第25話 邂逅
「よっと」
僕は木々を足場に高速移動しさっき由奈がバルカン砲で無双していた所まで戻ってきていた。
そこはまだかすかに肉と木々の焼け焦げた匂いが漂っている。
さっき確かにエイトマンは何かが来ると予感していた。
彼のそう言う感覚は馬鹿に出来ない確率で当るのだ。
ちなみにエイトマンは勿論あだ名だ。
決して瑛十が変身してエイトマンになる訳ではない。
そんな訳で彼の『予感』を信じて来てみたのだけど何も無い。
今回はどうやらエイトマンの予感は外れたみたいだ。
周囲を見渡すと辺りにはバルカン砲でなぎ倒された木々と肉塊と化したゴブリンの死骸が散乱しているだけだ。
有事でなければゴブリンの耳切ってお小遣いにするんだけどな。
なんて事を考えながらゴブリンの死骸を見ていたのだけど、どうにもなんか引っかかるのだ。
このゴブリンの死骸、なんか違うのだ。
何が違うと言われたら答えにくいのだけど今まで駆除してきたゴブリンと少し変わっている様に見えるのだ。
そう言えばオペレーターとの通信で由奈とエイトマンがゴブリン似の未確認MEに追われていると言っていたな。
コイツらがそうか。
ちょっとサンプルでも無いかな。
今後の為にもなるべく綺麗なゴブリンもどきの死骸を僕は探す事にした。
少し探すと丁度木の下敷きになって死んだと思われるゴブリンもどきを見つけた。
そこそこ大きな木だが勇者設定中の僕には軽い物だ。
「よいしょっと」
木を後ろに放り僕はゴブリンもどきの死骸を少し広いきれいな場所に移動させる。
血肉飛び散った場所できれいな死骸も何もないのでね。
ゴブリンもどきの死骸を少し小山になった所のてっぺんに仰向けに寝かせる。
「万物の母なる水よ―――『
丁度胸の辺りに60センチ程の水球を創りだしそれをゴブリンもどきの死骸にかけ表面の汚れを洗い流す。
ちなみに勇者はある程度の魔法を使えるしなんなら某ドラ○エみたいに勇者専用魔法もあるのだ。
「スマホで撮影してと……」
スマートフォンでゴブリンもどきの全体を撮影し、次に頭部、胸部、腹部、股間、太股、脹脛から足先、上腕部と肘から指先までを撮影していく。
今度は裏返すと先程と同じように『
業務だと割り切り淡々と撮影していくがゴブリンもどきと言えど人型のMEの死骸を手に取るのは、やはり気持ちの良い物では無い。
「ああ、とっとと終わらして担々麺食いたいな~、出来れば鬼辛いやつ」
ぼやきながらも撮影したデーターを本部に転送する。
そしてスマホ内の写真データーは勿論即刻消去する。
死骸の写真データーがスマホ内にあるなんてなんか験が悪い気がする。
一通りの作業を終わらせると周囲をもう一度見渡す。
倒木に紛れ正確には数えれないが大体50~60程度の死骸があるように感じる。
「ザザッ―――ちょっと!浅日さん!!何ですかコレ!!」
「うわ!ちょっといきなり声大きいよ。何だよ」
「何だよじゃないですよ。いきなりゴブリンの死体の写真送りつけてきてこっちが言いたいですよ何なんだと!」
お、おう。
やっぱり先に連絡入れておくべきだったか。
また単独行動してとか怒られそうだったから無言で写真データ送ったんだけどね。
どうやら手越オペレーターはそれがお気に召さなかったようで。
「――――ですよ!ちょっと、聴いてます?」
「ああ、ごめん。聴いてるよ」
「ホントですか?」
どこのカップルの会話だよ。
こうやって聴いてるよとか言ってる奴は間違いなく聴いてないよね。
何故なら今自分が実践してるからよく分かる。
手越オペレーターとの今の会話の内容より、どうにも前回の通信の内容が気になって仕方ない。
僕の記憶が正しければ―――
「ホントごめんって。それより手越さん。さっきSOSが来た時のなんだけど……通信の内容覚えてる?」
「え?ええ。通信の内容は自動で文字化されて保管されていますから直ぐに見れますよ。なんなら録音データーもあると思いますけど」
「いや、読み上げてくれたら良いよ」
「ちょっと待って下さいよ」
て言うか、録音されてるのかよ。
あんまり馬鹿な事言えないね。
それにしても勝手に録音とかコンプライアンスどうなっているんだろうね特区管理局。
僕が知らなかっただけなのかな。
「ああ、あったあった。読みますね」
「お願い」
「ええっと――――
「現在山崎山中腹でBH032、033ユーナ特派員とエイト特派員が未確認MEと交戦中です」
「場所と数は?」
「場所はリンクを送ります。数は随時増殖中です。現在212匹」
「了解。すぐ向かうよ。二人の誘導お願いね」
「了解致しました。エクスカリバーに誘導で宜しいですか?」
「いや、僕に誘導してくれれば良いよ」
「ですが―――「大丈夫」―――了解しました」
――――以上になります。」
どう見ても死体の数と報告のが合わない――――
木々が倒れ少し開けたからか風がよく通る。
少し強めの風が木々を揺らし葉は音を鳴らす。
その乾いた音で僕の中の不安は少し増幅された。
「やっぱりだ」
「どうしたんですか?」
「僕の、と言うかエイトマンの『予感』は正しかったって事みたい」
「話しが見えてこないんですけど??」
「数がね全然合わないんだよ。死骸の数と」
「え?殲滅したんじゃなかったんですか?」
「そんな報告受けた?」
「いえ……」
手越オペレーターは優秀だ。
優秀が故に予想してしまうのだろう。
それは経験に基づいた予測である程度の的中率を誇るのだろう。
だから由奈とエイトマンが無事エクスカリバーに到着したという報告を受け、僕の行動を併せて予測すれば恐らくMEを殲滅したと予測したのだろう。
所謂経験則と言う奴だ。
ちなみに僕もBHとしての経験は長い。
恐らく現存する現役のBHの中では最長なのではないだろうかと思う。
故に僕にも経験から基づいた予測みたいな物を立てる事が出来る。
そんな僕の勇者としての勘が言っている。
アレはダメだと。
見てはいけないと。
拘わってはいけないと。
「おかしいな…」
「どうか、しました?」
「ああ、さっきまで誰も居なかったんだけどね。少し離れた所にちょっと変わった感じの人がいつの間にか居るんだよ」
「どう言う事ですか?」
「――――ああ」
生返事しか返せない。
そんな事もうどうでも良い。
僕の視線の先に半裸の青年が立っている。
一目見たときから僕はその青年から目が離せなくなっていた。
まるで彼から眼を離したならば、その一瞬で自分が殺されてしまいそうで。
男性にしては少し長い髪はきれいな金髪で顔も如何にもな西洋人風。
まるでハリウッド映画のアクション映画に主役で出て来そうな二枚目っぷりだ。
そして上半身は裸でほどよく締まった身体は精悍さをうかがえる。
衣類のような物は着ておらず、腰に何か簡単な布を巻いているだけのなんともワイルドな出で立ちだ。
何より眼を引くのはその肌の色だ。
薄い緑色をしており、まるでその色は僕の目の前に転がっているゴブリンの肌の色と同じだ。
悠然と立つその青年は風に吹かれきれいな金色の髪がなびいている。
なびく髪を鬱陶しそうにかき上げ彼は此方に向かい歩いて来た。
彼の後ろには森が広がっておりその森の中には恐ろしい数の赤く輝く双眸が控えている。
本来なら十分脅威である100を超えるMEの存在。
そんな物どうでも良くなるほどの圧倒的な存在感が彼にはあった。
「ふむ。こういう時はこんにちはというのか?この国では」
それが彼が発した言葉だった。
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