヤバいかもね。
装備其処まで用意してないんだけどね。
「一応4課にも声掛けては居るけど・・・」
「4課か~・・・サードエイジには荷が重くない?」
「4課ってレンヤ君達ですか?私あの人達苦手で・・・」
夕紙さんがしかめっ面をする。
過去に何かトラブルでもあったのだろうか?
あの我が儘坊や達なら何かトラブル起こしててもなんら不思議は無いな。
「せめてラビが来てくれたらな~」
ずびーっとテーブルに伸びて伏せてしまう。
ラビは数少ないファーストエイジの生き残りだ。
迷宮にばかり潜っていることからラビリンスの頭二文字を取ってラビと呼ばれている。
性格に難はあるが基本真面目で一本気な男だ。
何より彼は前線でがっつり戦えるサポート職、
職人肌のサポートは前線で戦う者からすると何者にも代えがたい戦力になる。
せめてもう一人同じ世代のBHが居たらな・・・。
これからの事考えると頭が痛い。
「声は掛けたんだけどね~。あの子は迷宮入してるから、今。たぶん来られないよね~」
「そうなんだけども、其処を長官特権とかでなんとかしてよ」
「――――出来たらしてるわよ」
やっぱりか―――
恐らく今回のMEの氾濫を本部、と言うか僕ら以外の人達が甘く見てる節がある。
何と言ってもゴブリンだからね。
ゴブリンぐらいS.Z.Aで何とかしろってなもんなんだろうね。
被害が出るまで放置の精神は何処まで行っても変わらない。
確かに僕達は強くなっている。
それは経験を積んだからだ。
結局政府は十八年前のあの事件から何も学んでいない。
たかがゴブリン。
されどゴブリンなのだ。
誰かが死んでからは遅いのだ。
「どうせ姉さんの事だから僕がいるから大丈夫とか大見得切ったんでしょ?」
「うぐっ」
「図星か」
「私「うぐっ」とかリアルで言ってる人初めて見ました」
「夕紙さん、そう言うの心の中で思うだけにしてると良いですよ」
大見得切ったとか言わしてるけど結局は大見得切るしかなかったのだろう。
幾ら姉さんが長官という立場に居ても出来る事は限られる。
結局最後は上に伺いを立てねば何も出来ない。
お役所の辛いところだ。
取り敢えず、僕は僕が出来る事をしよう。
「姉さん、僕の装備取り寄せて、出来るだけ早く」
流石に今回はティルだけじゃ心許ない。
僕には三つの装備があるんだ。
「あと、夕紙さんは久樂博士に今回の経緯と僕の考察まとめてデーター化して送っておいて下さい。十五時までに」
「え?十五時までってあと一時間くらいしかないじゃ無いですか!」
「大丈夫、僕はもうそろそろMEがエクスカリバー付近に到達するみたいだから討伐してくるよ。姉さんはそれまでに出来うる用意、全部しておいてね。あ、後内緒にしている何故ゴブリンがエクスカリバーに向かってくるかの理由も後で教えてね」
そう言ってにっこり笑い僕は会議室を後にする。
やっぱり僕にはこう言う会議とかは性に合わない。
ずんばらりんとMEを切り裂いてる方がいい。
姉さんが後ろで何か言ってるけど僕はそれを無視する。
足早に会議室を後にすると、僕はヘルメットの顎の部分のスイッチを押しいつもの様に通信を開始する。
「此方BH001アサヒ―――聞こえる?」
「ジジッ――――此方エス・ゼット・エー本部。ええ、聞こえてますよ」
「もうすぐゴブリンが来るからはずだから迎え撃つよ。」
「
「了解致しました。
何時もの様にLoonが体中を巡り始める。
僕はエレベーターで1Fへと降りつつ、こんな場所でもLoonが存在すると言う事を実感する。
――――世界は既にLoonに覆われている。
だったかな。
久樂博士の言葉だ。
今世界を巡る異常はLoonの仕業だという。
どういう原理かヒートアイランド現象による世界の破滅の心配はなくなったらしいが気温は下がったりはせず、今も高いままで維持されている。
その結果日本には冬は来なくなった。
四季はなくなり春と秋の間に長い夏がある。
まるで熱帯雨林地方の様な気候だ。
それでも春には桜は咲き、秋には山は紅葉に染まる。
だけれど、変わりゆく世界に不安を覚えない者は居ない。
「ティル―――索敵だ」
「ラジャー――――スープラライトゥイングシステムキドウ―――――ショウシャカイシ」
MEはさっさと駆除するに限る。
何故姉さんがさっきは放置させたかは分からないけど、僕から言わせて貰えばMEに吸わせる空気すらこの地球上にはないんだよ。
見かけたら即殲滅。
コレに限る。
1Fのロビーに出ると抜き身のティルを持って歩く僕に警備員が血相を変えて近寄ってくる。
そりゃそうだ。
僕はクエストカードを提示し「すいません、緊急事態ですので」と声を掛け通り過ぎる。
警備員はクエストカードを見ると「BHの方でしたか」とさっと敬礼すると持ち場に戻っていった。
流石一流企業TURUGI.COの警備員。
これがそこらの工事現場の警備員だとこうはいかない。
ロビーを駆け抜け外に出る。
すると途端に暑い日差しが僕を照りつける。
暑いなんて言ってられないけどやっぱり暑い。
「ティル?索敵結果は?」
「―――コウノウドLoonシュウイ100メートルニ8、7ツ、オソラクゲンザイコウセンチュウデス」
「交戦中?場所は?」
「コッチ――――」
僕は握りしめたままのティルに引っ張られるように走り出す。
エクスカリバーのエントランスは広く、ホテルの様に車が周回出来る様な作りになっいて所謂ロータリーの様な仕様だ。
その先は幅広い片側通行の道路なのだがその先は切り立った崖になっている。
ああ、なぜこんな説明してるかって?
それは勿論ティルの指し示す先がその切り立った崖だから。
手を離せば良いのだろうけど一応これでも勇者である。
高所ぐらい―――――
「うぁぁあああああああああ――――――」
なんとかなる、けど。
Loonによって強化されているとはいえやっぱり高い所から飛び降りる時はこう何て言うか男性部分がきゅっと縮こまる。
「うっひゃぁあああああ―――――」
降下しながら杉の木を蹴り、木々に飛び移りながら目的の場所へと移動する。
其処には白い鎧に身を纏った人がゴブリンを一方的に蹂躙していた。
一瞬あれ?ここコスプレ会場?と見まごう風景だ。
白い鎧を着た人以外にもエキセントリックな衣装を着た女性や長い帽子を被った中年男性、戦士風の鉄鎧に大きな斧を持ったひげ面の男が居たからだ。
ゴブリンと交戦していたのはコスプレイヤーもとい、白鳳凰のメンバーだった。
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