第40話 クリオス・フェノールという男
「教えてやろう。クリオス・フェノール興は……いや、大罪人クリオス・フェノール、彼は愛する者の為に我らの世界イスガルドとお前等の世界、ここアースを悪魔に売ったのだよ」
もう理解が追いつかなくなっていた僕等はギュスターの語る突拍子もない話しに誰も返事をしなくなっていった。
「ふん。つまらんな」
僕等の様子を見てかギュスターはそう呟くとソファーから立ち上がった。
そして僕等を睥睨するかのように眺めるとこう言ったのだ。
「不思議に思ったことは無いのか?なぜお前等の言うMEが世に出た拍子にBHなる対抗できる者が作られたか?不思議に思ったことは無いのか?核とは一体何なのか?Loonとは一体何なのか?お前等が頼る久樂とは何者なのか?不思議に思わなかったのか?世に全く魔導の知識が無いのにも拘わらず次々とそれを解明する男の事を?」
正直言葉が無かった。
初めて会った久樂博士はLoon研究の第一人者でありBraveHeartと呼ばれる勇者を生み出す核とのリンクを確立した天才研究者という肩書きだった。
10歳と言う幼い時からの付合いは時間を重ね、信頼へと変わっていく。
そんな信頼する久樂博士を、疑うと言う思考すら僕等は脳内に持ち合わせていない。
同時に僕等にはギュスターの問いに語る答えを何一つ持ち合わせていなかった。
「―――――クリオス・フェノールにはな愛する者が居た。名をエイジアと言った。彼女は貧民であったが運良くクリオス・フェノールと出会うのだ。二人がお互い愛し合うにはそれほどの時間は要らなかったと聞く。そうしてエイジアとクリオス・フェノールの二人の関係を疎ましく思った一部の心無い者によりエイジアは虐殺される。それも全くの冤罪で。元々力ある錬金術師だったクリオス・フェノールは冤罪を謀った者とそれを実行した者、その全てを尽く一族郎党皆殺しにした。此処までだったら何処にでもありがちな三文芝居見たいな話しだ」
そう言ってギュスターは奥にあった棚からガラスの瓶を取り出してきて、どこから出したのか上等なロックグラスに琥珀色した液体を注いだ。
舐めるようにちびりとその液体を口にするギュスターだったが、その顔は何処か浮かない表情だ。
「そこからがクリオス・フェノールの脅威的な所だ。奴はエイジアを蘇らす為だけにその人生の大半を費やした。そして奴が導き出した答えが『賢者の石』だ」
賢者の石――――
また知らない言葉が出て来た。
それにしてもギュスターはよくある三文芝居と言うがそんな一族郎党惨殺するような三文芝居がそこら辺に転がって貰っても困る。
僕等の困惑を余所にギュスターは話しを続けていく。
「元々賢者の石とは錬金術師の夢の様な与太話だ。古くから言い伝えは残っているが誰もそれを作り上げることは出来ない。だがその効果は伝説となって残っている。錬金術士が夢見る効果、それは不老不死と復活だ。クリオス・フェノールはすぐさま賢者の石を作った。莫大な犠牲を伴ったが。それでも作ってしまったのだ。そしてエイジアを復活を行う時に分かったことがあったのだ。エイジアの魂は其処に無いと。それを知ったクリオス・フェノールはエイジアの魂を探すため悠久の旅人なったのだ――――――――そして今に至る」
今に至るって。
「結局エイジアって人の魂は見つかっていないのか?」
樋口さんが不意に質問を投げかけた。
「ああ、だが奴は見つけたのだ。その魂を―――――この世界で」
「ちょっと待って。この世界に見つけたからと言ってどうして世界を一つにする必要があるの?」
僕はその時思った事をギュスターに聴いてみた。
「最初は俺も分からなかったんだがな。こっちに来て分かった。此方の世界では魔導が使えないから。だから使える世界に変えたのだろう」
何ともシンプルな答えだった。
それはもう寒いから服を重ね着すると言う答えぐらいシンプル。
使えないから使えるようにした。
只それだけ。
それも愛する人を蘇らす為だけに。
聞き様によってはロマンチックに聞こえ無いくは無いが、そのお陰で僕等人類の総数は二分の一程度まで減少している。
そう考えると恐ろしい程端迷惑な話だ。
「なぁ、なんでアンタそんな事教えてくれたんだ?そして何でそんな事まるで見てきたように知っているんだ?」
またも樋口さんが訝しむ様にギュスターに問いかける。
「何故教えたか、か――――そうだな、あのクリオス・フェノールに一杯食わせたかった、からとかかな……フッ」
そう言ったギュスターはちろりと琥珀色した液体を舐めた。
「クリオス・フェノール卿はな、俺達アリストクラットの長で有り魔王『――――』の一番の腹心だったのだよ」
ギュスターはグラスを一気に煽るとこう言った。
「それに、どうせもうすぐ死ぬお前等に何を言っても大差在るまい。それよりも良いのか?この洞窟の手前でお前等の仲間が来て居るぞ?」
「――――良いのか?とは」
ニタリと嗤うギュスターに僕は問う。
コイツはどうやら問答が好きなようで、何かしら疑問をわざと残すようなそんな喋り方をする。
正直面倒な奴だ。
「嗚呼、すまない、すまない。何というかだな――――――このまま放って置けば入口の者どもは恐らく死ぬがそれでいいのか?仲間の最期ぐらい看取ってやらないで良いのかと?そう言っているのだ」
遠回しに言っているがどうやら洞窟入口で誰かに危機が迫っている。
そう言っているらしい。
「良いのか?」
今度は僕が問う番だ。
僕等を逃して――――それとも僕等と戦わずして――――か。
そんな意味も込めて僕は聞く。
良いのかと。
「ああ、構わない。その代りといっては何だ、俺の作った妖魔ファナティスそれと戦え。俺の望みはそれだけだ」
□■□■□■□■□■
洞窟の入口から不意にドロリとした気配を感じる。
BH全員が一斉に其処に注視する。
「な、何?」
後藤長官がその一種異様な反応に焦りを見せる。
「来るぞ」
誰かが言った。
その瞬間ドパァッと言う音と共に黒い津波が洞窟から溢れ出した。
「セィントウォーーール!!!」
皆が呆気に取られている中、意外なことに最初に動いたのは結香だった。
洞窟の入口を出た直ぐの所に光の壁が瞬く間に現れ黒い津波を押しとどめたのだ。
「伏せて!」
私は即座に腰に留めたパイナップルを投擲する。
液状だった黒いMEの中心部に見事投げ込まれたパイナップルはボスッと言うくぐもった音を発すると黒いMEをちりぢりに吹き飛ばした。
「おお」
誰かが感嘆の声を上げた。
恐らくD班の誰かだろう。
このパイナップルは私が使うことでその威力を大きく底上げしている。
熊ぐらいなら余裕で跡形もなく吹き飛ぶだろう。
そして今現に黒いMEも吹き飛んだ。
なのにこんなに焦燥感が募るのは何故なのだろう。
「楽勝じゃん、さっすが」
そう良いながら軽い調子で清水源樹が洞窟の入口に近づいていく。
「ば、馬鹿!逃げ―――」
「え?」
ドシュッ――――
清水源樹が私の声に反応して此方を向くのとその胸から背中に掛けて黒い槍が貫通するのは全くの同時だった。
「ガッハッ―――」
口からおびただしい量の血液を吐き出しそのまま清水源樹はその場に倒れ伏した。
「きゃぁあああ!」
「げ、源樹!!!」
C班からは場違いな悲鳴が上がり、D班の少年は名前を呼びながら倒れた清水源樹に駆け寄っていく。
その直後だった。
ザシュザシュザシュ――――
彼は倒れた清水源樹に近寄ることさえ出来ず、突如地面から生えた無数の黒い槍にその下半身を貫かれた。
「ぎゃぁああああああああ!!」
その時私は見てしまった。
ちりぢりに吹き飛んだ黒いMEの欠片が、地面に飛び散ったその欠片が瞬時に円錐形に変化したのを。
その一瞬で理解した。
只でさえ難敵だった黒いME。
その敵の難易度が更に上がったのだ。
そして私の判断ミスで後輩二人を死に追いやったのだ。
「由奈!」
突如襟首を引き倒される。
その直後私の目の前を黒い槍が通り過ぎる。
そして体勢を崩し背中から地面に倒れ込んだ。
「……ぼうっとするな」
其処には瑛十君がいた。
その表情は普段と全く変わらない。
「ありがとう」
「うん」
素早く立上り周囲を見渡すと皆は一瞬恐慌状態に陥ったみたいだが今は皆臨戦態勢を取っている。
不意に瑛十君が「あれっぽい」と呟くと何かを投擲した。
即座にカキンと言う固い音が返ってくる。
どうやら手裏剣を投げたらしい。
「……コアがある」
そう瑛十君が指刺す方に確かに私たちBHの核に似た赤い握り拳大の宝石がある。
それを守るかのように黒いME地を這いコアの周辺に集まっていく。
そして欠片達は次第に赤いコアを包み込んでいく。
「……もう一度爆発でコアを露出させて。その後に――――切る」
「分かった」
あのコアが弱点かどうかは分からない。
でも私たちに残されてる手段は多くない。
なら、出来る事をするしかない。
既に黒い欠片は徐々に元の人型に成ろうとしていた。
「皆、もう一度爆発でアイツを吹き飛ばすわ。だから――――退避して」
声を張り上げ皆に伝える。
即座に「何言ってんだ」と言う反論が返ってきたが無視だ。
私は最後のパイナップルを黒いMEに向けて投擲する。
そして投げると同時に退避を行う。
それを見た皆は慌てた様子で退避していく。
ドガァーーン
完全に集まり切れていなかった黒いMEは足下に転がってきたパイナップルで盛大に吹き飛ぶ。
これだけでコアが壊れてくれれば儲けものなのだがさっきも壊れなかったんだ。
壊れる確証はどこにも無い。
露出した赤いコアが地面に転がっている。
やはり壊れなかったらしい。
瑛十君は背中の刀に手を掛けると一直線にコア目掛けて駆けていく。
その途中に黒い槍に幾度となく襲われるのだが嘘のように紙一重で躱していく。
そして抜き放った刀でコアを空中に掬い上げたかと思うとキン―――という棲んだ音が響いた。
カチャンと言う刀をしまう音が聞こえると赤いコアはまるで煙のように消滅していく。
それと同時に黒いMEも液状に成りそのまま地面に染みこんでいく。
そのまま瑛十君は清水源樹の方に歩いて行く。
その傍らに座り込むとそっと顔に手を当て瞳を閉ざした。
どうやら彼は既に息を引き取っていたらしい。
もう一人の少年は重傷には変わりないが未だ息はあるみたいだ。
瑛十君がC班を呼んでいるのがその証拠だ。
私は警戒しつつ皆の方に歩いて行く。
皆が皆下を向いている。
それはそうだ。
仲間が死んだのだ。
今し方、目の前で。
悔しさ、悲しみ、色んな感情が沸いて然るべきだ。
「あっれ~~~~?源樹死んじゃったのぉ?なっさけなぁ~い」
決してこんな軽い口調で喋っていいはずは無い。
ましてや死者を冒涜して良いはずも無い。
私は軽い調子で声を掛けるソイツを睨み付けた。
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